第10話 獣人族拾った。

「「「お帰りなさいませお嬢様!」」」 

 メイド長の【ミール】とメイドの【キーク】と【イーウ】が帰ってきた館の主人ターシュリーを元気よく出迎えてくれた。彼女たちはいつもテンションが高い。


「にゃ〜ん」

 珍しくにゃにゃーんがトコトコと小走りで近寄ってきて、ご主人様ターシェリーの足首にスリスリして、ペット業の職務を果たしている。

 例え猫と言えどもタダ飯喰らいではイケナイ。ちゃんとペットとしての義務を果たさねば!


「こんな物を拾ってしまいましたわ」

 メイドたちが玄関の大扉を開けると、ターシェリーが横に控える俺が抱えている子供を指差す。


「敷地内で行き倒れておりましたわ。足を怪我していて、高熱を出して震えております。すぐに手当てをして差し上げなさい」


 姫は当主然として、凛と張った声でメイドたちに命ずる。


 ロマーネコンティー・ラ・ロマネッティ侯爵(パパ)が、『娘が困らない様に』と厳選した三人のスーパーメイドは、迅速かつ1ミリの狂いもないくらい無駄なく動き、拾ってきた子供を客室に寝かしつけた。


「お勤めご苦労様です。お嬢様」

 メイド長のミールは子供の世話をイーウとキークに任せ、玄関先でスーツメイルをバラして専用の荷車カートに手際良く積み込んでいく。


 同時にミールは俺に対して、

「この消毒液で身体中拭いてからでないと、屋敷に入ることは許しません!」

 と消毒液が入った小瓶と拭き上げ用の雑巾を投げ付けて寄越す。公爵様が厳しく訓練したメイドたちなので、お客様と姫以外には塩対応だ。

 引っ詰め髪で、整ってはいるがいかにもキツそうなメイド長にされる塩対応は格別だ。

 ハートにジンジン来るぜ。


 と言うワケで、塩対応はいつもの事なので特に怒れることも無く、投げられた小瓶を素直に受け取り、手甲を始め色々な部分を消毒液で濡らした雑巾で拭きあげる。


 ミールいわく、

「拾ってきた物はバイ菌だらけです!

 ソレを触った手、当たった場所とその周辺、全てがバイ菌に汚染されていると知りなさい!

 よってそのバイ菌を屋敷に入れ込む事は言語道断です!」

 だそうだ。

 

 だから先ほど引き取られた子供も、今ごろ身ぐるみ剥がされて清潔な物に着替えさせられ、身体中拭き上げられてすっかりクリーンな状態になって、寝かし付けられている事だろう。

 ついでに『キュアディジーズ』『キュアポイズン』『ファストキュア』等の神聖魔法での応急処置も施されているハズだ。

 彼女たちは任せて安心のスーパーメイドなのだ。


「行き倒れの子供を拾うのは、これで二度目ですわ」

 脚甲とブーツを脱がされた足で、寄ってきたにゃにゃーんのアゴをつんつんしながらターシェリーが言う。

 ちなみに一度目は俺の事だ。俺は物心が付くか付かないかの頃、ロマネッティ家の敷地で姫に発見されて拾われたのだ。


 以来、俺よりちょっとだけ歳上の彼女は、行く宛も持ち金も記憶も無い俺を、ターシェリー様専属の遊び友達兼召使いとして、屋敷に住まわせてもらえる様にロマーネコンティー侯爵にお願いしてくれて、今日に至と言うワケだ。


 ほどなくして『+2スーツメイル』と『+1チェインメイル』は全て脱がされ、鎧下のギャベゾンの状態で汗を流すために風呂に向かって行った。

 フルプレートを着て活動してたら、そりゃーもう汗臭いのなんのって。

 そのため騎士には香水が欠かせない。身分が高ければなおさらだ。


 

 ※中世ヨーロッパはとても不潔で風呂に入らないことが美徳とまで言われていた時代があり、立ち込める悪臭を『香』を炊いてごまかし、更なる悪臭に変化させ、貴族の屋敷と言ってもそれはそれはくっさい屋敷だったらしい。

 なので『中世ヨーロッパ=不潔』と思っている人も少なからず居ると思われる。

 だが実際にはそれは極後期の話しで、大衆浴場が流行り始めたときに運悪く病気も流行してしまい、『大衆浴場に行くと感染する! 身体は洗っちゃダメだ! この汚れが病原菌から身体を守ってくれるんだ!』と言う理論が瞬く間に広がり、高貴な人ほどよっぽどのことが無ければ風呂に入らないという事態に陥ったらしい。

 それ以前は普通に毎日風呂に入っていたらしいぞ!

 


 俺も消毒が終わって脱いだスタテッドレザーアーマーを脇に抱えて、ターシェリー様の鎧を積んだカートを押しながら乾燥室に持っていった。

 従者だからな。先ずご主人の鎧のメンテナンスが先だ。

 プレートメールアーマーのパーツを、一つ一つ丁寧に磨き上げるのだ。愛が無ければできない仕事だぜ。

 (※従者として当然の仕事です)





 さて、夕食もそろそろ終わろうかと言うとき、

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ」

 と言う声が館に響き渡った。


 どうやら拾ってきた子供が目を覚ました様だ。


 姫と俺は一目散に子供を寝かせてある部屋に駆け込んだ。


「目が覚めましたか?」

 部屋に入りつつ、姫が声を掛ける。


 ベッドに居る子供は上半身を起こしており、ギュッと握りしめた掛け布団で身体を守るかの様に巻き付けている。

 その目は怯えていて、自分が居る場所をキョロキョロと見回している。

 部屋に飛び込んできた俺たちを見てビクッとし、今にも泣き出しそうになっている。


 赤みを帯びた茶色い髪の、ショートボブカットの女の子だ。年の頃は14歳くらいだろうか。

 何があったのか聞きたいところだが、未だ顔面蒼白で震えている彼女を、ずは安心させなければならない。


「ここはワインレッド州のロマネッティ侯爵家の次女にして、ワインレッド州任命騎士であらせられる、姫にして騎士、姫騎士ロマネッティ・ラ・ターシェリー様のお屋敷である。

 何があったかは知らないが、お前がターシェリー様の敷地内で行き倒れていた所を、姫が見付けて保護されたのだ。

 だから安心していぞ。

 おキクさん、頼みます」


 俺は極力目の前の少女を安心させるように務め、メイドのキークおキクにバトンタッチした。


「さぁ、先ずは温かいスープをお飲みなさいな。身体を暖めると心が落ち着くわ」

 キークはクイーンサイズのベッドに腰掛け、少女を横からかかえ、スープスプーンを口元に持っていく。


「ゆっくりお飲みなさい」

 赤茶色の髪の少女は二口ほどスープを啜り、キークからスープ皿を奪って一気飲みして、右腕で口を拭ってからから言った。


「ひめきし・・・姫騎士ぴょん? 騎士様! 良かった。アタイは辿り着いたんだぴょん!」


 その言葉で自分を頼って来たのだと知った姫は、キークに軽く頷いて下がるよう合図をし、ベッドに腰を掛けて話しをうながす。

「|酷い様子でしたが、何処から来たのですか?」


「アタイは獣人族ライカンスロープ兎獣人ワーラビットの【ペティート】だぴょん。アタイはココからず~っと北に行った【ウィスキーボンボン】州にある獣人族の村【カクビン村】から、正義の味方の【赤紫の姫騎士ヴァイオレットプリンセスナイト様】を頼りに来たんだぴょん」


わたくしのことがウィスキーボンボン州にまで届いているの? それは我が州の広報大使として光栄ですわ」

 

「近所の兄ヤンが王都まで行商に来てるから、兄ヤンに聞いたんだぴょん。すっごい強くて綺麗な騎士様がいるって。だから、そんな騎士様にアタイの村を助けて欲しくてここまで逃げてきたぴょん! 村が、村が悪いヤツに乗っ取られてしまったぴょん! アタイの村を助けて!」


「ちょっと、ちょっと話しの腰を折ってすまん。ペティート、その取って付けた様な『ぴょん』は要らなくないか?」


「『ぴょん』はアタイたち兎獣人ワーラビットの誇りだから、付けないと長老に叱られるぴょん」


 話の腰を折られてイラッとしたターシェリーが話しを戻す。

「村? 村に何かあって逃げてきたのですか?」

 姫は少女の目線になるまで屈んで問い掛ける。


「アタイが村の裏手にある山へ柴刈り、捕まっちゃった妹は川へ洗濯に行っている時だぴょん。

 悪い人間たちが村に押し入って来て、大人たちを倒して、子供たちを捕まえ始めたんだぴょん」


「悪い人間? 人間なんかより獣人族ライカンスロープはよほど強いのではなかったかしら?」


「戦える大人たちは、隣接する魔族領との戦争に駆り出されていて、『戦争で一稼ぎしてくるんだ!』って、みんな出稼ぎに行ってたぴょん。だから村に残っているのは子供と老人だけだぴょん」


「貴方はどうやって逃げてきたのですか?」


「アタイが山から村に帰ってくる途中で、兄やんが引き止めてくれて、そのまま王都まで4日間走って逃げて来たんだぴょん」


「貴方一人で来たの?」


「そうだぴょん。兎獣人ワーラビットは脚が速いからだぴょん。それに兄やんは犰狳獣人ワーアルマジロ(きゅうよじゅうじん)だから、アタイに付いて来られないんだぴょん」


犰狳獣人ワーアルマジロって珍しくねーか? イテッ」

 俺が横から口を出した瞬間、

五月蝿うるさい! 今そこにツッコミを入れてる時じゃ無いですわ!」

 と平手打ちが飛んできた。


「それで、その者たちは貴方の村を襲って何がしたいの?」


「アイツラはアタイたち獣人族の女子供を捕まえて、奴隷商人に売り飛ばすのが目的だぴょん」


「分かりました! サンヴィヴァン、チームゴージャスは明日の早朝、カクビン村に出発いたしますわ。準備なさい!」





 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


〈あとがき〉

 さてさて、4ヶ月掛けて作ったストックはここで底を尽きてしまい、ここからは超スローペースになってしまいます。


スパロボの方も書かなきゃいけないと思いつつ気ばかり焦る毎日です。


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

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