第2話 改造人間になった夜

 全てはロマネッティ家での、あの夜が原因だった。




 【アルコホール王国】の王都【アルチュー】から東へ100キロ移動した山岳地帯に、ロマネッティ侯爵家の広大な領地【ワインレッド州】がある。


 ワインレッド州では山岳地帯を利用したブドウ作りが盛んで、そのブドウを使ってワインを作ることでワインレッドの地は生計を立てていた。


 ワインレッド州で作られるワインはとても質が高く、お陰でロマネッティ侯爵は他のどの貴族よりも裕福な生活を送っていたのだ。


 ワインレッド州いちの都市【ロゼ】は、グルリと囲まれた山岳地帯の谷間にある、自然豊かな天然の要塞都市だ。


 その中央都市ロゼの高台に、俺のご主人様たちが住んでいる、ロマネッティ侯爵家がある。


 侯爵家だけでも広大な土地を有しており、敷地の中には池や森、ブドウ畑などがある。


 敷地内で働く使用人は70人、屋敷内で働くメイドは20人。


 少々田舎で娯楽が少ないことを除けば、ロマネッティ侯爵家の家族は何不自由無く暮らしていける人々なので、何も王都まで行って正義の味方ごっこをする必要は無いのだ。



 

 2ヶ月前の満月夜、月明かりに照らされた侯爵家の庭に、俺と姫は何故か申し合わせた様にフラフラと庭に出てきていた。


「サンビヴァン? 貴方も寝付けないの?」

 ターシュリーの澄んだ鈴の音の様な声が、静かな庭に響く。

 姫はナイトガウンにナイトキャップを被った格好だ。とても綺麗だ。

 

「そうなんだよ。なんだか寝・・・!?」 


 夜空を照らす青白く冷たい月の光は、不意に爆発的な明るさを増し、辺りは昼間と見紛みまがうばかりの明るさになった。

 突然輝き始めた強烈な光に、俺たちは腕で目を覆い、掲げた腕の影から何が起きているのかと覗き込んだ。

 

 やがて眩しさに慣れ、徐々に風景が見えるようになってきた。


 先ほどまで頭上にあった夜空は、何かギラギラ光る巨大な物体に置き換わっている。

 その巨大さと言ったら、この広大なロマネッティ家の敷地全てを覆い尽くすほどだ。

 

 何処まで見ても様々な光を発している強大な人工物が、どうやっているかは解らないが空一面に浮かんでいる。

 そして外がこんな状態なのに誰も屋敷から出てこない。

 夜は自宅に帰る使用人も多いのだが、それでも総勢40人ほどの人間が屋敷内に居るはずだ。

 

 天空の物体から昼間のように明るい中でもクッキリと見える、青い2本の光柱が降りて来た。

 

 俺は金縛りに遭ったかのように動けない。

 視界の端に見える姫も、どうやら動けないでいるようだ。


 青い光柱が俺たちをスポットライトのように包んだ瞬間、俺と姫の身体は浮かび上がり始めた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ」


「いやぁぁぁー! 何ですの? 何がどうなっているんですの?」


「これは『キャトルミューティレーション』とか『エイリアン・アブダクション』とかってヤツだ! 昔テレビで見た事ある」

「え? 何ですの? きゃあと? えい? てれび? 何の事を言っているんですの? サンビヴァン」

「知らないのか? キャトルミューティレーションって・・・何だソレ? 口から出てきたけど? 全く意味解らん」


 俺は自分の口から出た訳の解らない言葉に面を食らったが、今はそれどころでは無い。


 二人とも何とか藻掻もがこうとバタバタと手足を動かしているが、何ともならない。

 ただ身体が宙に昇っていく。


「このっっ、このっっ、このっっ!」


 俺は必死に藻掻もがき続けたが空しく、高度はグングン上昇していく。


「ヤダッッ! ガウンが肌けちゃう」

「な、何!? 姫! 大丈夫かっっっ?」

 俺は藻掻もがくことを一旦止めて、ターシュリーを凝視する。


「こっち見んな! バカー!」


 やがて上空の構造物にぶつかろうかという所で、その構造物は綺麗な円を描いた大穴を開けた。

 だから俺たちは天井にぶつかること無く、その構造物体の中に吸い込まれてしまった。






★★★★★★★★★★★


「はっっっ!」

 俺はガバッと起き上がっ『ガチャン!』ようと思ったが、身体が固定されていて身動きができない。


「痛っっ。何だ? 何がどうなってる?」


 唯一動かせる首をグリグリ動かして周りを見る。

 薄暗くて周囲はよく判らないが、どうやら俺は大きな丸いテーブルに縛り付けられている様だ。


 丸テーブルの四方から両手両足をクサリで繋がれている。

 これでは起き上がれる道理がない。


 この暗がりに目が少し慣れてきた時、不意に俺の頭の左右からヌッと人型の何かが現れた。

「うわぁぁぁ!」

 ガッチャンガッチャンガッチャンガッチャン!

 あまりの怖さに逃げだそうとしたが、ただ空しくクサリに引っ張られるだけだった。

 

 人型をしているが明らかに人間では無い。

 バランス的に頭が異様に大きい。

 そしてその頭同様に目も異様に大きい。

 瞳の無い真っ白なその目がどこを見ているかは判らないが、とにかく逃げたい。


「キャァァァァァァァ!」

 ガッチャンガッチャンガッチャンガッチャン!


 あ、姫だ。

 ターシュリー様も意外と近くに居るんだな。少しホッとした。


「姫! 大丈夫か?」

 悲鳴が上がった方に声を掛ける。


「サンビヴァン! 何なのこの怪物は? 説明なさい!」

「説明なさいって・・・知るかー!」

「ちょっとそこの者たち、このクサリをほどきなさい! こんな事をしてただで済むと思っているのかしら!?」


 姫は必死に凄んでいるが、だいたいこの異様な怪物に言葉が通じるのかどうかも怪しいぞ。


 何か天井からトゲトゲしい物が降りてきた。

 見るからに切ったり刺したりするヤツの塊だ!


「うわぁぁぁぁ! やめろぉぉぉぉぉ! 何をする気だぁぁぁぁ! やめろぉぉぉぉぉ! やめてくれぇぇぇぇぇ!」

 ガッチャンガッチャンガッチャンガッチャン!

 俺は全力で右に左に身体をよじって暴れるが、クサリはビクともしない。


「フェナウアdjh哀話倭王委fはwペゥ9hkん」


 異様なぎょろ目頭が何か喋っているらしいが、文字化けしていて全く判らない。

 そんなことより、俺が今何かをされそうな、絶体絶命のピンチだと言うことは解る!


「4位右派pgh9hdfは酢は初h気fが」

 

 ぎょろ目頭の一人(一匹?)が俺の上に載ってきて、暴れる俺の両肩を押さえつける。

 一人が俺の顔を、その異様にでかい目で覗き込みながら、アンバランスに小さい手で天井から降りてきた内の一本の刃物らしき物を掴んで、切っ先を目の前に持ってくる。


「やめなさい! お父様に言いつけますわよ! イヤァァァァァ! そんな物で刺さないで!」


 隣りでターシェリーも同じ目に遭っている様だ。

 

 ギョロ目が持つ小さい刃物の切っ先が、加速度的に巨大化して目に、俺の目に迫ってくる!


 サクッ!


 切っ先はそのまま目に突き刺さった。


「ウギャアァァァアアアァァAAAAAAA」


 そこでブラックアウトした。

★★★★★★★★★★★





 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


〈あとがき〉

【じょえ】でーす。


 いきなり問答無用で改造人間になってしまった主人公とヒロイン。


 どうなってしまうのでしょうか?



 改造手術のシーンで、

「やめろぉぉぉぉ。ジョッカァァァァ」

っていうのをやろうかどうしようか悩みましたが、「仮面ノリダー 第一話」はネタが古すぎるので止めました(笑)

 


 宜しければ、♡や ★★★で応援をよろしくお願いいたします。


 みなさまの清き一票を、下記のリンクから飛んで、↓ポチッとなw


https://kakuyomu.jp/works/16817330652646882843



 いつも応援してくださる方、重ねて御礼申し上げあげます。


 感謝しております。


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る