#06 不死鳥の焼き鳥『焼き鳥が登場する物語』

 ひとりの獣人族の女が河原でたき火をやっている。彼女はトレジャーハンターのミヒム。串に刺した肉をたき火の煙でいぶしているところだった。そこにエゾシカ族のシセロクがやってきた。

「うまそうなもん焼いてるなあ、ミヒムさん。嗅いだことのねえ匂いだけど……なんの肉なんだ?」

 シセロクが声をかけると、ミヒムは手元から目を離さずにこたえた。

「これは不死鳥の肉よ」

「不死鳥? それって、永遠の命を持つっていう鳥のことか?」

「そう。そして、不死鳥の肉を食べたものは永遠の若さを保つことができる、と言われているわ」

 ちょっと考え込んでから、シセロクは笑いながら言った。

「さてはおらをからかってるだな、ミヒムさん。不死鳥は死なねえ鳥なんだから、肉が手に入るわけねえだよ」

「それが本当のことなのよ」ミヒムは自信ありげに語りだす。「この肉はね、不死鳥からもらったものなの。わたしがお宝を探して山のなかを冒険していたら、罠にかかって動けなくなった不死鳥を見つけてね。助けてあげたらお礼にくれたのが、この肉だったってわけ」

「そうだったのかあ。でも、自分の肉をひとにあげるって、想像してみるとなかなかこええもんだよなあ」

「余計なことは考えなくてもいいの。わかったらジャマをしないでちょうだいね」

 ミヒムは肉を焼くことに集中する。二度と手に入らないようなレアものであり、失敗するわけにはいかないからだ。

「じれってえなあ、そんなんじゃあいつまでたっても焼けないだよ。それに、肉がけむたくなっちまう。よし、おらにまかせるだ」

 と言って、シセロクはミヒムの手から串をひったくり、そのままたき火の炎のなかに突っ込んだ。

「あ、バカ! なんてことを!」

「えっ……どわー!」

 不死鳥の肉がたき火のなかに入った瞬間、突然炎が大きく燃え上がり、そして破裂した。その衝撃でミヒムとシセロクは吹き飛ばされる。

「あちちち──いったいなにがどうしただ?」

「このバカ、どうしてくれんのよ!」

「また言った! その言葉はおらたちエゾシカ族にとっては禁句なんだぞ」

「うるさいわよ! 見てみなさいよ、あれ!」

 ミヒムはたき火があった場所の上空を指さす。そこには、炎を身にまとった神秘的な鳥が飛んでいた。

「あれが不死鳥なのか? きれえな鳥だなあ……」

「そうよ。不死鳥は炎のなかでよみがえるの。だから火に直接当てないようにじっくりいぶしてたのに……」ミヒムは肩を震わせ、拳に力を込める。「あなたのせいで台無しじゃないの。このバカバカバカ、大バカー! こうなったら、シカの丸焼きにしてやるわ!」

「ひえー! おらがわるかっただ、許してほしいだよお!」

 謝りながら逃げまわるシセロクと、追いかけまわすミヒム。そんなふたりを見下ろす生まれたばかりの不死鳥は、何事もなかったかのように飛び去って行った。

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