家路
長月瓦礫
家路
窓から西陽が差し込む。
近所の学校から夕焼け小焼けのチャイムが鳴り、時計が17時を告げた。
そろそろ、あの子が帰ってくる頃だわ。
ああ、カレーを作らないと。
今日は何もないけど、あの子が食べたいと言ったから。
今日はカレーライスなの。
何もない日も私たちにとっては幸福。
だから、待っていないといけないの。
米を研いで炊飯器にセットして、スイッチを入れる。
その間に野菜を切って肉を炒めて、隠し味にチョコレートを少しだけ入れる。
私の家に代々伝わる隠し味、これが安心できる味。
私の母もそうやってカレーを作っていた。
きっと、昔から伝わるやり方なのね。
遠くで夕焼け小焼けが鳴っている。
あの子はまだ帰ってこないのかしら。
あの子はいつも友達と遊びながら帰るから、遅くなってしまうのよね。
今日はどこにいるのかな、あまり遠くに行っていないといいけど。
友達の 君たちと一緒に遊ぶって言っていたから、大丈夫かな。
私はルーを入れる。
鍋を分けて、甘口と辛口のルーを入れる。
あの子はカレーが好きだから、食べさせてあげたい。
これでもう何日目だろう。遠き山に陽は落ちる。
あの子はどこにいるのかしら。
あの子は未だに帰ってこない。
どうかあの子を返してください。
今日も帰ってくることを信じてカレーを作る。
これだけ待ったのだから、返してくれるでしょう?
カレーがコトコトと煮えている。
ゆっくりと日が沈んでいく。
家路 長月瓦礫 @debrisbottle00
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