第2話 決意の糸口
『よし。クリア』
『結構鬼畜だったね』
『だな。いくらこのゲームのイベントダンジョンがムズイとはいえ、今回は結構炎上しそう』
『あー…今公式のツイッターめっちゃ荒れてるよ笑』
『やっぱり笑これ普通に始めたての人は絶対クリア出来ないよ』
『期間限定装備で行ってもきつかったしね』
『これは下方修正くるかなー笑』
イベントダンジョン地下牢8階ボスクリア。だけどあまりに難し過ぎて正直イライラした。上級者のYUSですら苦戦してたからこのイベントは下方修正が来てもおかしくない。6階、7階は5階のボスよりも難しくなかったのに8階にあがってから急に難易度が上がった。8階のボスに辿り着くまで1時間半はかかったと思う。そして肝心のボス戦は2時間やった末クリアした。途中で諦めようかとも思ったけどYUSは全然諦める様子がなかったから、クリアするまで戦い続けた。最終的に二人してガチャで期間限定装備を当て、強化と進化をすぐさまさせたのち、やっとの思いでクリアしたのだ。
『あそうだ。俺しばらく忙しくなるから多分そんなにゲーム出来ないかも』
『わかった〜』
『明日からちょっと学校行事あるから帰りも遅くなっちゃうんだよね。だから悪いんだけど今日中にこのダンジョンクリアまで付き合ってもらってもいい?』
『うん!私は平気だよ〜』
ありがとうのスタンプが送られてきた。学校行事か。夏休みも明けてしばらく経つから、定期テストとか体育祭とかあるのかな?なんにせよしばらくYUSとゲームが出来なくなっちゃうんだ。今日は沢山遊ぼう。
『やっとクリアだー!!!』
『やったぁぁ!!!!』
『メグリありがとう!こんな夜中まで付き合ってもらっちゃって。』
『いいのいいの!どうせ眠れないで暇を持て余してるだけだし笑YUSは学校大丈夫?』
『大丈夫!授業中寝れば問題なし!!』
『駄目だよ笑笑笑今日はもう寝よう』
『うん。結構頭も使って疲れちゃったしね。今日はほんとありがと!おやすみ!!』
『うん!おやすみ〜』
そう言ってゲームを終了した。あれから5時間近く戦いやっとの思いでクリアし、イベント報酬もゲットした。現在の時刻は午前3時20分。こんな深夜までYUSとゲームをしたのは初めてだ。いつもならこの時間は布団の中で病みながら色々嫌なことを考えてしまう時間。それが今日はこんなに楽しい時間になったのだ。いつもこうやって過ごしていたい。だけど、YUSはこれから忙しくなるようだからしばらく一緒にゲームは出来ない。悲しいけれどしょうがない。その代わりこんなに楽しい時間をもらったのだから、しばらくYUSとの時間はお預けでも仕方がない。今日の余韻に浸りながら私はお布団の中に入った。なんだか今日は気持ちよく眠れそうだ。
お昼頃に目が覚め、ご飯も食べず寝転がってスマホをいじっているといつの間にか夕方になっていた。おそらくお母さんも帰ってきているであろう時間帯だ。
ーコンコン
「ただいま。恵美、起きてる?」
お母さんが部屋をノックし、入ってきた。
「ん…なに?」
「朝起きてなかったから言わなかったんだけど、今日から学校で体育祭練習があるらしいのよ。」
体育祭…今の私には苦手な行事だ。
「それで、先生がね学校行事ぐらい参加してほしいって朝連絡したらそう言っていたの。クラスの思い出作りに恵美がいないのは寂しいだろうって。」
「…うん」
「…どうする?体育祭練習といっても今週いっぱいまでみたいだから今週だけでも行ってみる?」
…思わず口をつぐんでしまった。本当は行きたくない。ましてや学校行事なんかもっとだ。体育祭なんて今この体調の私には無理な話だ。
「練習無理なら見学でもいいって言ってたわよ」
それ私が体育祭に参加する意味あるのだろうか。行きたくないって素直に言えばいいのに、こういう行事はやっぱ参加しないと駄目なのかなという気持ちが邪魔をする。どうするべきなのだろうか。
「…もう少し考えてもいい?」
「わかったわ。じゃあお母さん下でご飯作ってるから。返事決まったら夕飯のときに教えて」
ーパタン
「思い出作り…か」
どうせ私なんか写真にも収まらないのに。参加する意味なんかないのに。今学校に行くと辛いっていうのが分かってる上で先生は言ってるのだろうか。でも、私の心は揺れ動いてる。どの道月に1回は学校に行かないといけない。学校からの手紙や課題とか受け取らないといけないから月1程度は学校に行く。お母さんとそういう決めごとをしていた。
「行っても辛いし行かなくても辛い。…どっちにしても袋小路か」
考えれば考えるほど頭が痛い。どうしようか悩んでいるとスマホから通知音が鳴った。翔くんからのLINEだった。
『恵美、今週の土曜日は体育祭があるんだ。帰ってからだと時間取れなさそうだから今学校から連絡してる。』
『さっきお母さんから聞いたよ。ていうか学校からって…いいの?校則違反じゃない?』
『大丈夫バレないようにしてる笑それで言いたいことがあってさ』
『なに?』
『俺、体育祭の応援団に決まったんだ。』
応援団…翔くんはこの学校の体育祭応援団をやりたいと小学生のときからずっと言っていた。だけど翔くんは去年の体育祭の日、熱を出して体育祭に出れなかった。
『…凄いじゃん。おめでとう』
『ありがとう。恵美にどうしても言いたかったんだよ』
『なんで?』
『だって去年の体育祭の日、俺が出れないって知った時お前泣いてたんだろ?』
『え?』
『裕太が言ってたんだよ。だから今年こそは絶対体育祭に出ようと思って』
『待って待ってなんで裕太くんが知ってるの??私その話誰にもしてないんだけど!!』
『お前が目腫らして鼻水垂らしてたって言ってたよ。花粉症だって誤魔化してたんだろ?裕太にはそんなの通用しないよ笑笑』
はあ?!!!確かに花粉症で誤魔化してたけど私そんなバレるほど泣いてなかったはずだし、そもそもそんな話誰にもしたことない!!やばい…裕太くんはクラスの情報屋だからすぐにこんな話広まっちゃうじゃん!!!
『ちょ…その話、ろかの人にはしないでよ?!』
『誤字ってるぞ笑笑しないよ裕太にも口止めしておいたから』
『はぁ…それは良かった。今年は本番休んだりしないでよね?無理は絶対しないでね』
『休まないよ。無理もしない。でも本番までちゃんと頑張るつもり。恵美も無理するなよ』
『うん。わかってる』
ほっとした…。でもまさかその話が知られてるなんて。あの時は…あれだけ必死に頑張って体育祭の練習してたのにそれが全部無駄になってしまって可哀想だと思ったし、自分も…辛かった。ずっと応援してたから。当時の私は泣くぐらい辛い気持ちだった。今思えば、たかが体育祭で来年もあるってのにこんなに泣くなんて本当にくだらない…あれは黒歴史でしか無い。
「今年も出るんだ…。」
体育祭なんてくだらないって言ったけど撤回する。だって今幸せな気持ちでいっぱいだから。翔くんの応援を見てみたい。それしか頭になかった。
「恵美ーご飯よ〜」
下からお母さんの声が聞こえた。私は重たい身体を起こし、ダイニングに向かった。
「いただきます…」
ボソッと呟き、箸を手に取った。食欲のない私にお母さんはご飯を少なめに盛ってくれた。
「それで恵美決まった?」
「うんあのね…」
私は翔くんの応援が見たい。体育祭の勝ち負けとか競技に参加するしないとかそんなのどうでもいい。
「今週全部行くのは無理だけど…せめて体育祭の本番だけでも行きたい」
行けるとしたら本番だけでいい。周りは行事だけ来やがってずるいって思うかもしれない。でも私は1回学校に行くだけでも精一杯なのだ。そこだけは…理解してほしい。
「分かったわ。競技とかには出ないほうがいいわよね?」
「うん。全部観客席にいる」
「じゃあ先生に伝えておくわね」
お母さんはスマホを取り出して立ち上がった。先生に電話しに行ったのだ。
夕飯後、私はスマホを手にして翔くんに電話をかけた。本当はいつもと同じLINEでいいかと思ったけど、久々に彼の声を聞きたかったのと、この嬉しい気持ちを声で伝えたかった。
「…もしもし」
「どした〜?」
「急にかけちゃってごめんね。その…体育祭のことなんだけど」
「うん」
「私…体育祭の本番行くことにしたの」
「え?てことは本番一緒に出られるのか?」
「うん。やっぱ…見たかったから」
「なにを?」
「翔くんの応援…去年見れなかったから」
「そっかぁ…今度はちゃんと出るから泣くなよ?」
「うるさい」
「あははっ!でもまぁ無理するなよ。」
「うん。だから見学にした。体調的に競技一緒に出られる自信ないし」
「そうか。そうだ今年はさ演舞やるんだよ。演舞」
「演舞って…去年できなかったやつ?」
「そうそう。全学年の応援団でやるんだ。毎年3年生だけがやってたんだけど、やっぱ応援団の人数が足りないから俺らも混じってね」
「去年も確かそれでやらなかったんだっけ?」
「そうそうそれでさ…」
やっぱり翔くんと話すの楽しい。正直、お母さんに学校行くことを伝えたとき不安だった。体育祭の日ちゃんと行けるか分からないし、学校へ行くことへの緊張や怖さは相変わらず消えない。でも翔くんの声を聞いて少しリフレッシュ出来た。やっぱり優しいな。いつも忙しいのに毎週月曜は必要な持ち物を必ず教えてくれて、学校行事があるとすぐ連絡くれて。どうせ私は学校に行かないのに。彼はなんでそこまでしてくれるのだろう?ついそんな疑問を抱いてしまう。本当に自分はダメダメだな。人の善意を疑ってしまうなんて。本番少し楽しみにしている自分がいる。凄く不安だけれど彼がいるなら大丈夫だよね?スマホを胸に当て強く握った。祈るように。体育祭上手く行きますように。
電波戦場の恋 藤舞 @MILOHOPESHOWER
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