第6話 姫騎士誕生
ターシェリーの実家があるワインレッド州は、広大なアルコホール王国を形成する国々の一つであり、王国の首都【アルチュー】の東部に位置する【シャルドネ山脈】の山岳地帯を含む広大な土地が、大貴族ロマネッティ侯爵の領地だ。
今日はワインレッド州の中心都市【ロゼ】の荘厳な中央教会大聖堂において、騎士の叙勲式が行われていた。
「ターシェリー・ラ・ロマネッティよ。本日これより、そなたにこの国の騎士を任命する」
ワインレッド州の領主であるロマーネコンティー・ラ・ロマネッティ侯爵は、娘であるターシュリーに幅広の刃を持つ聖剣の腹で、右肩・左肩とそっと叩いた。
彼は娘を騎士にするために、自分の権力を最大活用して急遽強引に騎士に取り立てたのだった。
侯爵は日々臣下・臣民に誠実であり、とても人気の高い領主様なので、彼のワガママとも言える今回の騎士騒動は臣下の中にいくばくかの不信感を募らせたが、最終的には『このくらいのワガママなら許すか』という雰囲気になり、侯爵の娘を急遽騎士に任命するという離れ業をやってのけたのだった。
いつも謙虚な侯爵が急にワガママを言ったのは、猫型宇宙人の洗脳によるものなのだが、それは誰も知らない話しだ。
本来(※中世ヨーロッパ)であれば騎士は男子であり、7歳くらいから親戚などの近しい血族の騎士の家に、騎士の従者(見習い騎士)として住み込みで丁稚奉公に入り(一応給料は出る)、鎧一式の脱着の手伝い(騎士は下着の上に身につける金属から肌を守るために羊毛の上下の服を着て、突き刺し攻撃から守るために上下の鎖帷子を着、その上に刃物から守るために全身鎧の金属パーツを紐で縛り付けて組み立てていくので、脱着にかなりの時間が掛かるのだ)馬の世話をし、時には騎士に付いて戦場に出て、騎士のあらゆる行動の世話を21歳くらいまでして、師匠である騎士が推薦状を書き、領主・協会・騎士ギルドなどにお金を払って、やっと騎士に任命されるのである。
昔はそこまでお金を払うことは無かったので、一般人からでも騎士の元で修行をして騎士になった者も居たのだが、昨今ではちょっとした貴族でさえ、その莫大な金が払えずに見習い騎士のままで過ごす者も少なくないという。
幼少の頃から戦闘訓練・魔術訓練などをしていたとは言え、かなりきつくつらい10年以上の時を過ごさずして騎士に任命された彼女は、かなり異例づくしな騎士なのだ。
この国、ワインレッド州でアイドル的人気を持ち、なおかつあまり文句を言える人間が少ない『姫』という立場のターシュリーで無ければ、認められない人事であったのは確かだ。
議会は大荒れに荒れたのだが、
「国のイメージアップキャラと考えれば良いかも!」
という意見が大多数を占めるようになり、可決されたのだった。
かくして「姫にして騎士=『姫騎士』」と言う謎の職業が誕生したのだった。
ワインレッド州の広告塔である姫騎士ターシェリーには、鎧のベースカラーをワインレッドで染め上げることが義務づけられた。
さてさて騎士になったからには、規則として『従者』を一人以上雇わなければならない。
(※中世ヨーロッパでもそう言う規則になっていたそう)
だから姫は迷わず俺を従者に指名した。
幼少の頃から姫と一緒に訓練を受けてきた俺だ。コンビプレーも既に完璧だ。
だから当然だとも思うのだが、ひょっとしたらコレも洗脳のなせる技なのか?
全く判らない。
それから怒濤の日々が過ぎていった。
あれよあれよという間に王都で大邸宅が購入され、鎧を着けた巨大な白い軍馬と馬上槍が届き、フルオーダーメイドのフルプレートアーマーがたった2ヶ月で仕上がってきて! 気が付いたら王都へ引っ越しをする当日になっていた。
出発の日。早朝4時。
「みな様ご機嫌よう。朝早くからありがとうございます」
乗馬用のラフなパンツスタイルで愛馬【ランボルギーナ】の馬上から、見送りに出ているターシェリーの家族とメイドたち、合わせて42人に挨拶をしていた。
ちなみに俺の愛馬は【ポーシェ】だ。
「本当に行ってしまうのかい? ターシェリー?
来月はパパの誕生日だ! パパの誕生日をお祝いしてからでも出発は遅くない筈だよ?」
ロマーネコンティー侯爵は、威厳もヘッタクレも無いパジャマにガウンを羽織った格好で、馬の
領主さま! 知らない人が見たら単なる変態ですよ!
俺ら使用人は知ってからいーけど!
「お父様。
鎧が完成した以上、一刻の猶予もなりません。お父様の茶番に付き合っている暇は無いのです」
ていっ! っと足にすがる父を蹴り飛ばすターシェリー。
「茶番は言い過ぎよ、ターシェ」
よろけるロマネッティ侯爵を慌てて支える長女の【エーシェ・ラ・ロマネッティ】と侍女2人。
「もう、貴方という人は、娘のことになると本当に見境無いんだから!」
こんな早朝であるにも関わらず完璧な化粧と出で立ちで凜と振る舞う、ロマネッティ家のブレーンにしてターシェリーの母【イチキュー・ラ・ロマネッティ】が、ひらひらの扇子で旦那の頭をペシッと
イチキュー・ラ・ロマネッティ公爵夫人、通称キュー様。
彼女がワインレッド州実質の経営者であり、とてつもない商才の持ち主である。
後の歴史書には、『ロマーネコンティー侯爵最大の功労は、この人を妻として迎え入れたことであろう』と記されている。
彼はただ彼女の言いなりにさえなっていれば人生安泰なのだ。
出発時にそんな茶番がバタバタとあったが、俺と姫が乗る馬2頭と、3人のメイドがそれぞれ操る、引っ越し荷物を満載した1頭立ての馬車3台は、直線距離で100キロだが、曲がりくねった山道なので総計120キロにもなる大移動を開始した。
険しい【シャルドネ山脈】を越えてゆくので山道の間は歩く程度のスピードしか出せないが、それでも夜間には王都に到着した。
いよいよ、俺たちの愛の(?)新生活が始まった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
〈あとがき〉
【じょえ】?
見て分かると思いますが、ロマネッティ家はDRC社(ドメーヌ・ド・ロマネコンティ社)の銘柄で揃えてあります。
DRCの筆頭はもちろん『ロマネコンティ』
次が『ラ・ターシュ』
次が『グラン・エシェゾー』
と続きます。
呑んでみてぇぇぇぇ
学生のときにDRCのグラン・エシェゾーラッパ飲みして
『バカヤロー』って怒られたよぉぉ
もちろん今そんなことしたら許さんよw
いつも応援してくださる方、ありがとうございます!
感謝しております。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
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