二五話、夏休みの計画と、様々な関係②

 前菜が運ばれてくる。

 野菜や、鴨肉の、三種盛り合わせ。

 ヤングコーンにバラの花びらに、オレンジと緑のソースが、そのクオリティの高さを語っている。


 料理の説明をしてくれる男性が一礼して去っていくのを見て、ぅとが「では、説明をしますね。味わいながらで、構いませんよ」と、これまであったことを整理しつつ、説明した。


 全員がほとんど同時に食べ終わって、次の品が運ばれてくる。そしてそれも美味しくいただく。

 本当に美味しかった。が、あまりにも受けた説明が生々しくて、そして衝撃的で、真面目な話、味があまりしなかった。


 一応、ぅとは言葉を選びながら話したが、ここでは簡略化して、直接的な表現にしてみる。


 まず、とある五十過ぎの男。

 彼は私設部隊を所持していて、そしてその権利を正々堂々と持っている。

 仕事もしっかりと持ち、評価は概ね真面目な人間だ。


 そして、今裏で出ている話は、まさにこの、鴉羽たちを狙った男の言う通り、彼は「異種族の排除」を持兵の目的としているそうだ。それの確定的な証拠はまだない。

 今回、鴉羽とやえを狙おうとした男、彼の言うとおり、妻子を使って、彼は脅されている。が、実際にはすでに妻子は殺されていたのだ。

 いや、殺されかけたと言ったほうが正しい。これもタイミングが味方についたのだろうか。ちょうどその現場を、ぅとの今の父が見かけたのだ。

 ちょうど処理を始めようと言う時に、ぅとの父が立ちはだかって、真剣一本で私設兵を斬り(殺してはいない)、妻子を救い出した。

 今にも息が絶えそうな二人を、なんとか病院に運んだが、残念ながらこのままでは命を保つことはできないと医者に伝えられた。

 そこで、ぅとの父は薬草を使うことにした。調べた。そして、見つけた。

 ───これだ。なんだか分からないけど、これなら、「組織を再生できる」。

 彼は探したが、自力では見つからなかった。そこで、ぅとにミズーリの元に行くように頼んだ。

 その後、薬草を得た彼は、その日のうちに病院に向かった。その日は、神殿にも行き、二人の生存を祈った。

 二人に、薬草を使った。

 薬草は効いた。

 が、少し思っていたのと、違う効き方だった。

 腐敗が進んでいた二人の身体。命は保てたものの、元の人間の様には戻れなくなっていた。それでも、命は残っている。

 意識が戻った妻子は、彼に一部始終を伝え、感謝を述べた。

 そして、あとは次の命令などを聞いておき、手配をしておく。


 ……こうして、今に至る。


「……随分、面倒くさいはなしね」

 やえが吐露する。

 運ばれてきたメインディッシュを一口サイズに切って、口に運んだ。

「お父様から、完全な状態には出来なかったことお詫び申しあげます、との伝言もございます。私からも謝らせてください」

 表面以上のなにかを込めての、謝りだった。ぅとが頭を下げる。男が慌てて手を振った。

「とんでもない。こんなにも元気でいてくれるなら、外見なんていいんだ。それにリンネも、マリーも、変わらず可愛いままさ」

 リンネとマリーが恥ずかしそうに、傷口を撫でた。

 確かに、可愛い。

 リンネなんか、母親をやりながらこの若々しい顔だ。育児はしたことがなかった鴉羽だが、これは凄い事だとわかった。

 リンネが「こういう世界だから、アンデッドっぽい人もいてもいいと思ってるわ」と冗談っぽく付け加えた。

 「……本当に、助かった。それから、ぅとさん、だったか……本当にすまない。取り返しのつかない……」男が頭を下げる。妻と子がそれに続く。

「いいです。嘆いても変わりません。むしろ、これからすべきことを考えましょう。まず、目的は、あの私設部隊を潰し、あの男を捕まえることですね」ぅとがはっきりと言う。


 ……これは夏休みもないなぁ。

 鴉羽がため息をついた。しょうがない。ここは我慢しよう。


「僕たちも動くの?」やえが訊く。

「いえ、普通に夏休みは過ごします。遊んで、勉強して、遊びます」

「ああ、もう、それ以上君たちは巻き込めない」と男が言うと、ぅとが「違います」と返した。

「今は動きません。下手に動くのは、むしろ目立つだけです」

「……どうする気よ」と鴉羽。いい予感がしない。

「その男、正体はわかっているんですよ」とぅとが笑う。

「お父様が調べてくれました」

 その目はギラギラ光っていた。



「彼は───鴉羽、あなたの学校の校長先生の……一人息子です」



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