『仲良くなりたいのです』

幕間③

「――ちょっと、びっくりしたわね」


 たくさんの魚の群れが消えた後。

 ポムりんは胸に手を当てて深呼吸しんこきゅうをします。


 アルマジロの着ぐるみ姿のお兄さんも、いつしか持っていたスマートフォンをひろいあげ『ああ、とっさに撮ろうとしたらヒビが入った』と、声を上げます。


「でも、魚があれだけ出てくるのってめずらしいんじゃない?」と、ポムりん。


「普段は見ても数匹程度すうひきていどだし、何かあったんじゃ…」


 そこまで言いかけた時、不意に部屋の中を赤いランプがともり『警告けいこく・警告』と声が響き渡ります。


『島内の南通用口が大破たいは、南通用口が大破。係員は緊急きんきゅうマニュアルに従い、退避たいひを行ってください、繰り返します。島内の南通用口が――』


「ただいまー、ポムりん」


「うわー。なんか、うるさいがー」


 そこに帰ってきたのは警報音に耳をふさいだチョロ助と、三角耳をぺったんこに閉じた、もぐん太。


「お腹ぺこぺこ、おやつなんかあるー?」


「おわー、アルマジロ兄さん久しぶりだがー。食べ物もっていないがー?」


 今だ赤い光を点滅させるランプを気にすることもなく、部屋の奥にある冷蔵庫から、二人はおやつのケーキを取り出すとモグモグと食べ始めます。

 

「…まったく、危機感ききかんのない奴ら」


 ポムりんは大きくため息をつきますが、すかさずアルマジロ兄さんは『みんなに話があるんだけど』と声をかけます。


『突然で悪いんだけど、これから島を出る気はないかい?』


「え?」


「ん?」


「おが?」


 同時に声を上げる三人。

 それにアルマジロお兄さんは上を向くと『天の声ー』と声をあげます。


『はいはい、天の声ですよ』


 ついで天井から聞こえてくるスピーカーの音声。


 それに『先ほどのアナウンスをかんがみ、緊急きんきゅうマニュアル、ゼロ三の適用てきよう妥当だとうだと思いますが、博士』と声をかけるお兄さん。


 それに『ええ、許可します』と天の声。


『何しろ今も南口から不審な船が侵入してきていますからね。彼らの能力を使って出ていくようにお願いします』


『…というわけで、ポムりんにこれを渡しておくよ』と、先ほど落としてヒビの入ったスマホを握らせるお兄さん。


『ここに内蔵された位置情報のところに行けば、当面は安全に暮らせるはずだ。弟に知らせるのは後になるが、すぐにこちらも合流できるように調整しよう』


 その言葉と同時にポムりんはお兄さんの思考を読み取ったらしく「――ふん、最初から、そのプランはあったのね」というと、チョロ助たちに向き直り「聞いたでしょ?今日からしばらく島の外に行きます」と声を上げる。


「行った先でしばらくのんびりして、その後にお兄さんたちと合流する予定だから、持っていくものとかはないから――」


「大丈夫、荷物いっぱい持ったが!」という、カバンいっぱいにお菓子を詰め込んだ、もぐん太に「置いてけっと言ったでしょ!」とポムりん。


「ともかく、二人とも手をこっちによこす!」


「およ、何ゆえ?」


「こーなのがー?」


 ついで、スマホを持ったポムりんの手が光り、三人は消えてしまいます。


『…行ってしまいましたね』


 声を上げるアルマジロ兄さん。

 同時に床に穴が空き『朝生さんも早く』と防護服を着たベル。


『侵入者に通用口の何割かがふさがれています、非常脱出口で島から離れましょう』


『――ああ、わかったよ』


 ついで聞こえる、汽笛のような重低音。


『今回、どうして【マモルくん】は防衛反応ぼうえいはんのうをしなかったんでしょうか』


 その疑問に『さあて』と天井から天の声こと前橋の声が響く。


『案外、今回がちょうど良い節目ふしめだと【マモルくん】は思ったのかもしれない』


『節目…とは?』


『この五年で色々あったじゃあないか。度重たびかさなる海からの領海侵犯りょうかいしんぱん、産業スパイのまぎれこみ。その辺りの身辺整理を目的としている可能性もあるだろうが一番は――』


 そこまで話すと、いっぱく置いて前橋はこう続ける。


『――彼らの【巣立ち】、だろうね』



 

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