#11 ミヒムの日記『日記』

「ミヒムさん、なに読んでんだ?」

 エゾシカ族のシセロクがキタキツネ族のミヒムに声をかけた。座って読書をしていたミヒムはシセロクに視線を向けてこたえる。

「あなたも読んでみたら?」

「やめとくだ。おらが本なんか読んだら、頭がこんがらがって熱がでちまうだよ」

 シセロクは本を恐れるかのように身構えた。

「あら、残念ね。わたしとあなたの物語なのに」

「おらとミヒムさんの?」

 不思議そうに首をかしげるシセロク。

「そうよ」と、ミヒムは読んでいた本を差し出しながら言った。「これはわたしのつけている日記なの。というか、トレジャーハンターとしての活動日誌みたいなものかしら。難しい本じゃないから大丈夫よ」

 シセロクは日記を受け取り、パラパラとめくってみる。

「日記かあ、ミヒムさんはマメだなあ────うーん、やっぱり文字を読むのは苦手だなあ。返すだよ」

「そう。無理して読むことはないわね」ミヒムは返された日記をひらく。「そうそう、いきなりドラゴンと戦おうとして逃げたんだったわね」

「あれはほんとに死ぬかと思っただ。ドラゴンに追われるなんてもうこりごりだよ。そういえば他にも、怒り狂うカバに追われたり、巨大ワニに食われそうになったり。危険なことがたくさんあっただなあ」

 いままでの冒険をしみじみと思い出すシセロク。

「わたしはカバにもワニにも襲われてないけどね。それに、あなたの自業自得な部分もあったし」

 ミヒムはきっぱりと言い切った。

「そうだったかもしれないだな。あ、ミヒムさんがおらのふるさとの村に来てくれたこともあっただな」

「そうね、ちょうどお祭りをやってたわ。角を分けてもらいに行ったこともあったわね。あなたのお母さんとも出会ったし。あとは森の中で迷子になったり、街中で迷子を探したり…………」

 そう言って、ミヒムはじっと考え込みはじめた。

「ん? どうしただ?」

 突然黙り込んだミヒムに、シセロクが問いかけた。少ししてからミヒムが口をひらく。

「──こうして思い返してみるといろんなことがあったけど……まともにお宝を手に入れたためしがないわね。わたしは一応トレジャーハンターのはずなんだけど……」

「そういやそうだな。ミヒムさん、運が悪いんじゃねえか?」

「あなたにジャマされたこともあったんだけどね」

「そ、そうだったか? 忘れちまっただよ」

 シセロクはポリポリと頭をかきながら視線を泳がせる。

「まあ、いいわ。その分働いて返してもらうから」

「え、また行くのか?」

「もちろん。さあ、行くわよ!」

「ああ、ミヒムさん! 待ってほしいだよお!」

 日記をしまうとすぐに駆け出したミヒム。あとを追いかけるシセロク。ふたりはふたたび、お宝探しの冒険に出発した。

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狐と鹿のくだらない物語 椎菜田くと @takuto417

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