女性騎士に守られるのは嫌ですか?
澄豚
序章 冒険者の端くれ
第1話 転生先が安全だとは限らない
俺はタクミ。
この間誕生日を迎えて19歳になった。
高校在学中から進学の道は考えずひたすら就職の事だけを考え、最終学歴が高卒で地元の会社に就職した。
家から2kmぐらい離れているだけで、自転車でいつも通勤している。
左側を走っていると車が中央の白線を半分ほど越えて俺を追い越して行った。
会社に着くといつものように作業服に着替え、黄色い安全ヘルメットを装着した。
靴は鉄板の入った安全靴。
手袋にはゴム手袋を持参し万全を期していた。
でも、それでも事故は起こる。
事故には色々な要因があるが…今回は人災だった。
今回はとある工事現場に足を運んで作業を任されていた。
クレーンで鉄骨を運び、指定の場所に置くだけの作業なのだが、早く作業を終わらせたかったのか、いつもより早い速度でクレーンの首を回し自重と慣性が加わった鉄製のロープは耐荷重を越えてちぎれてしまった。
釣り上げていた鉄骨は勢いよく周辺に落ちていく。
その最中俺はそれに気づかず、落ちてくる鉄骨の1本をまともに身体に受けてしまいそこで俺は意識を失った。
次に目を覚ましたのは何処かの病院の廊下だった。
動かない身体はストレッチャーに乗せられ、よく分からない必要な機器が俺の身体につけられていた。
一瞬意識が戻った俺に驚いたのか、一緒にストレッチャーを押している看護師が俺とコンタクトを取ろうとした。
だが耳が遠くなってしまったのか彼女の声がボヤけて聞こえてしまう。
彼女は何度も口を動かしていた。
おそらく同じ言葉を繰り返していたのだろうが…その全ては俺の耳には届かなかった。
そして俺はまた意識を失った。
次に目を覚ましたのは病室だった。包帯や治具を施された身体はまともに動けるはずもなく、ただ同じ体勢で時間を見ることしか出来なかった。
そんな時病室の扉が開き、数人の足音と共に俺の所までやってきた。
視線を左に向けるとそこには母親と5つ離れた妹が俺を見つめていた。
母親は涙を流しながらボロボロになった俺の体を優しく抱きしめてくれた。
暖かい身体は俺の感情を呼び覚まし、涙を浮かべてしまった。
妹はベッドの右側に移動してから俺の右手をぎゅっと握りしめてくれた。
「兄さん…絶対元気になって戻ってくるよね?」と語りかけてきた。
まともに喋れない俺は首を少し縦に振ることしか出来なかったが、妹はそれを喜んでくれた。
妹の為にも早く身体を治して復帰しないと金銭面的にも危ないと思い、身体を治すことを決意して目を閉じた。
でもそれが最期だった。
あの後俺の意識レベルは徐々に低下し、脳の活動もなくなってしまった。
実際は脳にもダメージが入っていたらしくあの時間まで意識が残っていたこと自体奇跡だったと、死人の目線で見聞きしていた。
「俺の人生19年…か。短かったな…」
短い人生を幽霊となった今振り返っていたが、突然身体が重力を感じ始めた。
そう、身体は空中で落下していた。
なんだなんだと思い周りを見渡すと下の方に黒い穴があった。
何かの入口なのだろうか、分からなかったがとりあえず体勢を整えスポっと穴に侵入した。
10秒が経つ頃、尻に痛みが走る。
痛ててと思いつつも下に目線を向けるとそこには木製の床が敷かれていた。
なんなら、この家自体が木製だった。
家の中には自然的な木独特の良い香りが充満しており、どこの人物の物かもわからない部屋の中で俺の心はとても落ち着いていてそっと目を閉じた。
穏やかな時間が過ぎていく。
外の虫の鳴き声が壁を隔てて薄っすらと聞こえる。
大きな音を立てながらこちらに近づいてくるような感覚もあった。
...近づいてくる?
俺は途端に目をかっぴらき顔を上げた。
一瞬だったが、目の前には薄い上着をきた胸のデカい女が直剣を振り下ろしていた。
なぜ彼女が直剣を俺に振りかざしているのか、それを考えている間に肩から腹にかけての痛みが全身に駆け巡る。
初めて剣で体を切られた。
とても痛い。痛い!痛い!
うわぁぁあ!と荒々しくも情けない声を発した。
しかし彼女はその手を止めることはしなかった。
無言で肉を切りつける。
彼女の顔はまるで獲物を狩るハンターの如く鋭い眼差しをしていた。
やがて直剣は床に突き立てられ、腹に一発蹴りを入れてきた。
「なっ...で...」
痛みを我慢して発した言葉はまともに彼女の耳に届いたのだろうか?
出来ればこちらの事情も話しておきたい。
涙を浮かべながら彼女の顔を見ようとして俯いた顔を動かすが、彼女の蹴りを顔面に受けてしまいまともに意識を保てるかすら怪しくなってきた。
これでは和解なんてできない。
「あぁーもうわかった!回復させてやるから眠っとけ!」
俺にはかなりぼやけて聞こえたので彼女が実際になんと言ったのかはわからないが、顔に握りこぶしによる打撃を食らわされ、そこで意識を無くした。
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