第8話 『暗黒魔王』

「『暗黒魔王の痕跡を調査報告せよ』ですか? 

 それってゴールドクラス冒険者で行けるクエストなのか?」


 俺たちは朝もはよから冒険者ギルドのギルドマスター・アレックスの名前で呼び出され、カウンターで受付嬢のリーリーと向き合っていた。

 相変わらずターシェリーが「ごきげんよう!」と言ってギルドに入ってくると、館内はしんと静まりかえってしまう。


「はい、あの・・・ギルドマスターがおっしゃるには、・・・えっと、暗黒魔王の情報自体はかなり眉唾物で、真偽がかなり怪しいそうです。しかし万が一にも本当だった場合、王都に未曾有の大災害がもたらされることが予想されるので、魔王が出現したという情報のポイント付近の調査をお願いしたいそうです。

 ですので『痕跡の調査』だけで良いのですが、万が一にも本物が居た場合に、魔王から逃げられる可能性が少しでもある冒険者じゃ無いと派遣できないと言うことで、『チーム・ゴージャス』にご指名が掛かった次第でございます」

 

 そうそう、俺たちのチーム名は【ゴージャス】と名乗ることにした。

 この名前に嘘偽りは無いしな。


 何を隠そう、このチームのリーダーは俺だ。

 リーダーはギルドと交渉(御用聞き)し、今請けられる仕事をパーティメンバー(現在ターシェリーのみ)に持ち帰って決めてもらう。リーダーが決定権を行使するのでは無く、仲間の意見を大事にするためだ!

 他にもヒールポーション・アンチドーテポーション(解毒薬)・アンチパラライズポーションなどの在庫調達・管理、スーツメイルアーマーの磨き上げ(武器管理)なども、リーダーとして当然やる事だ。

 俺はリーダー(雑用係)だからな!


 あれから何度かクエストをこなしているというのに、可哀想な受付嬢のリーリーは、未だにターシュリー様の前では緊張してしまうようだ。

 普段は荒くれた冒険者相手に勝ち気に対応している活発な女の子なのに、冒険者たちとは毛色が180度違う姫に対しては調子が出ないようだ。


「確かに。わたくしはその点かなり可能性が高いでしょうね。でも万が一本物の魔王なる存在と遭遇してしまったとしたら、サンビヴァンにはちょっとキツいかもですわね。おっほっほっほっほ」

「そこ優雅に笑うところじゃねーだろ!」

 俺は主人のターシェリー姫に裏拳でツッコミを入れる。


 俺と姫は主従関係ではあるが、幼い頃から一緒に育ってきた幼なじみでもあるので、多少の無礼は許される。

 その辺がリーリーや他の冒険者たちには理解できないらしく、一瞬『ぎょっ』とされる。

 もし俺と同じ事をこの人たちがしたら、当然、大貴族に対する『不敬罪』であり、最悪その場で殺されても文句は言えない高貴な存在だからだ。

 

「あの・・・そ、それではよろしくお願いいたします。サンビヴァンさん。これが地図です」

 受付少女リーリーはサンビヴァンに向かってニッコリ笑って地図を手渡した。

 

 彼女はいつも大貴族のターシェリー様を差し置いて、俺に話しかけ、俺と受け渡しなどをする。

 俺のリーダーとしての徳のなせる技か? 

 いや、ひょっとして彼女は俺に気があるのか? 俺も罪な男だな。ごめんよリーリー、俺には姫という大切な人が居るんだ。

 (リーリーは単にターシュリーが苦手なだけで、今もできるだけ早く立ち去ってもらおうと締めに掛かっただけだ)


「ありがとう、リーリー」

 俺は可憐な少女リーリーに向かって右45度に構え、ニカッと笑い、犬歯をキラリと光らせて(脳内イメージ)礼を言う。


「いってらっしゃいませ!」

 彼女が内心『おえっ』て思っているとはつゆとも知らずに。


 


 冒険者ギルドの依頼『暗黒魔王の痕跡を調査報告せよ』の指示書に従い、一番それっぽい報告が上がっている、【ワルヨイの森】に行ってみることにした。


 東にそびえる【シャルドネ山脈】を越えて、遠くワインレッド州まで繋がっている街道を進んでいる俺たちチームゴージャス。

 ワルヨイの森に行くには、東の街道を進みシャルドネ山脈に入る手前にある村、【ノンベ村】を経由して、そこから1キロほどなんかしてから山に入った、鬱蒼とした森らしい。

 

 王都アルチューからノンベ村までは普通の馬で約一時間ほど掛かる。


 が、一般的な馬より二回りも体躯が大きく、厳しい訓練をされてきた俺たちの軍馬、白馬【ランボルギーナ】と黒馬【ポーシェ】はこの道を40分で踏破してきた。

 どーだ! スゲーだろ? コレがカネの力だ!


 ほどなくして、シャルドネ山脈ふもとの【ノンベ村】に着いた。


「ワルヨイの森って所で『暗黒魔王』が現れたと聞くが、何か聞いた事はあるか?」


 現場の【ワルヨイの森】に行く前に、ノンベ村の酒場で少々聞き込みをしてみた。

 とても目立つ格好をしているターシェリー姫には、村の外で待っていてもらうことにした。

 彼女が村に入ると、説明が面倒臭そうだからだ。

 

「おうおう、オレんとの知り合いの猟師から聞いた話しだがな、最近あの森の木々にそれはそれは大きな爪痕が、いっぱい付いてるんだってさ。フォレストベアーの爪痕よりも数倍デカかったらしいんだと」


「ワシは木こり連中に聞いたんだ。森の奥の方から『アンガァァァァ、アンガァァァァ』って、聞いたことも無いような吠え声が聞こえたそうで、こりゃぁヤバいってんで速効仕事止めて帰ってきたんだってよ」

 

「オラ見ただ! 日が陰る少し前、薄暗くなってきたからそろそろ猟を止めて帰ろうかと思ってたときだ。人の2倍も3倍もあろうかってでっけー影が、木の陰からヌって現れたんだ! オラ腰抜かしちまってなぁ。ションベン漏らしちまっただよぉ。それでも何とか逃げなきゃあって、四つん這いになりながらほうほうの体で逃げてきただよぉ。ありゃー魔王にちげーねー!」


 ・・・今までの証言で魔王かどうかと聞かれたら、魔王ではなさそうな気はするが、少なくとも一般的なフォレストベアーよりも大きい何かが、森を徘徊している様ではあるな。


「ありがとう。有意義な話しが聞けたよ。これ、少ないけど、みんなで一杯やってくれ」

 バーテンに向かってそう話しかけ、カウンターに金貨を1枚パチンと置く。

 

「「「「おおおお」」」」

 ちょっと周りがざわめく。


 『少ない』なんて言いながら金貨を1枚さらりと置く。俺、カッケー!


 酒場をあとにする俺はちょっと得意気だ。


 豪快に奢るのって、気分いいね。

 他人ひと(ターシェリー)のカネだけど。

 いや、他人のカネだからなおさら気持ちよく奢れるか!


 



 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


〈あとがき〉

【じょえ】どえっす。


『昔聞いた金持ちの話し』


ある大企業の社長令嬢の話しです。

そのご令嬢様は自分の会社で働いていました。


ある日、同僚で仲の良い女子社員と『宝くじ』を買ったそうです。


お嬢様はもちろんお友達に付き合って軽い気持ちで買った、完全に道楽です。


でもそんな人が1億当たってしまうのです。



そして1ヶ月ほど経ち、同僚がお嬢様に聞きました。

「ねぇねぇ、当たった1億どうなった?」

「あぁ、えっとぉ? 服買ってぇ、ご飯食べたよ」

「・・・・・・・。」


そのレベルで1億使うんかぁぁぁぁい!!(パンピー心の叫び)


ですって。

金持ちってっっっっっ!



 最後になりましたが、いつも応援してくださる方、さらに重ねて御礼申し上げあげます。


 誠にありがとうございます。


 感謝しております。


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

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