第11話 すごろくと人生ゲームの違い
「なあ、そういえばさ」
「ん?」
「すごろくと人生ゲームの違いって何なの?」
箱を開封し、説明書を読む十香にギャル娘もとい赤坂夢が訊ねた。
「あ~、なんだろうね」
「……すごろくは単純にゴールを目指すゲーム。人生ゲームはそれに加えて他の要素が加わったゲーム」
「他の要素って?」
「人生にかかわる要素。例えば……お金とか」
「あー。子供とか産めたりするもんなー」
「約束手形とか人生の賭けとか、基本的にゴールに早くたどり着けばつくほどボーナスの賞金がもらえて、全員が到着した時点で一番資産の多い人が勝ちみたいなかんじ……」
「そう見るとばちばちの資本主義ゲームね……」
「まさしく人生」
「人生ゲーム作られたのがアメリカだから……」
よく知ってるな。ゲームとか、あのゴスロリちゃんもといクロハちゃんは好きなのだろうか。
余談であるが、姪の友達に対する敬称を「ちゃん」にするか「さん」にするかは悩みどころである。「ちゃん」だと自分、若い子の気持ちわかってますアピールしてるキモいおっさんみたいになりかねないし、少々馴れ馴れしく感じる。かといって、一回りも下の子に「さん」とつけるのもそれはそれでよそよそしい感じがして……もういっそ「ちゃん」にも「さん」にも変わる女性に対する敬称がないものか。ミセスとか?
「これ、結構ややこしいね……」
「……覚えるの、大変」
「頑張ってー」
けん玉娘は頭をかきながらルールを覚える二人をよそに、ソファに寝っ転がってぐでんとしていた。ここでスマホを取り出さないのは関心であるが、人の家でここまでだらけられるのは大した図太さだと思う。社会ではあれぐらいの肝の座りようが肝要だ。
「あー、えっと?それじゃあ最初に全員でルーレットを回して、一番数が多い人から順にルーレットを回す……かな?」
恐る恐るといった感じで説明書を読みながらゲームを開始しようとする3人、もとい二人。
ルーレットを回す。どうやら、クロハ・十香・赤坂の順になったらしい。
「それじゃあ、クロハ。ルーレットまわして」
「……」
無言で回すクロハ。
「3……」
「なになに……? 『3歳の頃に両親の会社が倒産、幼稚園に通うことができなくなり社交性が失われてしまう。非社会的カード一枚取得』?」
「……」
「……」
「……」
「ま、まあ、こういうこともあるよ!」
必死にフォローする十香。健気である。
「じゃ、じゃあ次、私ね?」
ルーレットが回る。
「5!」
「1・2・3・4……えっと、なになに?」
十香の止まったマスを今度はけん玉っ子が読み上げる。
「『給食の時間に牛乳を吹き出してしまいその後の学校生活に支障が……集団生活が怖くなり社会性が喪失する。非社会性カード一枚取得』?」
「……」
「……」
「……ほ、ほら? 序盤に悪いマスが固まってるってことは、終盤はウハウハかもしれないだろ? ゲームなんだし、楽しもうぜ?」
さっきまで二人に任せきりにしていた赤坂が今度はフォローする番に回る。青い火の玉を漂わせるような二人を前に、空気を変えようとルーレットを回す。
「あっ、9!」
「1,2,3,4……あった」
地のそこから響くような声でクロハは夢のマスを読み上げた。
「……『虫嫌いの貴方は友達のいたずらで背中にコオロギの群れを入れられる。人間不信になり社会性を喪失。非社会性カードを一枚取得』」
「「「……」」」
「ねえ、おじさん……」
「人生ゲームだ」
「まだ何も言ってないよ、おじさん……」
「人生ゲームだ。紛れもなく、人生を模したゲームだ」
「おじさんの言う人生はあまりに暗いよ……」
「人はまず社会性をなくしてから本番……ってこと?」
「日本人の社交性薄すぎね?」
気づきを得るゴスロリっ子。よそは知らないが、俺は「人間ぼっちになってからが人生の始まりだ」と聞いたことがある。金言だ。2チャンネルで聞いた気もするが、多分クラークらへんが言ってると思う。「少年よ、大志をいだけ」の後に多分そんなこと言ってる。
「じゃ、じゃあ進めよっか?」
「う、うん。そうだな……」
「……」
顔をひきつらせる二人。ゴスロリっ子にいたってはすでに懐疑的な目線をゲームボードに向けていた。
「3……なになに? 『同級生からサンタさんがいないと教えられる。夢から覚めてつまらない人間に。魅力値マイナス1』……」
「……5。『幼少期にしてサブカルチャーにハマってしまう。親のクレジットカードを無断で使用し怒られる。所持金マイナス50万円』……」
「3……アクシデントスポット? 『一発芸をして笑わせた人数に付き一人当たり50万円を得る。誰も笑わせることができなければトラウマに、非社会性カード3枚取得』……」
「「「……」」」
「じゃ、じゃあ、行くよ?」
「どうぞ」
「……」
静寂に包まれるダイニング。
「えー……やります。一発芸"陸に打ち上がった魚"」
「……」
「……」
「ウオっ、ウオッウオッ!」
「……」
「……」
静寂に包まれるダイニング。心なしか、ゴスロリっ子と二人で十香をまっていたときより静まり返っている気がした。
「……魚のウオと、陸にいるアザラシの鳴き声をかけたの」
「うん……」
「アザラシが「うおっ!」って鳴くから、食べられる魚のウオとかけたの」
「うん……」
「……」
「……」
「……わたし、ちょっと横になる」
「うん……」
「「「……」」」
「……やめよっか。このゲーム?」
二人は顔を見合わせると
「「……うん」」
きれいに揃った声でうなずいた。俺は笑いを堪えるのに大変だった。
この後ゲラゲラ笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます