07.焼き肉とフェンリル



 俺、飯山いいやま 界人カイトは、ある日祖母の家で不思議な鏡を発見。

 それは異世界とをつなぐ扉だった。


 異世界に来た俺は、ドラゴンを魔法でぶったおして、500万円をゲットした。

 その翌日。現実世界へと戻っていた。


 俺は近くのホームセンターまでやってきていた。

 ばあさんちには食料そのほかが何もないので、買い出し。

 それプラスアルファで、確かめておきたかったのだ。


 手に入れた金が、本当に使えるかってことを。


「次のかた~」


 レジに並んでいる、俺。

 ペットボトルの水1本、手に持ってレジのお姉さんに渡す。


「99円です~」


 田舎のホームセンターの水は、だいたい安い。

 俺はポケットからスマホを取り出す。


 こないだ竜を倒して、手に入れたのは500万円。

 スマホの電源を入れて、バーコード決済の画面を表示。


 そこには、きちんと500万円の文字がかかれている。

 問題はこれで取引出来るか……だが。


 ぴっ♪


「ありがとうございました~」

「ほ、ほんとに買えたよ……はは、まじか。まじだ」


 俺はペットボトルの水を手に、一度ホームセンターを出る。

 まじで、買えた。500万円、手に入ったんだ。モンスターを倒して。


「異世界でモンスターを倒して、金をこっちでも、ちゃんと使えるんだなぁ……」


 そうなると、かなり楽だ。

 だって俺、レベルが現在、9999。


 レベルの上限がどれくらいかわからないが、かなり強い部類に入るんじゃなかろうか……。

 いやでもまてよ、ほかの人たちがレベル10000とか普通にあったら……。

 レベルを見ても、上限がどの程度がわからないので、油断はできないな。


 スライムレベル1000万とかあったりして。


 まさかレベル9999が、カンストってわけでもないだろうしな。


 ホームセンターで色んなものを買って、ばあさんの家に戻ってきた。

 俺が今いる、長野県での移動は、基本的に車だ。


 電車は30分~1時間に一本。

 南信(※長野県の南)へいくと、2時間に1本とかざらである。こわ。


 みんな車に乗って移動するのがデフォなのだが、俺は車を持っていない。

 魔法の使えるばあさんも、そんなの必要としていない。


 じゃあ俺はどうしたか?


世界扉ワールドドア便利だな……」


 俺は、今異世界にある、洋館へとやってきていた。

 土蔵で見つけた世界扉。


 これは異世界の行き来を可能にする以外にも、ひとつ、サブ機能がついてる。


 それは、自分が行ったことのある場所なら、転移することができるってわけ。

 つまり、転移魔法と同じ効果があるんだよ。


 世界扉はスキル、アイテムボックスで収納することができる。

 鏡を持ち歩いていけば、どこへでも、好きなタイミングで、行き来可能ってわけ。


 無論、出先だろうと異世界へ行くことができる。

 そして家に帰ることが可能。なんて便利なんだ世界扉……。


「ふぅ……」


 異世界に来て、俺は何をしてるかというと……。

 庭先で、肉を焼いていた。


 ホームセンターでバーベキューセット一式を購入。

 近くのでかいスーパーでタレやらいい肉やらを買って、異世界に来たのだ。


 アイテムボックスがあれば、そこに肉を入れておいても腐ることはない。

 冷蔵庫要らずだ。


 俺は現実で買った肉を、異世界で焼いて食っている。


「うめえ……」


 割と高い肉を買った。まあスーパーで買える肉だから、たかが知れてるだろうけど。

 それでも、美味い。脂がね、甘いんですわ(語彙力皆無)


 洋館は森の中にある。

 晴れてる、そしてど平日、昼間。


 肉を焼いて、こうして優雅に一人バーベキューができる。


「贅沢だ……」


 これからは、あくせく働く必要はない。

 金がなくなったら、チート能力を使ってモンスターを倒し、お金を稼げばいいんだから。


 しかも机の前に座って7時間を5日間、みたいなあほなことをしなくていい。

 ここは森の中で、モンスターのいる異世界なんだ。


 敵なんてすぐに現れ、そして倒せる。

 すぐに大金を、稼ごうと思えば稼げる。


「ああ……楽だ……なんて、楽なんだ……」


 森の中ってのもいい。

 誰にも邪魔されず、静かに、こうしていい肉を焼いて、たれをぶっかけて、食べる。最高。


「はあ……いい匂いだ」

『うむ、それは同意だ』

「だろぉ~……お? おお?」


 え、何?

 今、誰がしゃべってた?

 

 万里ばあさん……じゃ、ない?


 ふと、空から視線を下ろしてみる。


「…………」

『なんだ、人間? 吾輩の顔に何かついてるか?』

「あのぉ……どちらさまでしょうか?」

『む? 吾輩か? 見てわからぬか? この美しい純白の毛皮を見て?』


 そう、そいつは、見上げるほどの体躯を持った、真っ白な犬だ。

 いや、でもただの犬じゃないことだけはわかる。


 俺が出会ったくそでかい、竜王とかいうモンスターすら、入ってこれなかった領域に、やすやすと、このバカでかい犬が入り込んでいるのだ。


『吾輩は神獣フェンリルである』

「か、【鑑定】」


【フェンリル:(SSS)。神クラスのモンスター。氷を操る】


 か、神クラス!?

 そ、そういやばあさん言っていたな、神を除けば俺は最強だって。


 で、でも目の前に神クラスのやばいモンスターいるんですけど!?


『まあ人間、落ち着け。吾輩の興味は貴様ではなく、その肉にある』

「は、はあ……肉っすか」

『うむ。悠久に近い時を生きてきて、このような香ばしいにおいを発する肉には、初めて出会った……人間。取引をしたい』

「な、なんすかね……?」


 下手に刺激して殺されないように、注意しながら会話せねば。なるべく相手の言うことは聞いてあげよう。

 だが取引ってなんだ? い、命を差し出せ? いやそれとも、この館を譲れとか?


『貴様を生かしてやる。そのかわり、その肉をよこせ』

「ま、まじで? そんなのでいいんすか?」

『うむ。早く食べさせろ』

「あ、は、はい……」


 下手に逆らって殺されたらたまったもんじゃない。せっかく生かしてやるっていうんだからな。


 俺はさくっと肉を焼いて、適当に焼き肉のたれをどぼどぼかけて、フェンリルさんの鼻先においてあげる。


「ど、どうぞ」

『うむ……では……はぐ!』


 むしゃ。


『! こ、これは……!』


 むしゃ、むしゃむしゃむしゃ!


『う、』

「う?」

『うーーーーーーまーーーーーーーーーーいーーーーーーーーーーーぞーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!』


 フェンリルが口からビーム出す勢いで叫ぶ。


 ビゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!


 まじで口からビーム出しやがった!

 吐き出された青白いビームが館にぶつかるも、しかし、無傷だった。


 ま、魔法でもかかってるのかな……。


『なんだこれは! こんなうまい物、今まで食べたことがないぞ!』


 はっぐはっぐ! とフェンリルさんが、たれのかかった肉を爆食いしていく。

 そんなにうまいか? いや、いい肉使ってるからうまいけどさ。


『特にこの、なんだ、この、なんだ!? 肉にかかってるこれは!?』

「普通の焼き肉のたれっすけど……」

『いい! うまい! うますぎる! このたれ、美味い! こんな感覚は初めてだ! 食べて幸せになれるなんて!』


 ぺろり、とフェンリルが肉を全部食べ切った。

 そして、


 ばたん!


「な、なんすか!? おなかなんて見せて!」


 フェンリルさんが突如としてひっくり返って、俺に腹を見せてきたのである。


『名を教えてくれ』

「か、界人っすけど」

『カイト、提案がある。吾輩を従魔じゅうまにしてくれないか?』

「じゅうま?」

『主の下僕となって働く獣などの総称だ』


 ああ、サーバント的なあれか。


「なんで従魔になりたいの?」

『吾輩はこの肉に惚れてしまった。この肉は素晴らしい! 吾輩の食ってきた肉は全部ゴミだ! かすだ!』

「そんなに……」

『この肉を三食くれるのならば、吾輩は貴様の手足となり、尽くすことを誓う! どうだろうか!?』


 有無を言わさないとはこのことか。

 すごい迫力で俺に交渉を持ちかけてくる……。


 さてどうするか。

 いやでも、待てよ。俺はこの世界のこと、まだ何もわかっていない。


 一方で、このフェンリルは話が通じる、現地のガイドのようなものだ。

 一人くらいガイド役がいたほうが、この世界になじむのに役に立つだろう。


 それに、田舎で大きな犬を飼うのって、あこがれだったしな。


「わかった、君を従魔にする」


【神獣フェンリルと契約が結ばれました】

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