第3話 この使えなさそうな転生能力はどうしたらいいの?

 気付いたら無機質なだだっ広い部屋に居た。


 至る所に小さな光が灯っていて、暗いと言うほどでは無い。


 部屋には俺たち以外に謎の生命体が4体。


 見た事のない生物だ。

 モンスターか?

 確かケルビムとかサハギンとかってこんな感じのヤツじゃなかったか?


 ヤツらは全身くすんだ銀色で、背丈は子供ほど。

 頭だけが異常に大きく、特に目玉がデカい。

 反面、手足身体はヒョロヒョロとしていて、指一本で倒せそうなくらいで、体のバランスが非常に悪い。


 見た目も『美しさ』とは全く縁遠く、とにかく気持ち悪い、不気味な生き物だ。


 普通なら出会った瞬間、一目散に逃げ出す状況なのだが、俺たち二人はそこから動こうとはしなかった。


 イヤ違う。


 金縛りに遭ったようになっていて、1ミリも動けないのだ。

 俺たちは未だ地上で光のサークルに捕らえられた状態のままだ。


 身体はピクリとも動かせられないのに、意識だけはハッキリしている。


 4体の生物が音も無く動き出し、直立不動のまま宙に浮き、こっちに近付いてくる。尚さら不気味だ。


 でもあの生物を見ていると何か引っ掛かる 。

 初めて見る生き物のハズなのに、ついさっき見た様な気がする・・・。

 しかも何か酷いことをされた様な・・・。


 デジャブってヤツか?


 近付いて来て解ったが、どうやらヤツらは、移動時に床から数センチ身体を浮かすことができるようだ。だから手足を動かす必要が全く無く、退化しているようなのだ。


 解ったからと言って不気味さが変わる訳では無いが。

 

「ワレワレワ、ウチウジンデアル」


 自らを宇宙人だと名乗る銀色の生物は、右手で自分の喉の辺りに細かくチョップしながら話し掛けてきた。


「グレイだ!」

 口だけは動いた!

 

 あの生物を見て『グレイだ』って呟いてから思った。


 ・・・グレイって何?

 俺は何でアイツの名前がグレイだって知っているんだ?


『それは君が転生者だからさ』

 その言葉は直接脳に響いたように聞こえた。

 

 ガガーーン!

「て、転生者?」

 そのとき『転生者』のキーワードで検索が、稲妻のように俺の頭の中を駆け巡った。


 『転生もののライトノベルを読んでいる俺の姿』と『転生』『無双』『チート』『エクストラスキル』『女神』『のんびりライフ』などの転生関連のワードがフラッシュバックする。しかしそれが何なのかは判らない。

 どうやら転生すると強くなれるような感じらしいと言うことは解った。

 俺自身は特に他人より何かしらが強いと感じたことは無いが・・・?


「な、なんだこれ?」

 無意味(?)な記憶の奔流にめまいがする。

 

『君は別世界からの転生者で転生ボーナスとして特殊スキルを受け継いでいるはずなんだが、転生時の衝撃で記憶と共に封印されてしまったようだね。だから先ほどその封印を解いてやった。前世との記憶の混濁があるだろうが気にするな』


 猫は両手の平を上に向けて軽く首をかしげている。

 『アハン?』のポーズだ。

 

「気にするわい! 俺の特殊スキルって何だ? そんなモノ今まで感じたこと無かったぞ」


『む? ・・・ふむふむ・・・』

 4体のグレイは俺の目をじっと覗き込みながら言った。

『どうやら【コントローラー】って叫ぶと出てくるみたいだよ?』


「叫ぶのか!? 恥ずかしいな・・・。こ、コントローラー!!!」

 俺は力一杯叫んだ。

 すると右手辺りに何かの物体が異次元から転送されてきた。

 本来なら右手の平にしっくり持てるはずなのだろうが、俺たちは今ピクリとも動けないのでそのまま床にカタンと落ちた。


「ホントに出た」

 

 床に落ちたそれは、見ると確かにコントローラーだった。

 記憶が蘇る。

 俺がずっと愛用していたプロゲーマー仕様のゲロカッケーコントローラーだ!

 めちゃ懐かしい!!

 突如としてゲームに明け暮れた映像が脳裏に蘇る!

 しかしそれが何なのかは思い出せない。


「俺のコントローラーだな・・・。で? アレで何をしろと?」

『さあ? 僕は異世界の物についてはサッパリだからね。アレが何なのかすら解らないよ』

 グレイたちは俺を取り囲んで一斉に『アハン?』なポーズを取る。


「おい!!」

 コイツらむかつく。



『さてさて、そろそろこの姿にも飽きたかな』


 頭に声が響き、目前に居た4体のグレイが同時に糸の切れた操り人形の様に、くたっと倒れた。

 倒れた4体のグレイは光となって消え、天使の輪と天使の羽と2本の長い尻尾を持った一頭の黒猫が現れた。


「何だお前は? さっきの片言のグレイはどうしたんだ?」


『アレは君の記憶を呼び覚ます為の、ちょっとした宇宙人ジョークさ。それっぽかっただろ?』


「何なんだお前は? 本当に宇宙人なのか? 俺にはコスプレした猫にしか見えないが? 俺たちを誘拐してどうしようってんだ?」


『おいおい、質問が多いなぁ。ま、解らないでも無いけどね。端的に言うとね、君たちにこの世界を守って欲しいから、それをお願いする為にここに呼んだのさ』


 身体が固まっている俺の前を、頭に天使の輪・背中に天使の羽を生やした黒猫がこっちをじっと見ている。

 どうやら本当にこのネコが俺の頭に直接話しかけている様だ。


「世界の平和ですって!? 何でわたくしがそんな事をしなくてはならないですの? 100歩いえ、100万歩譲ってそれを手伝ったとして、わたくしに何のメリットがございますの?」

 さっきまで黙って聞いていたターシェリーが堪らず口を挟んだ。

 ごもっともな意見だ。俺たちが世界の平和を守らなきゃならん意味が解らん。  


『君たちのメリット? あるよ? 君たちは、ズバリ好き合っているね?』

 自称宇宙人は空中で足(後ろ脚)を組んで、名探偵よろしくポーズを取って話し始めた。


「な!? 何を言っているんですの貴方は! わ、わたくしたちはそんな仲では・・・ございませんわ!」

 姫はいきなり核心を突かれて、珍しく動揺が激しい。


「いやいや、ボクらの技術力テクノロジーなら心を読むくらい造作も無いことなんだよ。つまり隠し事は出来ない。

 君たちは好き合っている。

 でも貴族と使用人だから立場的にどうする事もできない。だから、君が彼と言う使用人をイジメている風でスキンシップを取っている。

 しかしそろそろ家のために、他の有力貴族と結婚をしなければならない。

 だから困っている』

 猫型宇宙人はうむうむと頷きながら、勝ち誇った笑みを浮かべる。


 ターシェリーの顔は真っ赤だ。


『そこでボクらの出番だ。

 ボクらなら数十人程の記憶を改ざんして君の結婚を延期させた上、君たちを王都に行かせざるを得なくできる。

 王都で君たちが『英雄』に成れば良い。

 そこの彼が英雄として王に認められれば、身分差は十分に埋められるだろう?

 ボクらの仕事は王都アルチューにだけ異常な量の悪意が芽吹き・渦巻いている。その調査と回収だ。

 方法は簡単。君たちが正義のヒーローになって王都の悪を狩り続けるんだ。

 それは単に善行とも取れる。

 ボクらがサポートし、君たちが善行を行なう。ほら、英雄の道が見えてきただろう?

 君はこどもの頃から剣と魔法の授業を受けているとき、『正義の騎士になりたい』って思っていたよね?

 ピッタリじゃないか』


 俺の頭上に飛んできた。


『そして君は特殊だね? 『スーパー女子戦隊の司令官になりたい』だって? あははははは。何? それ? ボクらには全く理解できないけど? 君その『バカげた夢』と『正義の騎士』の夢を叶えてあげるよ』


「おい! 猫! 何だよその『スーパー女子戦隊の司令官』って? それは『俺の夢』じゃ無くて『俺の前世の夢』だろ! 訳解んない夢叶えようとすんなよ!」

 俺は精一杯怒鳴るが、猫には通じない。


 このクソ猫宇宙人は俺の前世の夢をひとしきり笑ってから言う。


『でもボクらが直接この星に干渉する事は禁じられているんだ。が、『調査』名目で数名の現地人にある程度の力を貸す事は許されている』

 ほら、君たちの『禁じられた恋の成就』と、ボクらの仕事の方向が丁度ピッタリとハマってるだろ?』

 

 ここで猫はスックと後ろ足で立ち上がり、背中の羽で俺たちの顔の前まで飛んできた。

『だから君たちに来てもらった』

 

 仁王立ちの形のまま俺たちの眼前でホバリングしている猫は、更に左前脚を腰に、右前脚を俺にビシッと向けていった。


『特に君、特殊スキル【コントローラー】があるじゃないか! 何に使うか解らないけど。

 ボクらの技術力テクノロジーと君のスキルで悪人どもをバッタバッタと薙ぎ倒し、悪意をこのひょうたんに吸わせて回収するんだ』


 猫は頭に直接響く声でそう言いながら右前脚を振ると、俺の横に高さ1.2メートルくらいの巨大ひょうたんが現れた。


「デカ! ひょうたんってコレ? コレを持ち歩けってか?」

「嫌ですわこんなダサい物持って歩くなんて!!」

『え? 上下にロープが付いているだろ? ちゃんと背負えるようになっているから、手で持って歩く必要なんて無いよ?』

「そんな事言ってんじゃねーよ!!」

「そんな事言ってるんじゃありませんわ!!」


 黒猫はニヤニヤしている。


「お前! 俺たちをからかってるだろ?」

『アハッハッハッハ、バレた? 普段はこの通り、ポケットに入るくらい小さくしておけるんだ』

 猫が再び右前脚を振ると、巨大ひょうたんはみるみる小さくなっていった。


『でも、悪意を吸うときにはこのサイズに戻さなきゃダメだよ? 悪意が溜まってくると底の方から表面の色が黒く変わっていくから、今どのくらい悪意が溜まっているかが一目で判るようになってるよ』


「ひょうたんって・・・。宇宙人ならもっとましなもんは無かったのかよ?」

『何を言ってるんだ! ひょうたんは古来よりもの凄いパワーを秘めた物なんだよ? ひょうたんに勝る物は無いんだ! 大丈夫! このひょうたんは普段、僕の分身であるこの子の首にぶら下げて置くから。おいで【にゃにゃーん】」


「にゃーん!」

 羽の生えた猫の宇宙人が呼ぶと、天井から光がスッと降りてきて、目の前に居る猫と瓜二つな、一回り小さい黒猫が毛繕いをしている。

 毛繕いしている彼には、天使の羽と輪は無い。


「基本ボクたちに名前は無いのだが、君たちにとってはあった方がいんだよな? 彼の名前は【にゃにゃーん】。仲良くしてあげてくれたまえ。あぁ、心配しなくて大丈夫だよ。君たちの記憶の中にはにゃにゃーんを5年前から飼っていることにすでになっているからね。突然猫が居てビックリなんて事にはならないよ。と言うワケだからにゃにゃーん、コレをお願いするよ!』

 コスプレ天使の黒猫は自分の分身(?)である黒猫【にゃにゃーん】の首に、小さくなったひょうたんを掛ける。

 

「おい待て! 俺たちは引き受けるなんて一言も言ってないぞ?」

『大丈夫』

 猫は落ち着いて応える。


わたくしを溺愛しているお父様が、わたくしだけ遠く離れた王都になんて行かせるはずは無いわ!」 

『大丈夫』

 猫は何処吹く風だ。

 

 天使の輪を揺らして黒猫は、薄く笑って言う。


『大丈夫。君たちも、君たちの家族も、もう既に全ての記憶を改ざん済だから、明日から君たちはこの仕事を喜んで引き受けてくれるし、君の家族も喜んで送り出してくれるよ』


 黒猫は頭上の高い天井まで飛び上がり、頭上から後光のような光を照らして神々しさを演出した。


『何か用事があったらにゃにゃーんに話しかければい。直ぐにボクらに繋がるよ。だからにゃにゃーんを大事にしてあげて欲しい。ま、にゃにゃーんを傷つけないように禁止事項として脳にすり込んであるから、滅多なことは無いと思うけど。そうそう、王都に行ったら4人の仲間を捜してみると良いよ。左手の甲に僕の顔のタトゥーが掘ってある。もちろん君たちにも掘ってあるからね。でわでわぁぁぁぁぁ!』


 左手の甲を見るとデカデカと猫の顔が画かれている。

「最悪だ。何だこのファンシーなデカいタトゥーは! 恥ずかしーわ!」



  

 そこで俺たちの意識はふっと遠くなり、気が付いたら自室のベッドに横たわっていた。


 俺のベッドの上には黒猫【にゃにゃーん】が、珍しい二股に分かれた尻尾をゆらゆらさせながら惰眠を貪っていた。




 


 それから1ヶ月が経ち、ロマネッティ侯爵パパの鶴の一声でターシュリーはワインレッド州政府から騎士の位と小さな領地を賜り、騎士として必須事項である『従者を雇う』を実行するために、一旦俺をロマネッティ家の傍付きから解雇し、新たに騎士ターシェリー・ラ・ロマネッティに使える従者スクワイヤ(見習い騎士)として雇った。

 

 傍付きも従者もやることは大して変わらないのだが、姫から給料がもらえるようになったぞ!


 更に1ヶ月が経ち、子煩悩でターシュリーを溺愛しているロマネッティ侯爵が、何故かテキパキと姫が王都に修行に行く手筈を整え、あれよあれよという間に俺たち2人とメイド3人と猫1匹で王都に暮らすことになってしまった。



「今日から姫のお供で王都【アルチュー】に行くんだっけか・・・。支度しなきゃな」





 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


〈あとがき〉

【じょえ】でっす。


宇宙人アブダクト編が終わりました。


コメディっぽく書けているんでしょうか?心配です。

貴方の所の猫ちゃんも、ぼうっとあらぬ方向を見ている時は、きっと宇宙と交信してるんだと思いますよ。

気をつけて!



 ここまで読んでいただきまして、ありがとうございます。


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 誠にありがとうございます。


 感謝しております。


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