第7話 冒険者ギルドにて
冒険者ギルド。
少し大きな町であればだいたい一つはある冒険者のための組合だ。
各冒険者ギルドは各々独立しており、町ごとに冒険者登録をしなければならないが、冒険者カードに記載されている情報は受け継がれる。
およそ冒険者とは一つの仕事に腰を据えて続ける事ができずに、癇癪を起こして雇い主や客と喧嘩になるような、ゴロツキ一歩手前な連中が多く、その連中が盗賊や山賊に転職を決めない様に仕事を与えて上手いこと使っている。
『町の元荒くれ者』と言う『毒』を使い、ゴロツキ・盗賊団・町の外周に居る野獣や魔獣の退治をさせている。
『毒をもって毒を制す』ナイスなシステムの組織なのだ。
小さな街では冒険よりも自警団的役割の方が多い。
しかし大きな街ではその様相はだいぶ変わってくる。
仕事も多種多様に有り、冒険者に求められる能力も『力』だけでは解決できない案件ばかりだ。
もちろん! 王都都心にある冒険者ギルド本店は建物が3階建てにもなる大きな店舗に入っていて、酒場も宿屋も完備している至れり尽くせりな冒険者ギルドである。
ここは国中から集まってきた多種多様に対応できる冒険者たちが登録されていて、今日も大賑わいだ。
今回はそんな冒険者ギルドでのお話しです。
「あのぉ、えっと・・・かくにん、なんですが、ロマネッティ侯爵家のターシェリー様ご本人が、冒険者登録をした・・・なさられた・・・なさりたいと言う事で、よろ、よろしいのでありますでござりましょいか?」
冒険者ギルドの受け付け嬢が、カウンターの向かい側に立つ、明らかに場違いな超高級そうな金ピカフルプレートアーマーを着けたちょっと不機嫌そうなターシェリーの冷たい顔と、国賓級のビッグネームに震えながら応えていた。
受け付けのおねーちゃんは緊張のあまり言葉がくちゃくちゃになっている。
ちなみに今日の姫はヘルメットを被ってはいない。
なのでターシェリー様の美しい端正な顔が全開放されている。
美人の宿命だろう、彼女はただ普通にしているだけなのに、黙って立っていられると『怒ってるんじゃないか?』と
受け付け嬢が勝手に『威圧されてる』と感じるのも無理は無い。
★★★★★★★
姫がギルドに現れるちょっと前。
アルコホール王国首都、アルチューの西区、通称アルチューヒルズの一角にあるロマネッティ侯爵のご令嬢、ターシェリー様が住まわれている、門番付きで、都心であるにも関わらず門から邸宅まで馬車で1分も掛かる、兎に角デカい自宅。
昨日の夜遅くに馬2頭(ランボルギーナとポーシェ)・1頭立ての馬車3台で引っ越してきたばかりで、まだ3人のメイドたちがバタバタと引っ越しの荷物整理をしている中、
「サンビヴァン! 王都で色々活動しようと思ったら、冒険者になった方が良いとお父様に言われましたわ。貴方ちょっと冒険者ギルドに行って登録をしてきてちょうだいな」
「冒険者登録はスキル鑑定とか契約魔術とかあるから本人が行かないとダメッスよ」
無駄に広い食堂の長大なテーブルの端っこに斜向かいに座って、ターシェリー様と俺は朝食を取りながら今日の予定を話し合っていた。
「えぇぇぇ? ヤダ、めんどくさいですわ! ギルドがこっちに来れば良いですわ!」
と、めっちゃ駄々をこねていたターシェリー姫。
確かに地元ではほとんどの商人などがお屋敷に呼び出されて買い物などの用事を済ませていたので、『ここに連れてこい!』と言う感覚は彼女的には間違いでは無いのだが、ここはワインレッド州では無い。
何とかなだめてすかして冒険者ギルドまでご足労いただいた次第である。
だからちょっと機嫌が悪いかも。
★★★★★★★
つい先刻まで怒鳴りあいの喧嘩をしているかの様な、王国有数の騒々しい場所である筈の冒険者ギルドの受け付けホールは、場違いなご令嬢の登場に水を打ったようにシンと静まり返っていて、ギルドホール全体がこの前代未聞の珍事の成り行きを、固唾を飲んで見守っている。
だから可哀想な彼女は、余計に萎縮してしまっている。
「そう言った筈ですわ」
それほど大きい声でも無く、怒気がこもっている感じでも無いのだが、物凄く攻撃的に聞こえるのは、姫が持つ大貴族オーラのなせる技なのか。
「は、はい! すみません! 今ギルドマスターがおり、降りてきますので、もう暫くお待ちください、ませ!」
そこへこの静寂をぶち破って2階からバタバタとギルドマスターのアレックスが受け付けカウンターに飛び込んできた。
ギルドマスターのKYさ加減にホッとした受け付け嬢。
ギルドマスターのアレックスは、ツルッパゲでちょび髭を生やしていて、上半身裸に蝶ネクタイとサスペンダーのみと言う、やたらと筋肉を見せ付けてくる
「これはこれは、ロマネッティ家のお嬢様! この様なむさ苦しい場所へ御足労いただきまして、誠に恐縮でございます。こんな場所ではなんですので、2階の応接間でお話しをお伺いいたします」
アレックスは深々と礼をしているが、基本の立ち姿勢が『フロントリラックスポーズ』なので、僧帽筋・三角筋・広背筋・大胸筋・外腹斜筋・大腿四頭筋を見てくれと言わんばかりにピクピクさせて強調している。
・・・コレは俺にツッコめと言っているのだろうか?
こんな時はアレだな。
「ナイスバルク!」
俺は昔テレビで見た事があるボディービルの掛け声をそのまま言ってみた!
こっちの言っていることが解ったのかどうかは判らないが、意図は伝わった様だ。
気を良くしたアレックスがニカッと笑ってこっちを見た。
「リーリー君、お茶の用意を頼みます」
可哀想な受け付け嬢は【リーリー】と言うらしい。
「ささ、姫様。こちらでございます」
ギルドマスターに
部屋はかなり広い部屋で、筋肉を鍛える為のトレーニングマシンが所狭しと並べ立てられている。
その片隅に申し訳なさそうに応接コーナーがある。
「なるほど・・・。ある使命を遂行する為に、王都で冒険者として活動をしたい。と言うわけですな。
ギルドマスター・アレックスは会話をしながら『フロントダブルバイセップス』『フロントラットスプレッド』『サイドチェスト』とポーズを変えながら、めっちゃ笑顔でアピってくる。
俺は仕方なく
「仕上がってるねぇー」
「肩がメロン!」
「腹斜筋で大根すりおろしたい!」
と、合いの手を入れてやる。
ギルマスはかなり満足そうだが、やり過ぎた。アレックスが調子に乗り出した。
兎に角どーにも
俺は正直顔を背けてしまったのだが、姫は貴族の
「リーリー君、準備は出来たかな?」
『アブドミナルアンドサイ』のポーズでニカッと笑いながらアレックスが言う。
両腕を上げるポーズは
両方の脇が全開放されてっから、モワッと来るんだよ、モワッと!
「こちらにご用意出来ましたでごじゃりまっっす」
リーリーが金と銀のカードを持ってきて、俺たちが座っている応接テーブルの上に置いた。彼女はまだ緊張しているようだ。
アレックスが金色のカードを姫の前に、銀色のカードを俺の前に置きながら、『サイドトライセップス』のポーズを取る。
しょうがねぇなぁ、もう。と思いつつ俺もノリノリだが。
「肩が三角チョコパイ!」
「あぁぁぁぁ、もう! 話しが進みませんわっ!」
ガントレットを着けた文字通りの姫鉄拳が、俺の脇腹に突き刺さる。(白235ダメージ)
「げふぅぅぅ!」
姫の全力パンチで俺が壁まで吹き飛び、壁で背中(白87)と頭(白95)を強打した。
かなりのダメージを食らった。
その様子を見ていたアレックスとリーリーはドン引きして顔を真っ青にしている。
おかげでギルマスはおとなしくなった。
しかし実は俺にはご褒美だったことは言うまでも無い。
「お嬢様はワインレッド州の騎士様であらせられますので、勝手な判断ながらゴールド級冒険者として登録させていただきました。同じ様に従者様も、シルバー級冒険者として登録をいたしました」
「普通は一番ランクの低い『ウッド
「確かにおっしゃる通りなのですが、・・・ぶっちゃけ貴方様をウッド級にしましたら、わっしはきっと何か巨大な力によって、とんでもないトラブルに巻き込まれてしまいそうですので、お願いですからそのまま受け取ってください。
それにゴールドクラスであればほとんどのクエストが請けられますので、本来の目的である『使命の遂行』に活用できるかと愚考いたします」
「そうなんですの? それでは仕方ないですわね。これからも色々と教えてくださいませ」
「はは。こちらこそぜひよろしくお願いいたします。それから、是非ともロマネッティ侯爵様へ、よしなにお伝えください」
アレックスは分厚い筋肉を小さくして、手をスリスリスリスリしながら営業スマイルをした。
「わかりましたわ。お父様に伝えておきましょう」
ターシュリーも大貴族オーラ全開の極上スマイルで返した。
この笑顔にやられて魅了されてしまう人は多いから、要注意だ!
と、心の中でギルマスに注意喚起をしたが、やられたなあいつ。
既にメロメロだ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
〈あとがき〉
【じょえ】だったかも。
ボディビルの大会会場は一回行ってもたいっすねー。
あのボディを鍛えるためにとてつもなくストイックな生活してますからね。
とても素晴らしいです。
その飽くなき努力には頭が下がります。
ここまで読んでいただいて誠にありがとうございます。
感謝しております。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
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