第4話 output(gene)


 Auto Variable Translational Genes(自動可変翻訳遺伝子)


 これは対象者もある程度忍耐が必要となるのだが、もし駆動したロボットの動きに納得が出来ない場合、動きを否定する事でロボットの動作が自動修正されていく。その結果、亡くなられた身内の生前の動作と同じ動きを再現できるようになる。


 これにより対象者が相手をロボットでは無く、自分の家族または最愛のパートナーとして違和感なく受け入れることができる。それを助ける機能がこのAVTGだ。


 勿論これはまだ机上の空論の技術。大学から始めた俺の現在のプログラムの知識でどうこう出来るような問題じゃ無い。


 技術の進化にはまずは机上の空論での証明から始める必要があり、実際のプログラマーやエンジニアによりそれを実現していく。そのためにはまず、人々で話し合い、何度も実験が繰り返す必要が必然的にある。


 人が脳で想像し描いた事をこの三次元の世界で創造して行く。

 そんな製品は世の中幾らでも有る。


 スマホが主流だった五年前とは違い、現在は主にスマートリストが世の中の主流となっている。スマートウォッチとの違いは仮想画面を投影可視化する事で、携帯画面から何も無い空間に4Kサイズの画面の表現を可能とした。


 もちろんこれを使えば、一部のデータを移して冬美を大画面で愛でる事は出来るのだが、断然独り占めの状態で彼女と会いたいので、俺はこのスマートリストの投影技術は未だ使用していない。


 両親には何故使用しちゃ駄目なのか? 少し怪しまれたが、移したデータがコピーじゃ無くてそのまま移動して消えると困るだの、万が一スマートリストにウィルスが入って居た場合、サーバーと接続した際に全データが飛ぶ危険が有る等説明し何とか誤魔化した。


 そう言えばちょっと話は逸れるが、今現在だともう三次元というよりも、この世界は四次元空間だと言う考えも量子力学関係の学者から出て来ているらしい。なぜなら縦、横、高さが三次元、そこに時間が有るこの世界は四次元なのだとか。


 まあ、俺はそっちの専門家ではないので、そんなことよりも妹をいかに早くこの現実世界に連れ戻すことを考える方が大事だ。


 そう、俺のIoPの計画を実現することで……。


 俺のって言い方はちょっと偉そうなので、此処では控えめに僕がと言い方を変える事にする。


 僕が提唱したこの考えは技術者やプログラマーの人達には目から鱗だったらしく、これが実現すれば日本は一歩や二歩なんて小さな発展では無く、下手をすれば海外のヒューマノイド開発会社や研究機関から十歩も百歩も突き離す程の技術的な飛躍の発展となるとの話だった。


 そのため株式会社と国の内閣府が打ち出しているムーンショット計画に携わる研究機関がこれに協力し、この僕の妹+(Plus)もといIoPは国の一大プロジェクトへと発展して行くこととなった。海外の情報漏れを懸念したこのプロジェクトチームはあらゆる方面からの情報のリークを阻止するため、俺の知らないところで、とある島での開発プロジェクトを進める話までとなっていたのだ。


 で何処よ? と思うだろうけど、提唱した俺さえもその場所は明らかにされることはなかった。実際にプロジェクトが開始される頃には、俺に家に黒い高級車が到着すると、某番組じゃないがマスクとヘッドセットを強制的に付けられた後、そのままその施設へと連行される流れとなった。


 記憶として辛うじて有るのが、キュイーーンと言う高音が鳴ると、身体が浮いた感覚となり、パラパラとホバリング音が聴こえて居たので、ヘリコプターに乗せられたのは間違い無い。


 初のヘリへの搭乗が目隠しでってのは思いもよらなかったけど(汗)


  因みにこの案を提唱した俺やこのプロジェクトに参加した皆は将来国の研究機関への配属かへの就職チケットを手に入れており、卒論も提出せずに卒業出来ると言う特別待遇となった。


 残念な事にあの鮫肌もこのプロジェクトの参加者の一人だ。


 一年生の時の態度とは打って変わって、物凄い対応が変わったには驚いた。コロッと、という言葉では物足りない。そうだな~~強いて言うならグワワワーーンとひっくり返る感じが近いと思う。それくらに人間が変わっていた。


 しかし、人は本当に分からないもので、仲良くなるにつれ本当の意味でどんな人間なのかが見えて来るから不思議だ。あの時何で彼に散々文句を言われたのか、それにはちゃんとした理由があったのだ。


 その理由とは、この大学に入って来る殆どの生徒が、幼い頃からプログラミングを勉強し、自分でアプリを開発出来て当たり前のレベルでもって入るのがこの大学の学部だったのだ。それにも拘らず、このコンピュータサイエンス学部にど素人の人間、まあ俺なのだが……そんなのが入って来た事に驚いたのだとか。


 彼等にとって、自分の子どもの頃の苦労を全否定された気分になりとても腹を立てたらしいのだ。


 何故かと言うと、その年のクラスにレベルの低い人間が入ると、お金で雇われている教授側としてはキチンと説明をしないと行けない義務があるため、一気に授業内容のレベルが下げる必要がある。すると、皆が卒業時には当たり障りの無いレベルの知識しか学ぶことができず、そのまま人生も終わってしまう程なのだそうだ。


 何処の会社へ就職活動しても雇って貰えず、就職浪人確定なのだとか。

 その年の卒業生の就職率の影響が、入学時に決まるとも言われているらしい。


 もうと思って浪人まで考えたそうだが、俺のプログラムへの理解力が半端無く早いのと、意欲を見て直感で『コイツ、只者やない』って思ったということだ。


 そう言えば思い返してみると、十一月辺りからピタッと彼のクレーム攻撃が無くなったのと、今考えれば納得の行く彼の態度、例えば時折つまづくプログラム問題について、ノートをサッと見せてくれたのはそう言う理由が有ったのかと頷く自分がいる。


 最初は互いに印象の悪い者同士の二人が、研究施設内の生活を通し、無二の親友となって行くこととなる。


 根は本当に良い奴で、俺のプロジェクトの真の目的を告げたら、『なんも知らんとズケズケと言うて、ワイ、ワイはほんまにウゥ……アホや。堪忍な』と言うと素面なのに、まるで赤子がワンワンと叫ぶように号泣してくれた。


 とりあえず俺たちは起きてから眠るまでプログラム入力に明け暮れた。元々パソコンの命令は0と1を組み合わせた2進数の組み合わせで、毎日がそれらとの睨めっことなるのだが、分からない人には何で10進数じゃないのか説明する必要が有ると思うので、ここでちょっと説明してみる。


 何故2進数なのかって言うと? 俺の説明で合っているのかは正直分からないが、単純に0と1の2進数を採用したのでは無く、コンピュータの機能としてのオンとオフの命令が2進数としてちょうど当てはまったと言われている。


 オンとオフっていうのは、つまり電源のONとOFFを想像して貰えば分かると思う。蛍光灯で言うなら光を点灯したり、消灯したりするこの動作が2進数にあたる。


 これはパソコンの脳の部分に当たるCPUって部品の中身の命令系統も同じで、その部品の中に入っている半導体と言う製品によって異なるが、一つの大きさが約10ナノって言うとてつもなく小さいの部品なのだけども、そのトランジスタって部品が軽く二億個以上入ってて、そのトランジスタ自体も2進数が使われているのだ。


 これはトランジスタが電源のスイッチと同じ役割をすると考えて貰うと合点が行くと思う。スイッチの役割は基本しか無く、オンとオフつまり2進数の命令を行っている。


 そう、実は蛍光灯の概念とトランジスタの概念は似ている。


 そして、もしトランジスタが一つで有るなら単純な回路しか形成出来ないが、実際は膨大な数のトランジスタが組み込まれており、それによりただの2進数では無く、論理回路が形成出来る様になる。


 これ以上ダラダラ説明すると多分頭が痛くなるだろうから、細かな説明は割愛するが、この命令のプログラムってのは実は通常固定されてしまっている。


 もし通常のCPUを採用する場合、俺の妹+(Plus)のプロジェクトは暗礁に乗り上げる事は間違い無い。


 そのため、論理回路自体に専用の言語で記述したプログラムを書き込む事が出来るFPGA(Field Programmable Gate Array)を採用するのだ。


 何だそれって思うかもしれないが、簡単に言ってしまえば、現場で構成(プログラム)が何度も変更可能な電子回路部品って事だ。


 つまりその場で何度もこの妹+Plusの動作パターンを納得が行くまで調整が出来る。


 まあ、聞こえはいいんだけど、だからハァ〜〜起きてから眠るまで〜〜って言うか時々徹夜……有りのプログラ厶作業に明け暮れることになるのだが。


 

 全ては冬美をこの世界に呼び戻す為だ、俺は死んでもこの計画を実現してみせる!?


 いや……死んだら冬美に会えなくなるじゃん(汗)



 to be continue ……the younger sister plus 

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