第9話 ゴスロリ娘、参上!
「……」
突然だが俺はつけられている。
これに気づいたのはデパートで買い物をしていたときのことだ。薬局で十香に言われた買い出しをしている最中、ゴスロリ衣装の女の子に出会った。ふとこちらをみられて、こっちも「あんな服で出歩く子もいるんだな~」的に見ていたのだが、なんだかこっちを見ている様子。自意識過剰かとも思ったが、やはりこちらを覗き込んでいる。そんなに生理用品コーナーに男がいるのはおかしいか。これが令和のスタンダードじゃないのか!?と自問自答しつつお会計。薬局を出て次はスーパーで買い出しをしていたときのことだ。
いた。またいた。偶然かとも思ったが、やはりこちらを見ている。なんなのだ。俺の顔になにかついているのか。そんなに見てくれがおかしく見えるのか――そう問いただしたい気分だった。
品物選びのときもずっと見られていた。レジに並ぶときもそれとなく見られていた。俺が買い物袋に商品を入れているときなんかは、自分もバッグに商品を詰めいていた。ただ同じ場所で買い物することが多いだけかとも思ったが、やはりこちらを見ている。普通じゃない。
スーパーを出た後もやはりあの黒ずくめの女の子はこちらについてくる。後方10m先、こちらを見ていても進行方向上仕方ないような位置にいる。しかし、ずっと見てくるのだ。おかしいおかしいと思いつつデパートを出る。
まだついてくる。もはや自宅に帰ろうというのに、その子は同じマンションの方向についてくる。なんなのだ、何なんだ一体。
ストーカー?俺に?でも、最近は稀有な事件をよく聞く。被害者の方は面識がない男性のストーカー被害や電車での痴漢被害など、普通は女性だけだと思われる犯罪被害が意外にも男性側に起きたりする。それなのか。これはそういうそれなのか。
同じエレベーターに乗った。買い物袋を下げている。同じマンションの人?でも、こんな子見たことあったかな。ただこの服で出歩いている姿を見たこと無いだけか?
その時、俺の部屋の一階下の方でエレベーターは止まり、ゴスロリの彼女は去っていく。なんだ、やっぱり同じマンションの人だったのか。
なぜだかどっと疲れながらも8階につき、端から二番目の部屋に入る。疲れた。なぜだか分からないが、アイドルである十香と一緒に住んでいると妙に危機感を高くなっている気がする。そんなわけないと思いつつ、同居人の彼女のことを考えたら楽観視はしていられない。俺を挟んでもしかしたら薄汚い手が彼女の方に伸びるかもしれないのだ。
ピンポーンとインターホンが一つ、買い物袋をダイニングテーブルにおいて、買ってきたものを冷蔵庫にしまっていたときのことだった。
「なんだ、と……」
いた。あのゴスロリ少女が、インターホンの前に。
「おち、落ち着け……」
ほら、こういうときは素数を数えるんだ。0・1・4・6・8・9……違う違う違う!落ち着け、落ち着くんだ村雨壱次25歳独身。お前は成人男性なんだろう?たかが10代の女の子相手に何をビビることがあるんだ。
いや、待てよ?一見10代に見えるが、もしかしたら20代かも。やばい、俺の運動能力はカエル以下だ。取っ組み合いになったらワンちゃんあっちのほうが強い可能性がある。何いってんだ俺。まじで、警察呼ぶ──
その時、またインターホンが鳴らされる。まるで早く開けろと言わんばかりのそれに俺は焦ってドアを開けに言ってしまった。
「はい、どちら様で……?」
「……」
「……」
「……」
怖い!何この子めっちゃ怖い!
目つき怖いし、肌色白だし、ゴスロリだし、髪めっちゃサラサラだし、肌もニキビとか無いし、よくよく見ると美人だな。そこまで濃いメイクでもなさそうだし、これなら十香より丁寧に肌ケアとかしてそう……じゃなくて!!
「えっと、何かな?もしかして、家、間違えてない?」
「……」
「えっと、違う?」
「……」フリフリ
「……」
しゃ、喋らねえこの子。
「……もしかして、今日来るって言ってた十香の友達?」
「……はい」
「あ~、そっかそっか。あ~、まじで焦った~」
「どうしたんですか……?」
「いやいや、こっちの話。入って入って〜」
いや、まじで焦った。そうならそうと早く言ってほしい。恥ずかしがり屋なのだろうか。何にせよ、本当に助かった。
「まだ十香は帰ってきてないから、先に十香の部屋に入ってて。洗面所はそっち」
「……」
彼女は黙って洗面所の方に行くとまず手を洗う。礼儀正しいな。親がしっかりしてるのかな。
「……」
「……?」
「……」
俺は十香の部屋にいてといったはずなのだが、なぜだかその子はダイニングに来て俺の方をじっと見つめていた。
「えっと、何かな?」
「……」
「もしかして、俺の顔になにかついてる?」
「……」フリフリ
「デパートでもいたよね。僕ら、何処かであったことある?」
「……」
彼女はしばらく沈黙していた。
「あ、あの……」
「はい?」
「え、えっと……貴方が十香のオジサン?」
「ああ、そうだよ。俺が彼女の叔父、今の保護者の立場にあたる」
「……」
彼女はそれを聞くと妙に納得したようなふうだった。
「ヲタクの人……」
「はい?」
「十香が言ってた。オジサンはオタクの人だって」
「ヲタクの人って……」
十香、そんなふうに俺のことを言ってたのか。いや、まあ、間違いではないというかカテゴライズしたときにイエスかノーかで言われたらイエスの部類なんだろうけど、とりたてて言われるほどでもないような。
「オタクって言ったらオタクの定義について語りだすめんどくさいタイプのオタクだって」
「……oh」
それはなんというか……効くな。
「あと、優しいって」
「なんかフォローされた感満載だけど、一応感謝しとくよ。ありがとう」
「後、意地っ張りって……」
「意地っ張り?」
「うん。オジサンは優しくて意地っ張りだって十香が言ってた」
「……おじさんは意地っ張りじゃないよ」
「意地っ張り」
「ちがうよ?」
「意地っ張り」
「本当に本当に──」
「やっぱり意地っ張り」
「……」
よし、今日の十香のご飯にピーマンを入れてやろう。生で。
「それでどうしたの?俺になにか用事でもあった?」
「んーん。十香の言うオジサンがどんなふうなのか一度見てみたくって」
「十香はいつも俺のことなんて言ってた?」
「……言えない」
友達どうし、仲間は売れないということだろう。
「まだ返ってくるまで時間あると思うから、それまで十香の部屋でゆっくりしててよ」
「んーん、人の部屋には勝手に入らない。お母さんから言われた」
やっぱりお母さんがしっかりした人っぽかった。高校生にもなって母親の言いつけを守っているあたり、真面目な子なんだろう。ゴスロリだけど。
「……」
「……」
「……あ、えっと。それじゃ、一度買ってきた荷物、冷蔵庫に入れてもいいかな?」
「どうぞ……」
席を立ってテーブルに置かれていた荷物をキッチンの方に移動させる。戦略的撤退、少しぐらいは十香で免疫がついたと思ったのだが、やはりJK相手に何を喋ればいいかわからなかった。
それから俺は十香が返ってくるまで、沈黙の30分を初対面のゴスロリJKと過ごす羽目になった。
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