第7話 python_mochitsuki


 時間が無い……筈なのに?


 何で俺達は今餅付きをしているのだろう(汗)


 時間が無い筈……なのに……



「おお、お米の良い香りがするな」


「主任、何で俺に餅を作らせてるんすか?」


「相変わらず夏は堅いな〜〜新年の息抜きに決まってるだろうが!?」


「はあ、主任。でも、スケジュール通りに動かないと、IoPが期日迄に完成しないのでは無いかと思うのですが? それに……」


「ああそういうことか、大丈夫大丈夫。正月休みはなっ、元々スケジュールの日数から外して有るから。ホレっ」


「えっ?」


「えって、何を今更!? 良いかい夏くん。今年が初めてのチームの年越しじゃ無いだろう。それにだっ、部屋に篭ってパソコンの前に齧りついていても、良いアイディアは浮かば無いんじゃないのか。せっかく新年を迎えるわけ何だから、心機一転と行こうじゃないか」


「はあ……」


「何をそんなに焦っている? 君の仕事は焦る事じゃ無いぞ。今を楽しく生きろ、そしてもっと若者らしく冒険をしなさい。安心しろ、三が日が終わったら、お望み通り地獄の研究の毎日だ。ハハハハハハ」


 そう言って主任は俺の肩を叩くと、フラフラと足を覚束せながら、ベランダを後にした。そっとバレないように彼女の跡をついていくと、部屋の中から勢い良くマウスやらキーボードを叩く音が響くかと思うと、1人ああでもない、こうでもないと悲痛な叫びが聴こえて来た。


(やっぱりだ)


 僕等がいま羽目を外せる分、あなたはどんだけ自分の時間を犠牲にするんすか……焦るのは私だけで十分だと言ってる様なもんですよ。


 ドラマだとかバイトで見る上司とは異なり、この人は本当に一生懸命仕事をしている。そりゃーー部下が着いて行くわけだ。そういう俺もその一人に入る。


 俺は元居た場所に戻ると、先程感じた主任に対するやるせない気持ちを、お餅を突く度にそこへと想いを注ぎ込んだ。



「そろそろ良いんじゃないかな? 白川くん」


「あっ、はい。そっ、そうみたいですね、越谷さん」


 俺はリーダーの越谷さんに言われるまで、お餅を過度に突き続けているところだった。危ない危ない、もう少し冷静にならないとな。


 突き立ての餅米を臼から下ろす、まだまだ湯気が立っていて、これから丸めるにしてもまだまだ熱そうだ。今のご時世餅付き器を使えば簡単に作れてしまうのに、主任の以降で日本男児たるもの腰で餅を付けとの事で、どうやらアナログで餅を作るのが研究所の恒例らしい。


 去年は何をどうすれば良いものか? 手順が分からないため、見学させて貰ったが、今年は餅を付く側となった。普段運動をしていないのも有り、正直上腕筋と腕橈骨筋が限界に近い、妙な怠さが有り腕がスムーズに上がりそうに無い。明日はキーボードを叩けるのだろうか?



 (いや、幸い明日もお休みか……)



 そう言えば、去年はこの餅付きの動作をプログラミングで再現したっけ。まあ、もちろんシュミレーションの範囲で、実際にロボットを使った訳じゃないけど。


 ちなみに、流れとしては簡単に記述すると以下になる。


 ①PCのデスクトップ上に作業フォルダを作る

 python_mochitsuki

 ②テスト程度なのでシェルウィンドウってテキストに似た画面を開く

 ③命令を記述

 例

 grind = " もち米を研ぐ "

 print ( " もち米を水に浸し " + grind )

 print ( もち米を蒸す )

 knead(捏ねる)

 print ( " 蒸し終わった米を" + knead)


これをシェルウィンドウで実行してみる。

もち米を水に浸し、もち米を研ぐ

もち米を蒸す

蒸し終わった米を捏ねる

>>>


 まあ、あくまで言葉の記述のみで、機械で実行するわけじゃないが、基礎的なプログラミングはまあ、おおよそこんな感じだ。

まあ、サブプロのポジションの俺だから間違ってるかもしんないが。


 そう言えば確か、主任はこし餡が好きだったな。

 俺は主任の部屋のドアをそっと開けて中へ入る。


 涎をだらしなく垂れ流したその女性が、どんな会社の偉いさんよりも輝いて見えた。恋とかじゃ無く、純粋に初めて尊敬出来る人間として惹かれていたのだと思う。


 だから、彼女ばかり正月の休みまで負担をかけて、本当に申し訳なく思う。


 彼女の大好きなこし餡と、出来たてのお餅を机にそっと置くと、音を立てないように部屋の扉をゆっくりと閉めた。



to be continue ・・・・・・the younger sister plus

>>>

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