第2話女性騎士の言い訳

俺は目を覚ました。

何が何だか分からない状況で何かが起きて俺は死んで…


でも今俺は生きている。

心臓は鼓動を続けているし、手首の脈もある。手を曲げる動作も問題なく出来るしそのうえ…

そのうえ切られたはずの身体はまるで新品のように傷1つない状態となっていた。


本当にここは何処なんだと思ってしまう。

この目で見えるのは途方もなく高い天井と七色に輝くガラス、神話をモチーフにした宗教関係の壁画が見えた。


身体を起こせそうなので上半身をゆっくり起こし、状況を見る。

まず俺は棺桶に入っていた。

もう少しで焼却処分するところだったのだろうか?良く分からないが生きている事に感謝だ。


そして周りには長椅子が何列にも並んでいてロウソクも一定間隔で灯されていた。

まるで教会のように思えたのだが、人が…いない。


ダミーだと思うが鎧が壇上に直立不動でいる。

急に動くと怖いと思ってしまったが、なんのことは無い。

どうせただの置物!そうに違いないと思い込むことで不安を散らし棺桶からスっと立ち上がり出口と思われる木の扉の方へと歩き始めた。


「おい、大丈夫か?」

偉くこもったような女の声が聞こえる。

人気はないと思っていたのだがまさか女性がいたとは…

変な事は考えてはいないが、後ろから聞こえてきた気がするので頭・身体の順で振り向くと、そこには鉄の鎧を装備した騎士がたっていた。


「騎士…ですよね?えーと何処かで俺と出会いましたかね…?」

恐る恐る騎士に尋ねてみる

すると騎士は素直に答えてくれた。

「!済まない、私はこの国で冒険者をしている女騎士なのだが…面当てを外さないと分からないか。」


そういった後彼女は丁寧に面当てを外す。

中からはかなり丁寧に手入れされているような綺麗な金髪を伸ばした明らかに美少女と言うべきほどの顔つきが整った少し目元が鋭い顔が眼前に現れた。


それだけなら良かったのだが…

この顔、最近見たような気がする…


確か…


そう、彼女は俺を直剣で殺した張本人だった。


「私はタルバット冒険者ギルドに所属する女騎士の…」


「あぁ…ぁぁぁあ!!!!ど、どうか命だけはぁぁぁぁぁぁ!!」

俺を殺した張本人だと分かると全速力で出口に向かって走り出した。

彼女の所属や名前なんてどうでもいい。

とりあえず自分の命が惜しい。

その一心で勢いのあまり国を隔てる壁からも抜け出した。




「はぁ…突然家に侵入者が現れたと思えば一般人だったものだから応急処置をして教会に蘇生してもらったというのに…いざ起きてみれば私の顔を見た瞬間に逃げるし、謝りたかったのになー。

いやー確かに確認もせずに一時の心情に駆られて一般人を切った私が悪いのは認めるけど、そもそも鍵がかかった家に人がいる時点で絶対不審な者だと思うじゃんか!」


…などと教会で言い訳をつらつらと述べる女騎士だったが、仕事の時間だと言って先の男を追い始めた。




「何処だここ…」

城壁の外を何時間も彷徨い、汗をかき体力も残り少なくなっていたのは異世界に転生し混乱していたタクミだった。


「……」

眼前には一面の小麦畑が広がっていた。

元いた世界でもテレビで見たことある光景だ。


「帰ることって…出来ないよなぁ…」

どう考えても元の世界には戻れないだろう。

それ以前にそもそも戻ったところで俺の身体は既に焼却されているはずだし…

死人が戻ったところで為せる事なんてないだろう。

そんな事を考えるくらいならさっさと飯のことを考えなければいけない。

アニメ・マンガ・小説なんかではこういう時主人公というのは武器を持って超絶スキルで無双ッ!という展開があるが…無理そうだ。


スマホでフリックするかのように空間に触れてみるが何も起きない。

自分の視界の端にパラメーターなんかがあるのかと思うとそんな事も無かった。

俺は少しばかり楽しみにしていたらしい。

でもこうして生きている。

それだけでも幸運じゃないか!


「よぉーし!とりあえず1日歩くか!」

俺はひたすらに土の道を歩き続けた。

途中森に入って食えそうな物でも探してみたが、猟師じゃあるまいし出来るわけもなかった。

道沿いには川もあり、素手で魚を取ろうとしたが簡単に逃げられてしまった。

何ひとつとして捕まえられなかった。

日も落ちつつある頃、腹が減ってきた。

食料の調達ってのはこんなにも難しいものなんだと初めて思い知った。

米なんかはコンビニやスーパーで買って家にある優秀な炊飯器で炊いてやるだけだったし、肉や野菜なんかも自分で作らなくても惣菜コーナーにアホみたいな量が置いてある。

こんなにも利便性が高まった社会の中で生活していたからこそ、災害時にサバイバル知識というのが役立つ訳だ。


しかし今の俺にはそのサバイバル知識とやらは殆ど備わっていない。


「はぁ……腹減った。眠たい……」

飯も作れないのなら1度寝てみてもいいのでは無いのか?

足も疲れていたわけだし俺はふっさふさな草の上に身体を預けて寝てみようと試みた。


「…………んー!!痛いっ!痛てぇよ眠れねぇーじゃねぇーか!」


この世界に転生した時は病院服をしていたが、棺桶から復活した時はこの世界の標準的な長袖長ズボンに変わっていた。

まぁ、病院服みたいに下に何も無いまるでスカートのような物を来ているよりかは遥かに安心は出来る。


どちらにせよ現代人であった以上草の上では寝ていられない。


「どうしようか……」


あと数分したらあの太陽も稜線の奥に隠れる。

何も出来ないまま今度は餓死するのか?

それは嫌だ。死にたくない。

でも出来ることなんて何一つない。

楽なんて出来やしない。

そもそもなんで俺はこの世界に飛ばされたんだ。

そんな事を考えた。

でも考えた所で答えなど出るはずもなかった。


すると後ろから金属同士が擦れ、打ち合う音が迫り、俺の後ろで止まった。


「絶対に動くな。動けば後ろからお前の首を跳ねる事になるぞ」


女の声…

まさか、教会にいた女騎士か!


「俺を…殺しに来たのか?」


すると彼女は少し笑い、まさかと言った。


「じゃあ、何故俺を追ってきた」

純粋な疑問に彼女はあの時と同じように素直に答える。


「キミ、絶対私の事誤解してるからそれを正しに来ただけだよ。異論があるなら斬り殺すよ?」


完全な脅しだ。

異論は無いが分からないことが多すぎる。

ひとまず彼女に従おう。

「分かった。」

そう返事すると彼女は俺の対面に座り、面当てを外し2人の間で火を起こし始めた。

3分ほどで火はますます大きくなり、お互いの顔が良く見えるほどまでに明るくなった。


改めて見ると彼女の顔はやはりと言うべきか、騎士になんてならずにもっと女性人気の高い職業を選んだ方が良かったのではないかと思うほど、騎士に似合わない美しい顔立ちとほのかに匂わす花のいい香りをその髪から漂わせていた。


彼女は黙って背負っていた古臭そうな茶色いバックからソーセージを取り出した。

それと自前で用意していたであろう串をソーセージに差し込み、焚き火の周りに立て置いた。


「キミ、これ食ったことあるの?」


「食ったことあるけど…」


「そうか」


ソーセージに良い焦げ目がつくまではこの会話しか無かった。

互いに初対面とはいえ、殺し殺された関係。

まともに話せるわけが無い。


しばらく沈黙の時間が続いたと思えば、直ぐに飯時となった。


「ほら、焼けた。熱いから気おつけて」

彼女は串の下の方から持ち上げ、ソーセージを1本俺に手渡した。


「ありがとう…」

異世界での熱々ソーセージを手にした俺は早速かぶりつく。

すると口の中には肉の脂が勢いよく溢れ出しその旨みを口全体に渡らせた。

そう、とてもジューシーだった。

あと2、3本ほど食べたいが…頼む相手が悪すぎる。

流石に頼むのは……


「結構美味しそうに食べてたね。ほら、もう一本食べて」


俺はその1本を無言で手に取り、また同じようにかぶりつく。

やはり美味しい。

元いた世界のソーセージも美味しいが、人口調味料を使っていないであろうこの世界で作られた肉はより自然な本来の風味を濃厚に引き出している。

賞賛に価すると俺が言えたものじゃないが、このソーセージで俺の腹と心は満足した。


「ふぅ……美味しかったぁ」

なんて、リラックスしていると彼女の方から話しかけてきた。


「その、なんだ。今朝のことは申し訳なかった。」


「あぁ…それは、まぁ…」

返す言葉も無かった。

後々考えてみれば土足でいつの間にか人の家に侵入してるわけだから、他人からすれば俺が悪いんだよな。


「最初、賊の類かと思って思わず剣を握っていつの間にかキミを斬り殺していた。特にこの国では家に賊が入り込むなんてことは日常茶飯事、今回のことは仕方なかったと言うやつだ。」


なるほど、そうだったのか…


「しかし元はと言えば完全に施錠していた家にしれっと侵入していたキミが悪いんだよ。誰だって賊だと思うだろ?」


ん?言い訳か…これ?


「あぁーもういいよ騎士さん!分かったから!」

俺は言い訳を聞きたくなかった為に彼女の口を黙らせた。


彼女は何故だと言うふうに首を少し傾げた。


彼女は俺を追いかけてまで切った理由をここで話してくれた。

俺も事情を話さないと彼女に申し訳なく思ってしまう。

だから俺のことも…


「騎士さん、俺も言わなきゃ行けない事があるんです。」


なんです?と彼女は言う。

そして俺はこれまでのことを話し始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る