02.実家に帰り、力を得る

「はぁ~……悪いことって、続くもんだな……」


 現在、【特急あずさ】に乗って、東京を離れ、実家にある長野県へ向かっていた。

 会社をクビになり、さらには……住んでいるところまでも、追い出されてしまったのである。


「まじで、もうやだ……」


 会社をクビになった夜、突然大家がやってきたのだ。

 うちから出て行け、と。


 どうやら大家は、痴漢の被害にあったJKの、父親だったらしい。

 父親は何を誤解したのか、俺が娘(JK)の尻をもんだと思い込んでいる。


 そこから、娘に性的な嫌がらせをした人間に、部屋は貸せないと大激怒。

 ……結果、俺は住む場所も失った。


 会社も、そしてマンションも失い……俺は、疲れた。

 都会での暮らしが、もういやになったのだ。てゆーか、満員電車が、か。


 東京に住んでいる以上、電車での移動は基本となる。

 となれば、また同じような被害に遭う可能性は大。


 もう……俺は都会なんてこりごりだ。ゆえに、俺は都会を離れて、実家に帰ることにしたのだ……。


「ついた……遠い……」


 新宿発の特急あずさにのって、松本駅へ。そこから、鈍行を乗り継いで、やってきたのは松本市から少し離れた、【安曇野市】ってとこ。


 そこからさらに車で数十分行ったさきに、俺の実家がある。


 めちゃくちゃ山奥だ。俺はここに、高校時代まで住んでいた。


「ぼろいなぁ……いつ見ても」


 俺には、両親が居ない。事故で死んでしまった。

 その後、母方の祖母の家に引き取られることになった。


 祖母は放浪癖のある人で、滅多に家に寄りつかなかった。

 だからまあ、一人暮らしみたいなもんだった。


 高校卒業して、大学入学を機に、俺は上京したって次第。


「ばーちゃん……」


 ふと、俺は祖母を思い出す。

 両親の代わりに育ててくれた、万里ばあちゃん。


 今実は、失踪中扱いである。

 昔からまあまあ家を空けることは多かった。


 でも、ここ数年は完全に連絡がついてない。


「まさか死んではいないだろうけど……」


 とりあえず、家に帰る旨は連絡を入れて置いた。

 返事は勿論ない。


「どこにいるのやら……」


 俺の実家は、無駄に広い。

 山奥にあって、武家屋敷みたいな外観をしていた。


 なにせ、土蔵まであるんだ。やばいだろ……。


「さて、こっからどうしようかな……」


 会社を首になり、都会でも居場所を失った俺。

 実家で暮らしていくとして、これからどう金を稼いでいこうか。


「地元で就職……いや、なんで東京を離れたのかって絶対聞かれるだろうし、普通の就職は無理だよな……」


 貯金は、少しはある。でもすぐにそこをつくだろう。

 早急に、金を稼ぐ必要がある。ばーちゃんも、あんま家にいないし。金の無心をするわけにもいかない……。


 さてどうしよう。

 そう思って、俺は屋敷の中に入る。


 まじで、時代劇のセットみたいだ。


「ん? なんだ?」


 玄関に一枚の手紙が置いてあった。


『暇なら、土蔵の中の不要品を売っといておくれ』


 と。

 なんだ、ばあちゃんやっぱり生きてるじゃないか。


 良かった。まあ、どこにいるか不明だけど、とりあえずは死んでない、と思う。

 ほっとする反面、なんで直接言ってくれないんだろうなと疑問を覚えた。


 しかしむあ悩んでも、答えは出ない。

 今はこの伝言に従おう。


「自分でやってくれよ……まあ、やるけどさ」


 ばーちゃんには高校卒業までの間、金銭的な支援と、そしてこの家に住まわせてくれたからな。

 その恩義があるので、頼みは断れない。


「土蔵いきますかぁ」


 やることもないし、俺は高校の時使っていた自分の部屋を出て、土蔵へと向かう。


 庭にあったその、ごつい、古めかしい見た目の土蔵の中に入る。

 ドアを開けた瞬間、ホコリが舞った。


「どんだけ放置してたんだよ……」


 中には用途不明の、妙な品物が放置されていた。

 壺とか、本とか。


 ふと……。


「ん? なんだこりゃ……?」


 布のかかった、大きな何かが置いてある。

 俺が布を取ると……。


「鏡?」


 姿見ってやつだ。成人男性と同じくらいの身長の大きな鏡が置いてある。

 日本風の土蔵に似合わない、西洋風な鏡だった。


「異世界とのゲートだったりして。って、あり得ないか。ラノベの読み過ぎか」


 俺が中学生くらいの頃にはまっていたラノベに、そういうのがあった。

 主人公が突然現れた鏡を通って異世界へ行き、そこで使い魔になるみたいなストーリー……。


「現実に、そんなもんねえよな……」


 俺が鏡に手を触れた、その瞬間。

 ずぶ……と、腕が鏡の中に入ったのだ。


「え!? うそぉおおおおおおお!」


 鏡の中に俺の体が吸い込まれていき……やがて、気を失った。


称号異世界へのまれびとを獲得しました】


【《全魔法使用権限」を獲得しました】

【《アイテムボックス》を獲得しました】

固有魔法等価交換を獲得しました】

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