第9話 え? 暗黒魔王なん?
ノンベ村を出た俺は、姫と合流して
本来の目的である『悪意の収集』とは全く関係なさそうだが、ギルドへのポイント稼ぎにもなるし、報告義務もあるので、ワルヨイの森へと歩を進めた。
一旦山に入ってしまえば、野獣に出くわす危険性も高くなるし、休憩ポイントも都合良く見つからないかもしれない。
なので少し早いが昼食を取った。
馬たちはそこに繋いでおいた。
ここからはいよいよ山に突入する。
山に入ると程なくワルヨイの森に差し掛かる。
鬼が出るか蛇が出るか。
何か痕跡は見つかるだろうか?
森の木々は密度が濃く、日が高いにも関わらず日光は少ししか入ってこない。
聞いた通りの鬱蒼とした森だ。
空気がシンと冷えている。
背の高い下生えの草が生い茂り、それに隠れてウネウネと伸びている木の根に足を取られる。
スタッテッドレザーアーマーの俺でさえ歩きにくいのに、魔法金属製で軽いとは言え、全身金属鎧の姫様には結構キツイ行軍だと思うぞ。
余談だがこのスタッテッドレザーアーマーは、姫が俺の為に買ってくれた尊い物だ。
★★★★★★★★★
「
ワインレッド州一の都市【ロゼ】で、一番大きくて高級品しか売っていない武器屋に来ていた俺たち。
金貨9万枚のスーツメイルに比べて、俺のレザーアーマー(上下フルセット)は金貨4枚だ。
姫の名誉の為にも言っておくが、金貨4枚でも高級品だ。
安いレザーアーマーはせいぜい銀貨800枚もあればお釣りが来る。
しかも『貴方はレザーアーマーで十分』と言いつつ、俺の元に届いた時には全面に鋲を打ち付けて防御力を強化してある、スタッテッドレザーアーマーに強化改造されていたし。
値段も金貨5枚にアップしていた。
姫の愛を感じる、泣かせるエピソードだろ?
★★★★★★★★★
ワルヨイの森に入ってから、かれこれ2時間が経つ。
「もぉぉぉ、イヤッイヤ イヤ!!! 汗でパンツまでびしょびしょですわ!!」
ついにターシェリーの我慢が限界を迎えた。
「姫、ここらで一旦休憩を取ろう」
何処かに座れそうな切り株か何か無いかを探す。
無い。
こうなったら仕方がない。
俺はその場で背負っている鍋・ヤカン・スポットライト用魔導ランタン・食器・食材などなどが詰まった巨大リュックサックをドサリと落とし、その場でしゃがみ込み、小さく背を丸める形になった。
「さあ、姫! 俺がイスです! 俺の背中で存分にお休みください」
仕方が無いんだ。
決して姫のお尻を背中で感じようとか、そんな理由じゃ無いんだ!
姫を休ませてあげたいと言うだけの、一点のくもりの無い俺の愛だ!
ターシュリーは遠慮無く俺の背中に座る!
金属鎧の角が色々突き刺さる。
ああああ、姫。俺の想像力が! イマジナリティが! う、宇宙を感じるぅぅぅぅぅ。
至福の休憩時間はあっという間に終わり、荷物を背負って探索を再開した。
気が付くと、この辺りに生えている木々に、大きな爪で引っ掻いた痕がいくつもあるのを発見した。
この爪痕・・・どうやら普通のフォレストベアーの爪痕の様だ。
にしては数が多くないか?
後ろから付いてくるターシェリーに振り向かずに手で『待て』の合図をし、注意深く歩を進める。
『ガオガオ・ギャーギャー』と騒がしい声がする方に歩いて行くと、やがて開けた場所に出た。
そこはちょっとした崖くらいに高さのある場所で、不意に足下の地面が消えたから危うく足を踏み外して落ちそうになった。
下を見ると1メートルほどの崖下には小川が流れており、そこに水が溜まってちょっとした池クラスの湖があった。
いわゆる野生動物たちの水飲み場だろう。
それにしても何だこのクマの数は?
俺の眼下には野生のフォレストベアーが・・・ざっと見て20頭は居る。
おかしいな。
フォレストベアーが群れて行動するなんて聞いたことが無いぞ?
ここが水飲み場だからたまたま熊たちが集まってきたのか?
「ANnnnnnnnKOoooooooooo!」
小川の上流から聞いたことも無い低いうなり声のような咆哮が聞こえた。
何とも恐ろしげな声だ。
その声を聞いた途端、下の水を飲んで休憩していたフォレストベアーどもが一斉に声がする方を向き、小川の上流に歩き出した。
「ANnnnnnnKOooooooooo!」
また吠えた。
上流の方を見ると、山のように大きな赤黒い熊が、たくさんの熊を従えていた。
この辺りの熊を統率しているのか?
「あんこぉぉって叫んでいませんか? あの大きな熊さん」
いつの間に来たのか、すぐ真後ろに姫が来ていた。
流石! 音がしない金属鎧だ。
「あんこって、んなバカな」
俺は軽く鼻で笑ってしまったが、その時タイミング良く例のクマが吠えた。
「ANnnnnnKOooooooooooo!」
恐ろしげな声だったから気が付かなかったが、確かに『あんんんんこおおおおお』って言ってる気がする。
・・・・・・ちょっと待て。
この辺りの熊を束ねている、いわゆる『熊の王』が、『あんこぉぉぉ』って叫ぶ?
・・・・あんこ熊王
・・・・暗黒魔王
「・・・・帰るぞ」
「ガセじゃねーか!」
俺は冒険者ギルドの受付嬢リーリーに食って掛かっていたが、内心『ま、そんなこったろー』とは思ってたから、本気で怒っている訳では無い。
だいたい王国の中心地であるアルチュー近辺を、暗黒魔王がウロチョロしてる状況だとしたら、悠長に調査とか言ってられないヤベー事になってる筈だ。
今回の結果は、(多分ギルドマスターも含めて)薄々判っていたであろうクエスト結果だと思う。
ただ、ギルドマスターからの依頼だと言う事を考えれば、ギルドのスポンサー関係とか、大人な事情があったのだろう。
駆け出し冒険者であるチームゴージャスとしては、ギルマスの依頼を断る理由は無く、ポイントを稼いでおかなけれならない。
カウンター前で数々の荒ぶる冒険者を相手にしてきた歴戦の勇者であるリーリーは、俺が本気じゃない事はお見通し。
ニッコリ笑って今回の報酬を渡しながら、次のクエストを提示してきた。
「チーム・ゴージャスさんに、峠の茶屋組合からクエストが入っています。
最近各地の峠の茶屋を狙って暗黒魔王が出現しているそうで、その調査依頼が届いています」
「は!?」
「ですから、峠の茶屋に暗黒魔王が!」
受付嬢は全力の営業スマイルだ!
「リーリー、リーリー、そんなバカな話しを本当に信じているのか?」
「えっとぉぉぉぉ、依頼ですからぁ」
うっせぇよ。つべこべ言うな!って内心思ってるリーリーは、顔が全力営業スマイルだが、こめかみに『#』がいっぱい浮かび上がっている。
「峠の茶屋に暗黒魔王? それは『暗黒魔王』じゃなくて、『あんこ食う魔王』だ!
単なる茶屋団子専門の食い逃げ犯だと思うぞ。
ゴールドクラス冒険者の仕事じゃねーだろ!」
「なるほど! 素晴らしい洞察力です!」
彼女は相槌を打つのが上手い。
「いや、ちょっと待て。
『あんこ食う魔王』って事は、曲がりなりにも『魔王』じゃねーか!
そいつ倒せば『ディアブロ・スレイヤー』みたいなカッケー『二つ名』が付くんだろうか?」
「###!」付かねーよ! (リーリー心のツッコミ)
「それではこのクエストを請けて貰えますか?」
笑顔の彼女は鉄のハートを持っている! 正に営業の鏡!
「やらねーよ!」
「ですよね~~」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
〈あとがき〉
オッス、オラ【じょえ】。
ちなみにオラのゲームで使う名前はほぼ『あんこ熊王』ですって。
よろ!
いつも応援してくださる方、御礼申し上げあげます。
誠にありがとうございます。
感謝しております。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
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