第14話 お泊りで重要なもの

「もう帰っちゃうの~?」

「もう9時だしな~」

「まだいいでしょ~?遊ぼうよ~」


 ぐずる十香。そろそろ遅いから帰ったほうがいいのではという話になり、赤坂は帰りの支度を始めていたのだが、そこへ十香がぐずり始めたのである。


「私は、まだ大丈夫だけど……」

「ほんと!?ほんと!?やっった!」


 子供のように泣きじゃくる彼女を見かねたようだ。そういえばクロハはこのマンションの7階に住んでたし、なんなら深夜までここにいても問題はない。


「何なら泊まってくか?」

「えっ、いいんすか!?」

「ああ、そのために十香の部屋を片付けさせたわけだし」

「ありがど~おじさーん!!」


 涙目で抱きついてくる十香、そんなに嬉しかったのか。


「こらこら、親御さんから許可が出たらの話だぞ?」

「でも、学校が……」

「ここから行けばいいじゃないか。十香と同じ学校なんだろ?だったら、十香と一緒に投稿すればいい」

「一緒に登校!?ねー泊まろうよー!!」

「それなら……ちょっと親に電話してみます」


 そういって赤坂は携帯を取り出し電話を掛けた。俺たちはその様子を見守る。


「あっ、お母さん?」


 お母さん呼びなのか。


「え、うん。そう。あのね、今、十香の叔父さんに家に泊まってはどうかって言われててね。うん、そう。わかった」


 母が、と赤坂は俺に携帯を差し出す。躊躇なく俺は自分の耳に電話をあてがった。


「こんばんわ、夜分に申し訳ありません」

「いーえ、そんな」


 優しそうな感じのお母さんだった。


「ぶしつけなお願いなのですが、うちの十香がまだお宅の娘さんと遊びたいそうでして。もう夜も遅いですから、女の子だけで夜道を帰らせるのもなんだなと思いまして、それではうちのほうに泊まってはどうかと」

「そうですねー。こちらとしてもそのほうがありがたいです」

「そうですか。それでは明日の学校のほうは十香と一緒に登校してもらいますのでご安心ください」

「夕飯もごちそうになったそうで、すいません。夢のこと、よろしくお願いします」

「はい。任せてください」


 彼女にアイコンタクトを取り携帯を返す。俺から電話を受け取ると赤坂はもう一度電話を耳に当てる。


「それじゃ、お母さん。十香の家に泊まるから。……うん、うん。わかった。それじゃ、おやすみ」


 そういって電話を切った。


「……それじゃ、ふろの用意しようか。着替えは十香のを借りてくれ。俺は一旦風呂掃除をするが、クロハはどうする?」

「今度は呼び捨てになった」

「恥ずかしがった」

「ええい、やかましい」


 横の二人が茶々を入れてくる。


「……私も泊まりたい」

「あー、それだと十香の部屋に三人で止まることになるが……」


 ちらりと十香の部屋を見る。さすがに三人が同じ別途で寝るのは無理そうだ。詰めて二人、一人は床のほうになりそうだ。


「私、けっこう寝相悪いほうかも……」

「寝てる最中に落っこちるとかいやだな……」

「最悪、寝てるもう一人のほうに落下する可能性が……」

「「「……」」」

「あー、同じマンションなら、寝るときだけ別にするとかどうだ?」

「どういうこと?」

「クロハは同じマンションの七階なんだろ?だったら、寝るときだけ別にするか、なんならクロハのほうの部屋に泊まればいいじゃないか。おんなじつくりならダイニングとかリビングで寝れば問題ないし」

「え?クロハはここに住んでないよ?」


 なんだって?ここに住んでない?


 クロハのほうを見る。確かに彼女は難しい様子で首を横に振っていた。


「え、でも、あの時7階でとまってたじゃないか……」

「それは……同じ階で降りて同じ部屋に入ろうとしたらさすがにびっくりするかなって……だから、いったん時間をおいてまた訪ねた」

「そういうことか……」


 しまったな。てっきりクロハは同じマンションかと思っていたのだが、そうなると話が別になってくる。


「…………」

「……あの、ダイニングでは寝られませんか?」

「え? ダイニング?」

「はい。流石に、今回は紛らわしいことをした私が原因なので」

「いやいや、そんな……それに、そうなると俺と一緒に寝ることになるし」

「え?」

「ああ、俺って自分の部屋ないから」


 流石に都心で2LDKは厳しかった。十香がアイドルのことも考えれば、治安が良くてなおかつセキュリティロックもきちんとした、駅に近場で十香たちの学校からもそう遠くないところを選ぶ必要があった。そうなると俺の月給では1DKが関の山だったのだ。といっても、ダイニングはリビングぐらい広いから、少し小さめの1LDKと言っても過言ではないのだが。


「一緒でも構いません」

「いや、でも……」

「私だけ、仲間外れというのは嫌です」

「……わかったよ」


 ということで、クロハと一緒に同じダイニングで寝ることにはなったものの、無事お泊りをすることとなった。


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