08.フェンリル来る、JK来る



 俺、飯山界人は、ある日異世界を行き来する不思議な鏡を手にする。


 異世界で肉焼いて食っていると、フェンリルが入ってきた。

 そいつに肉を食わせたところ、従魔じゅうまになると言い出してきた。


『おお! なんだこれは! この箱はなんだ!?』

「テレビだよ」

『テレビ! なんと面妖な! 板の中で人が動いておるわ! こんなぺらっぺらの板なのに! なんと不思議な!』


 大型犬がくるくると、テレビの周りを回っている。

 いや、いやいや……。


「フェンリルさんよ」

『む? 主よ、一つ良いか?』

「え、あ、ああ……なんだよ」

『吾輩の名前をつけるが良い』

「名前?」

『うむ。吾輩は貴様のペットになったのだ。名をつけてもらわねばこまる』

「フェンリルは種族名だもんな……」


 さて、どうするか……。

 てゆーか、成り行きでペットとしてこの馬鹿でかい犬を飼うことになったが……。


 まあそうだよな。

 ペットとして飼うことになったんだ、名前くらいないとな。


「じゃあ……フェリ。フェリはどうだ?」

『うむ、良かろう。なかなか良いセンスをしておるな!』

「それはどうも……で、フェリ。なんでおまえ、現実こっちにいるんだ?」


 肉を焼いていたのは、異世界だったはず。

 しかし俺がいったん世界扉で、現実へ戻ってくると、後ろからのっそりこのデカわんこがついてきた次第。


『吾輩にもわからん』

「おい」

『主の後ろをついてったら、通れたのだ』

「ふぅん……おかしいな。世界扉って所有者しか通れないはずなんだが……」


 またも謎だ。

 フェンリルがなぜ通れる?


 鑑定を使って見たら、こうなった。


【5yk3p@を、フェリが所有しているから】


 うん、わ、わからん……。

 とにかく、フェリもまた資格的なものを有してるらしい。


 ゆえに、扉を通れるってこと。

 ……まあ、その資格ってのがなんだかわからんのだが。


『まあ良いではないか良いではないか!』

「よくないよこんなデカわんこ……近所の人に……見られたら……」


 って思ったんだけど、近所の人なんて居なかったわ。

 ここ、ちょーど田舎だしな。


「ま、いっか。めったに人もこないだろうし」


 と、そのときだ。

 ピンポーン……♪


『む! なんだ今のは! 敵襲か!』

「客だよ。おまえはそこでおとなしくしてろよ。いいか、部屋から絶対に出るなよ?」

『なんだ敵ではないのか。わかったわかった。さっさと行くがよい』


 お座りして、フェリがテレビを見出した。

 もう日本に順応してやがる……。


 俺は玄関へと向かう。

 すると……。


「はいどちらさ……って、おまえ……!」


 玄関には、見覚えのある少女がいた。


「なぎ、先生……」


 俺が出版社で務めていたときに、世話していた女漫画家、南木曽なぎそなぎ。

 眼鏡をかけた、大人っぽい18歳の美少女だ。


「うっす! 界人さんおひさっす!」

「あ、ああ……何で君居るの?」

「漫画、辞めたっす!」

「へえ……え、ええ!? や、やめた!?」


 うそだろ!?

 南木曽なぎは、超売れっ子の漫画家だ!


 そんな彼女が漫画を辞めるだって……?

 あ、あり得ないだろ……。ど、どうなってんだ……?


「と、とりあえずあがってけよ。話を……あ!」


 や。やべえ……!

 今家には、くそでかわんころがいるじゃあねえか!


 なぎに見られるわけにもいかないし、ど、どうしよう。


「どーしたんす?」

「あ、いや……ちょ、ちょっと外で話さない……?」


 と、そのときだった。


 ボンッ……!


『ふぎゃああああああああああ!』

「ど、どうしたフェリー!?」


 居間のほうから大きな爆発音がしたのだ。

 慌てて駆け寄ると……。


『あば、あばば……』


 人化がとけて、馬鹿でかいフェンリルの姿になっているフェリが、仰向けに倒れている。


『し、しびれ……』

「しびれ……っておまえ! テレビの電源コードかじったな!?」


 それで、感電したわけだ。

 なんたる駄犬っぷり……。


「…………あ、あの」

「え? あっ!!!!!」


 居間には、なぎとが立っていた!


「な、なんすかその……でかいワンコロ……」


 し、し、しまったぁああああ!

 どうやら俺はファンタジーな存在を、一般人に見られてしまったようだ。

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