第12話 オタクの迎合は突然に!
「いただきまーす!」
「いただきます」
「……いただきます」
午後七時、すでに日が落ちていることもあって三人は一時中断し夕ご飯となった。
「ん、おいしいです!」
「それはよかった」
「もぐもぐ……」
「……」
三者三様、けん玉娘は元気よく食べ、十香は我が物顔でいつも通り口に運び、クロハは黙々と箸を動かしていた。
「そういえばさ、次のライブいつだっけ」
「私らは無いんじゃないかな。先輩たちが確か大晦日で年末ライブとかだったけど」
「うへー、私絶対やだ。なんで大晦日になってまで働かなきゃいけないんだって感じ」
「私は結構楽しいと思うけど」
「……年末にもあのオタク共の辛気臭い顔を見なきゃと思うと嫌気がさす」
「同族嫌悪だな」
「同族嫌悪」
「違う……」
どうやらゴスロリっ子はあんまりファンのことが好きじゃないみたいだ。まあ、同じたぐいの人間なだけに相手の痛々しさとかが自分ごとのように感じられて多少嫌悪感を抱いてしまう部分もあるのだろう。
「というか、クロハ……ちゃんはいったいなんのオタクなの?」
「『ちゃん』って言った」
「一瞬言うのためらった」
「ええい、別にいいだろ……。それで、結局なんのマニアなの? ゴスロリ?」
「私をマニア前提で話進めないでください……」
「クロハはね、ギャルゲ?のオタクなんだって」
「え゛っ……」
「ちがっ!!」
「なんか、パソコンでやってるんだって。前に見せてもらったよ」
「十香……!!あ、えっと……ちがって!」
俺に向かって訂正を試みるクロハ。ぎゃ、ギャルゲ……笑いのツボが少しずれていたり、ゴスロリ趣味していたり、ちょっと変わった子だなとは思っていたけれど、まさかギャルゲとは……
「確かその服装もゲームのキャラクターが来てたやつなんだよな?」
「夢……!!」
「私びっくりしたよ。ゴスロリ服着てるからてっきりそういうのが好きなのかと思ってたら、実はゲームのキャラので~何ていうんだから」
「二人共っ……!」
クロハは顔を真赤にして立ち上がるも、どっちの口を塞げばいいかわからずその場であたふたする。
「そういえば、ゲームの話になると異様に喋りだすよな」
「そうそう、いつもはあんまりはなさないっていうか、物静かなのにね!」
「二人共!?」
二人は顔を見合わせて俺だったら悶絶したくなるような黒派の恥ずかし一面をぺらぺらと話し出す。最終的にクロハはどっちもの口を封じることに決めたようで、両手を二人の首に回して無理やり口をふさいでいた。3人共もごもごじたばたする。二人の方も楽しくなってきたようで、まるで先生に悪事を報告するみたいに俺に向かって事細かに詳細を語ってきた。
「たっ、確か、名前は「喫茶ステラの」──」
「だ・ま・っ・てっ!!」
顔をそれはそれは真っ赤にして、熟れたリンゴのように真っ赤にしながらクロハは口を封じていた。それよりも、聞き覚えのある名前が一つ。
「喫茶ステラ……?」
クロハの動きが止まる。俺がその名を口にして、まるで錆びついたロボットのようにこちらをギギギと覗き込んできた。その顔は若干引きつっている。
ま、まさかな。俺の思い過ごしに違いない。俺のような心の汚れたものは勘違いするかもだが、きっと健全なゲームなんだろう。そう、そのはず。
「……」
「……」
「えっ、なになに?」
俺たちにしかわからない魔がそこにはあった。喫茶ステラ? まさかな……その名を持つゲームがこの世に2つあるなんて信じられないが、そんなはずない。
だって、それはギャルゲーじゃない。紛れもなく18歳未満購入禁止のいわゆるエロゲーに分類されるものなのだから。
「……『喫茶ステラと黒蝶の宴』」
「あっ!それそれ!」
「えっ、う……しっ、知って……!」
「いやでも……その作品、ゴスロリ、出てきたっけか?」
「っ……!」
「……」
「えっ、なに?どゆこと??」
十香が話についていけずうろたえているが、あいにく彼女に説明している場合じゃなかった。女子高生がプレイしているゲームで紛れもなく出てきてはいけないはずの名、出てくるべきでないもの、名前を呼んではいけないあの人。確実に彼女はその名に反応した。
しかし、妙だ。何が妙って、その作品はタイトルと裏腹に残念ながらゴスロリを着るキャラクターは存在しないのである。
「……」
「……」
「な、なあ。まさか、まさかだけどさ、それって、その服って実は作品には登場してないけど、キャラのイメージに合わせて作ったとかじゃないよな?」
「……!!」
間違いねえ。こいつ、やりやがった……
熱量の高いオタクのみが行う公式成分の人体錬成……存在しない記憶、二次創作の終着点。推しのことが好きすぎて、公式供給じゃ間に合わずあまつさえ自分で推しの追加設定とかIFストーリーとか新衣装を考える『アレ』を……!!
言うなれば、"非公式公式供給”……
「……LITTLE JOKER」
「……!?」
「三部千紗希……推しだ」
「貴方も……!?」
がしっ、とお互い握手を交わす。
「俺も、高校時代にデビューしたものだ……」
「先輩……いえ、師匠……!」
「え?なに、どういうこと?」
思わぬ同士との迎合に熱い抱擁をかわさんばかりの俺たちに対して、全く話についていけない十香は終始目を白黒させていた。
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