第6話大精霊は妹
一瞬なんの光かと思い目を反射的に閉じていたが、気が付くと謎の空間に俺は立っていた。
これを一言で言い表すなら、天空に建造されたギリシャ神殿というのが最もこの景色に合っているのではないだろうか。
俺はギリシャ神殿の手前、階段手前に設けられた円形の待機場というのか?そこに立っていた。
「本当にどうなっているんだ...」
そう一言漏らすと後ろから先ほどまでお世話になっていた女性の声が聞こえてきた。
「やっぱりここに来た人はみんなそういう反応するんですねぇ~。」
「ここは...?」
「ここは
なんだそれ...
異世界に飛ばされた翌日に精霊と契約?
世界を守護する守護人を超えた存在に至る?
もうなにがなんだか分からない!
でもこの謎の空間にいる限りはおとなしくウェル姐に従うべきだ。
俺は彼女の後を3m後方から追いかけた。
階段を変わらないリズム感覚で一段一段丁寧に上る彼女に対して俺はゆらゆらと惰性で上り続け、半分もいかないところで足がへとへとになってきていた。
それでも上る上る。
上りきらなければ始まらない。
何故かそう感じてしまう。
だから俺は足を進めた。
階段を登り終えても彼女はまだ前へ歩き続ける。
その頃にはもう地面にしか視線が向かなかった…
ひたすらに歩き続けると地面が少し暗くなった。
恐らく神殿の中に入ったのだろう。
そしてようやく…
「着きましたよ。では、あの円陣の中央で立ってください。」
俺は言われるがままに円陣に突っ込み、その中央で立った。
だが、何をすればいい?
俺が何かひと手間を加える要因になっているのか?
もうそんな事は考えたくない。
早く…早く飯をッ…!
飯の事を考えていると彼女は言葉を、呪文を唱え始める。
「かの者は
そう言い終わると円陣は7色に輝き始め、それに伴って俺の身体にも何か目覚めたような感覚があった。
何かは分からない。
だけど確かに何かが起きた。
俺は右手を胸に当てる。
いつもより少し暖かい。
そんな事を思っていると俺の視界に不思議な生物が現れた。
その生物は最初白く発光していたが、円陣の減光に伴って徐々に輪郭が見え始める。
その全てが見えた時、俺はそれに目を奪われた。
なんだこの可愛い女の子は…
まるで妖精…いや、この子は精霊だ!
紛れもなく本物だった。
少しひらひらとした如何にも精霊だと思わせるような装いをその白い体にまとっている。
頭の天辺から降りているしなやかで艶のある黒髪は肩にかかっている。
目もぱっちりしている。
背丈は…150くらいあるのか?
ぱっと見ただけでは子供かと思ってしまう見た目をしていた彼女だったが、さっそく口を開けた。
「ふぅ…やっと会えた…"お兄ちゃん"!」
彼女が最初に発したのはその言葉だった。
お兄ちゃん?
コイツにそう言われる様な義理は何一つ無いんだが…
「あの、いきなり出てきてお兄ちゃん呼びはやめてくれないか?そもそもお前誰なんだ?」
彼女はわかりやすくため息をついた。
「はぁ…こんなに分かりやすい喋り方してるのに気づいてくれないんだね。酷いなー?」
気づくって何にだよ。
「で、誰なんだ?」
俺は間髪入れずに聞く。
「私はここでお兄ちゃんを待っていた大精霊の1人!名前は"フレイ・フット・フルバケット"だよ!小さな身体してるけど、しっかりサポートするから安心してね☆」
「おい、星が出てる。やめろそれ」
「はぁーノリ悪いなぁ?お兄ちゃんってこんなにノリ悪かったっけ?」
「うるせえほっとけ」
「まぁこんな事もあろうかと鈍感お兄ちゃんの目を覚ます為にお兄ちゃんの秘密を言っちゃおうかなー!」
は?何を言ってるんだ?
さっきから言っていることが意味不明だ。
最初こそ"精霊だ!"なんて喜んでたけど…
これ、ただの虫だろ。
「えーと確かお兄ちゃんは部屋の隅に意味深に置いてる箱の中に性ー…」
「ストーーーーップ!」
俺は何か非常にまずいことをウェル姐がいる前でバラされそうになったと思い慌ててコイツの口を塞いだ。
おいマジかよ。
俺がお兄ちゃんと呼ばれていた理由…ようやく分かった。
コイツ、俺の妹だ!
「おいお前!今俺の後ろには女性がいるんだよっ!言うとしても責めて時と場所を考えろよ!」
そう口うるさく言うと、彼女は口を塞ぐ俺の指を退かしてまた喋り始めた。
「だって!そういう「エッ!」な事くらい言わないと気づいてくれないお兄ちゃんが悪いんだよ?!見た目こそ違うけど、私は私なりに自分のモノマネをしてたのに!」
「分かるか!でも…」
俺は何故か次の瞬間彼女を抱いていた。
死んだときにはもう...と思っていたがこの世界で再び会えるとは。
「また会えてうれしいよ!」
「うん...私も!お兄ちゃんの意識がなくなった後私めちゃめちゃ泣いたんだよ?」
抱き着かれた妹は少し驚きながらもちゃんと両手で俺の体をぎゅっと抱きしめる。
「あぁ...ごめんな」
思わず妹を抱きしめながら泣いてしまった。
ただただ妹を残して死んでしまった事に申し訳なさと自分の運の無さに無力感を抱いた。
「もう泣かないでお兄ちゃん。私はここにいるし、もう離れたりしないよ!」
妹は離れて俺の目から流れ出る涙を手の甲でふき取った。
そして俺の両肩に両手を乗せて”心配しないで”・”大丈夫だから”と思わせるような自身に満ちた表情で俺を見つめた。
そんな彼女の表情を見ていると自然と涙が収まった。
「ありがとう。」
俺はこの一言にいろんな意味を込めた。
俺は無意識に身長の低い妹を抱きしめていたので自然と膝を地につけていた。
その状態から俺は立ち上がって、俺たちは後ろで黙って待っていてくれたウェル姐に近づいて話しかけた。
「何とか終わったみたいです。少し情けない姿を見せてしまってすいません。」
「いえ、再開はどんな状況でも喜ぶべきことです。涙を流す人に無粋なことは出来ませんから。」
ウェル姐は窓口で対応していた時と同じように笑顔で対応してくれた。
「これで儀式は終わりです。これから窓口に戻ってもらいますが、お二人が異世界人であることは仲間以外には口外してはだめですよ!」
「分かりました。」
ウェル姐はさっさとその場から消えてしまい、俺たちだけとなった。
「じゃあ俺たちも出るか」
俺は妹を連れて、来た道を辿ってあの鉄の扉を手前に開けるとそこには普通の光景があった。
ただただ、ギルド内部の光景だった。
俺はまた白い光が身体を包むのかと思っていたのだが、全くそんなことはなかった。
期待外れと言えばそうだが、これはこれで別の驚きがあって面白い。
窓口に寄ると既にウェル姐が椅子に座って待機していた。
「あの、戻りました」
「あ~おかえりなさい!すみませんね、いきなり儀式に呼んでしまって。」
「いえ、新鮮な体験だったので良かったですよ。」
彼女はそうですかと安心して一息ついた後、そうだそうだと言いながら茶色い袋を2つ手前に出てきた。
「これは?」
「これはお金ですよ。ギルドはこうやって袋に入れた状態でお渡ししているんです!ちなみに金貨433枚で計43万3000トレになります!」
「え、何か換金する物ありましたっけ?...あ、あの結晶の分ですかこれ!」
彼女はそうですよ!と機嫌よく返事をした。
俺が持っていた結晶は大きいものが多くて数にして22本。
数だけでいえばそこまで大したことは無いと思ったが、アルカが話していた”質”が影響しているんだろう。
だとすれば今回は結構運が良かったんじゃないかと思ってしまう。
ただ、おそらく金銭の単位である”トレ”なんて言われても元居た世界とどれくらい違うのかが全く分からないってことだ。
まぁ妹の方が賢いし後で聞いてみるか。
「じゃあ、このお金はありがたくもらいますね。またお願いします!」
俺はそう言って妹を連れてギルド内に座っていたアルカに近づいた。
「やぁ、ごめんアルカ待たせちゃって。ギルドの用は終わったよ。」
アルカは俺を見て冒険者の仲間入りとなったことを喜んでいるのか、少し口角が上がっていた。
だがすぐに目つきを変えた。
その目は俺ではなく、妹に向けられていた。
「あれ、その子は...もしかして大精霊!?」
彼女は驚きのあまりガシャンと鎧の音を響かせながら勢いよく立ち上がった。
どうしたんだと思えば妹に近づき、じろじろ見始めた。
それに妹は少し戸惑いを見せている。
「大精霊がどうかしたのか?珍しいのか?」
俺は普通にアルカに声を投げると、恐ろしい速度で俺に顔を近づけてくる。
「珍しいも何もないわ!キミ、契約の儀をしたんでしょ?契約の儀では普通小さな”加護”が着いてきたりするものなのよ。それが人型として現界するとなればかなり確率が低いの。でも今回キミの成果で証明してしまった訳だ。”人型の大精霊と契約出来る”って事をね...」
「は、はぁ...」
そうは言われても困るんだよなぁ。
俺が引き寄せた訳じゃないし。
なんなら向こうから来たし。
しかも中身妹だし。
なんだこれ!
あ、言っておくと俺はチーターとかそういうのじゃないから。
「へぇ~アルカっていうんだね!私は大妖精王フルバケット二世の愛娘、”フレイ・フット・フルバケット”って言うんだけど、気軽にフレイって呼んでほしいな!」
妹...フレイがアルカに自己紹介を簡単に済ませると、慌てていたアルカも正気を取り戻して答えた。
「あぁ、私はこの国で冒険者をしているアルカ・スマトロンだ。よろしく、フレイ!」
二人はお互い握手を交わした。
俺から見るにこれからもいい関係が築けそうだ。
そう考えたとき、俺の腹が久しぶりに泣き出した。
そういや、まだ飯を食ってないんだった!
「アルカすまん、早く飯のところまで案内してくれないか?」
アルカは”ハハッ!”と少しだけ笑って
「いいよ。ずっと腹減っていたもんね!飛び切りのお店に連れて行っちゃうから楽しみにしててね!」
俺たちは早速飯屋に行くことに決めて、ギルドから特に急ぐこともなくゆっくり3人で出た。
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