二四話、夏休みの計画と、様々な関係①

 そういえば気になったこと。

 鴉羽はそのまま、ぅとに聞いてみた。

「あの死んじゃった人って、どうするの」

「自然消化ですね。無駄に動かさない方がいいです。……と、お父様が仰っていました。ちなみにお父様の指示で、監視カメラも全部見つけて外しましたよ」

 ぅとが自信満々に胸を叩く。膨らみがクッションになって、ぽよんと拳を弾く。


 ……いや、大丈夫。私だって成長する。

 悔しそうな鴉羽。いやそれよりも。


 ……本当に、どんなお父様だ。

 どこまでこの事態を把握しているんだ。

 きくからに、すごい人っぽい。顔が広そうだ。


 ぅとが説明してくれた。

 なんでも、あの死んだ男の妻と子はもう死んでいるらしい。バラバラにされて、どこかの森の奥に隠されていたようだ。

 少し調べたら、わかったんです。と言うぅと。いや、そんな簡単に樹海は調べられるはずがなかろう、と苦笑いを浮かべる鴉羽だが、すぐに「ああ、エルフだからか」と納得をした。


 エルフであるぅとが森を探索。

 なんかすごいお父様がその捜索。

 親子で分業だ。

 すごい。うちの親にも見せてやりたい。


「そういえば、和歌が私のところ届いたんだけど」鴉羽が申し訳なさそうに言う。「あれ、どういう意味なの?……一応返歌はしたけど」


 ……ほとんどしたのはミズーリだが。


「ああ、あれですね」と笑うぅと。「お父様の気持ちです。よろしくということだそうです。深くは、お気になさらず」


 ……ほんとによろしくという意味だった。すごい、お姉ちゃん。


 ……ん?そうなると、ミズーリが朝、朝会いに行きたいと言っていた人も、だいたい予測がつく。

 そしてまるでその予測を感じたように、ぅとが口を開く。

「ミズーリがこちらにやってきましたよ。本当、びっくりしました。もしかしたら彼女、今回のことに薄々気づいていたのかもしれませんね」


 ……だとすると、ミズーリ、スゴすぎ。




 親殺しのことなんかさっぱり忘れたようにわーきゃーたわいない会話をしていると、やがて森を抜けて、畑を抜けて、人で溢れかえっている駅についた。


「……」

 未だにぼうとしたまま、キョロキョロしている男。

 鴉羽に近づき、「なあ、おれ、場違いじゃないか?」と聞いてきた。

 ……知らん。

「わかんないです」と鴉羽は答えた。


 あ、とやえが声を上げる。「ここ」

 指を指すのは、可愛らしい花が咲いている花壇。すっかり夏仕様である。

 その真ん中に立つ、優雅な女神像。

「この上、気持ちいいんだよね」

 やえがうっとりした目をする。

「それって、……ぅと君より、気持ちいい?」

 と謎の質問するえるにーにゃ。

 ……なに、この会話。

 それを完全に無視して、ぅとが携帯をポケットから取り出し、耳に当てる。

「──もしもし、お父様。無事、見つかりましたよ!はい!帰ったら、お願いしますね!……ふふ。では、ちょうどいいので───お二人をレストランへ。はい、あの、お父様が好きな、あそこです!……いえ、お金は彼が払うそうなので……では、伝えときますね!……お父様また後で!」


 ……

 元気だな。

 さっきとのギャップが、すごい。余程、父が好きなんだろう。

「あなた」

「……はい」男が返事をする。

「お父様が六割、払ってくれるそうですよ。感謝をしておいてくださいね」

「……だが!」

「口止め料、だそうです」

「……すまない」


「それは全部、お父様にどうぞ。……さ、あそこのレストランですよ」

 そう言って、ぅとは奥に見える、高いビルを指した。

「「……」」

 目を点にする他のみんな。

 彼女が指さす先。

 それは誰でも知っている、まあまあ高級なレストランの最上階であった。




「……入っていいのか?」と男。迷彩服脱いで、手に持っている。

「当たり前です」と返すぅと。

 まあ、気持ちはわかる。

 高級レストランなんか、年に一回でも行かないところである。随分前、一度だけ足を運んだことがあるが、その時は結構びっくりした覚えがある。

 今も、同じ気持ちだ。

 高い天井。シャンデリア。螺旋階段。高級そうな絨毯。壁画。

 その全ての主張が、強い。

 高級と言う二文字を、これでもかというほど前に出している。

「……久しぶりに見た」とやえ。

「なんだここは」と戸惑う男。

 無言で、当たり前のように入っていくえるにーにゃと、ぅと。

 ここで差が出るんだなぁ、と鴉羽は思った。


 ロビーに行くと、受付嬢が頭を下げる。

「お待たせしました。七名様でご予約の曉様でしょうか」

「はい」と返事をするぅと。すると受付嬢は「いつもありがとうございます」と笑ってもう一礼した。

 ……この、慣れよ。

 入っていく五人。

「ねえ、おね……ミズーリは?」とぅとに追いついて聞いてみる鴉羽。

「ああ、彼女は今お父様と二人でお食事をしているかと」

 話によると、それも今回の高級レストランに負けない額だという。ミズーリは基本的に質素だ。……緊張でお腹痛くなっていないといいんだけど。


 席に案内される。

 大きなテーブルに、手拭き等々がすでに上品に置かれている。真ん中には花瓶が飾られていて、季節の花が色とりどりに咲いている。

 周りを見渡すと、点々と使用されている席があって、基本的にはスーツ姿の男性たちだ。

 うーん、この空気苦手。

 まあでも、誘われたからには、乗らない手は無い。普通に楽しむことにした。


 全員が席に着いた頃。男のところに受付の女性がやってくる。彼女の言葉に、男は「……なっ……」と目を丸くした。

 それに続き、入口から女性と少女が入ってきた。

「リンネ!マリー!」

 二人の名前を呼ぶ。

 立ち上がる。

 近づく三人。

 男は、リンネと呼ばれる女性と、マリーと呼ばれる少女を、震える両腕で抱え込んだ。


「……ごめんなさい。あなたに迷惑をかけたわ」「いや。迷惑だなんて、思っていない……こっちこそ、ごめんな……」「パパごめんなさい」


 気持ちが落ち着いてから、男は突然気づいた。目の前の二人───自分の妻と娘。

 彼女らの肌は、腐食されていた。

 ところどころ、丁寧な縫い目がまだ残っている。

 そう、まるで……。

 ゾンビのようだった。

「……な、何があったんだ」

「座ってください、三人とも。……お話は、それからです」

 ぅとは男の震える背後にそう話しかけた。

 男は反抗することも無く、その通りにした。









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