4−1「調和」

 ボーッ…、ボーッ…


 背後には島が見えるも、それ以上に巨大な塔の方が目立つ。


 断続的だんぞくてき重低音じゅうていおん

 それをひびかせるのは、巨大きょだいとうのような物体。


 【マモルくん】と呼ばれたソレは、中央に開いた穴から風を吹き抜けさせると、風を音へと変換し、警笛けいてきのような音を響かせる。


「あれの正体は宇宙から落下し、現在も世界中に存在する知的生命体だ」


 前橋は夕にスマホのカメラを回させながら、そう答える。


「見える人間が限られており、認識操作から記録にも残りにくい性質を持っている。ゆえに現存していても確認がされにくく、体には無数の生命が付着し、今まで確認されている【菌】や【植物】などの生物の祖である可能性もあるが――」


 と、そこで言葉を切る前橋。


「まあ、【マモルくん】も今回の異常には気づいているようだ。だからこうして仲間と認めた存在に呼応して、己の体を変えているのだろう」


 ヴヴヴと周囲に響くほどの振動音しんどうおん


 みれば、【マモルくん】の体から無数むすう突起物とっきぶつが生え出し、螺旋階段らせんかいだんのように体の周りを取り囲むと、上から黒いボール状の物体が転がり出す。


 キンッ コンッ カンッ…

 キンッ コンッ カンッ…


 定期的に落ちていく黒いボール。それは、次第に旋律せんりつへと変化していき、夕にも聞き覚えのある音楽へと変化する。


「…これは!」


「ほーたーるのひかーあり、まどーおーのゆきー」


 気がつけば、音楽に合わせて歌うチョロ助。


 ――それは、周囲に響き渡る童謡どうよう『蛍の光』。


「閉店ガラガラーだがー」


「あ、船も島から出ていくわね」


 ポムりんの言葉の通り、背後の島から次々と小舟が離れていく様子が見える。


「…あの一つ一つに我々の【島】に侵入するため送り込まれたスパイ連中が乗り込んでいたんだな」と、前橋。


「先日も、一部が破壊工作によって爆破され、侵入口となってしまったからね。危険性が高い以上は【島】から離れた方が良い――そのため、私はチョロ助たちを【島】から逃すことにしたのさ」


 前橋の言葉に驚く夕。


 そこに「…これ、多分【虫】の処理だけではなくて、【島】に侵入した人間の記憶も処理している可能性がありますね」と、運転をしなくて良くなったのか、スマートフォンで調べ物をしながら朝生が声を上げる。


「ネットの口コミを見る限り、今まで情報を食い尽くしていた【虫】も消滅しょうめつしていますし、以前から【マモルくん】の声には記憶を消す作用があることは確認されていましたからね」


「――ああ、前に侵入してきた連中の件だね」と、前橋。


「あの時にも音楽が流れた時点で領海侵犯をしてきた連中が引き返したからな。そのあとはしばらく静かだったが、今回はどれほど保つか」


 そんな会話を前橋と朝生がしていると『っはあ!寝過ごしたあ!』と、前橋の持っていたスマホから声がする。


『博士、ベルです。緊急アラームが数時間前から鳴っていたんですけど、何がどうなってどうなりましたか?』


 寝ぼけ声のベルに「いや、大体は収まったね」とベルに声をかける前橋。


「【島】に入っていた侵入者が一斉に出て行ったよ。何か伝えることと言ったら…ああ、もうすぐそっちも夏休みに入るはずだ。その時に、いったん【島】を視察に行くかもしれない。その時に、同行を頼むよ」


『いいですね、また詳しい日取りが決まったら…ああ、ヤベ。学校に遅刻する』と、切れる通話。


「まあ、学生の本分は勉強だからね」と、苦笑する前橋。


「…ついては、これで一件落着というわけで――記録はどうだい撮れたかい?」


 その言葉に夕は未だスマホを構えていたことに気がつき「正直、どれほど録れたかは確認しないとわかりませんけど」と答える。


「いや、録れた分だけで十分だ」と、前橋。


「今回だけでも相当なデータが検出できるだろうし――あとは、チョロ助」


 その言葉にベッドの上に乗っかったままのチョロ助は「え?」と声を上げる。


「君たちは、これからどうしたい?」


 チョロ助は、前橋の言葉にしばらく何かを考えている様子だったが、やがて「――いろんなところを、みんなで見てまわりたいな」と、声を上げる。


「だって、行き来したのは空の上とお家の中くらいだもの。下を見れば、もっといろんなものがあるし、何があるか自分の足で歩いてみないと分からないもの」


 それに「俺も、そうがー」と、腕を振り回す、もぐん太。


「そうね。まだ当分は、そちらの組織内のシステム改善かいぜんをする必要もあるみたいだし」と、伸びをするポムりん。


「――そうか」と前橋。


好奇心旺盛こうきしんおうせいなことは良いことだ。五年も育ててきた甲斐かいがあるというものさ」


 そう微笑ほほえむ前橋に「…そういえば、気になっていたんだけど」と、前橋の顔をジロジロと見るチョロ助。


「おばさん、誰?初めて会う人だよね」


 それに前橋は「…まあ、そうだよな」と上を向く。


「今まで、私は彼らにとっての【天の声】だったからな。これからは時間と共に、少しずつお互いの距離を縮めていこうじゃないか――」

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