#05 迷子をさがせ!『88歳』
エゾシカ族のシセロクが大通りの人混みのなかを歩いていると、見知った獣人族の女を見つけた。彼女はキタキツネ族のミヒム。そのそばには小さな人影があった。
「あ、ミヒムさんだ。隣のちっこいのはだれだろ? 弟にしては年が離れてそうだし、子どもがいるなんて聞いたことねえしな……」
シセロクは不思議に思いつつ、路上で立ち尽くすミヒムに近づいて声をかける。
「おーい、ミヒムさん。こんなところでなにしてるだ? 人さらいか?」
「人聞きの悪いこと言わないでよ。勘違いされるでしょ」ミヒムが眉間にしわを寄せて言った。「おじいさんとお孫さんのふたりで来たみたいなんだけど、はぐれてしまったらしいのよ」
「迷子だな。よし、わかった! おらにまかせるだ!」
「え? あ、ちょっと!」
ミヒムが話し終えるまえに、シセロクは駆け出した。
「すぐにじいちゃんを見つけてきてやるからなあ! おとなしく待ってるんだぞお!」
シセロクは走りながら振り返り、離れたミヒムたちまで聞こえるように大声で叫ぶ。山育ちのエゾシカ族自慢の健脚により、すぐにミヒムの視界から消え去った。
「あのバカ。顔も名前も知らないくせに、どうやってさがすつもりなのよ。それに、なにか勘違いしてるみたいだし……」
○
「あ、もどってきた」
しばらくして、シセロクがミヒムたちのところに帰ってきた。ずっと走りまわっていたために息を切らしながらへたり込んだ。
「すまねえ、見つからなかっただよ」
「顔も名前も知らないんだから当然でしょ。いったいなにをしてたのよ」
「簡単なことだあ。このあたりを歩いてるじいちゃんたちみんなにきいてまわっただ。じいちゃんならそんなに遠くには行けないだろ? だからまだ近くにいるだろうと思って片っ端から声をかけただ」
「────はっ、あきれて一瞬気を失っていたわ。なんて効率の悪い……いえ、頭の悪いさがし方なのかしら」
「そうかなあ。いいと思ったんだけどなあ」
「そんなことより、あなたはお年寄りに声をかけてまわったのよね? それじゃ見つかるわけないわよ」
「なんでだ?」
「だって本当にさがすべきは──」
「おじいちゃーん!」
ひとりの少年が駆け寄ってきて、ミヒムのそばにいた迷子に抱きついた。
「おじいちゃん? だれのことだ? どっちも子どもでねえか」
「いいえ、違うわ。わたしといっしょにいたのが祖父なのよ」
「────えええええ! ってそんなわけないだよ! 小さい男の子の兄弟にしか見えないだ。ミヒムさん、目がおかしくなったんでねえか?」
「失礼ね。ふたりの背中を見てみなさいよ」
シセロクが抱き合うふたりを見ると、上着の背中部分が不自然に盛り上がっているのがわかった。
「なんだ、これ?」
「それは甲羅よ。ふたりはリクガメ族なの」
「たしか……とんでもなく長生きだっていう人たちか?」
「そう。ウワサでは万年生きるとも言われてるけど、とにかく長寿なのは間違いないわ。だから成長するのもすごく遅くて、このおじいさんは子どもにしか見えないけど八十八歳らしいのよ」
「は、はちじゅうはっさい……」
驚きのあまり、シセロクは開いた口がふさがらなくなった。
「にわかには信じられないけどね」
「それじゃあ、おらがじいちゃんたちに声をかけてまわったのは──」
「完全に無駄足ね。さがすべきはお孫さんのほうだったのよ」
「なんてこったい……」
自分の努力がまったくの無駄だとわかったシセロクは、真っ白に燃え尽き、がっくりとうなだれた。
「まあ、いいわ。いちおう助けてくれようとしたんだし、ご褒美においしいものでもおごってあげる。食べたいものはある?」
「ほんとか! そうだなあ、なんだか米をガッツリ食べてえ気分だ」
ミヒムとシセロクは、無事に再会できたふたりに別れを告げ、おいしい店をさがしに歩きはじめた。
「こんどは見つかるといいわね」
「食いもんのことならまかせるだ! かならず見つけてみせるだよ!」
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