十九話、もらった和歌と、にらめっこ
「うーん」
「んー」
「……」
休日。ミズーリの家(塔)。三階。
カーペットに寝っ転がりながら、鴉羽、ミズーリ、やえが頭を寄せあっている。
彼女らの前には、折り目がついた長い紙と、松の枝が添えられている。鴉羽のところに届き、両親不在で、下の兄弟も読めるはずがないと頼りにしていなかった鴉羽は、ミズーリのところにやってきたのだ。やえはたまたまだ。
ちなみに親の分もあるが、それは放っておくことにした。
「これわかる?」と素直に聞く鴉羽。「私宛てなのと、えるにーにゃのところから来ていることしか分からないんだけど……やえ読める?風流分かりそうだし」
「ごめんなさい、わからないわ」残念そうに首を振るやえ。
「お姉ちゃんは?」ミズーリに振ってみる。
「んー、何となく」
「「うそ、なんて書いてあるの」かしら」と声の一部が重なるやえと鴉羽。ミズーリがくすっと笑う。
「多分、よろしくって言うことだとおもうー」
「え、なんで?それだけ?」
「多分ね……うん、それだけだね。仕事が捗ることを祈る、みたいな?」
「なんで?私、仕事なんてしてないけど?」
「そこはあれじゃない?あっちの勘違いとか。ほらー、鴉羽ちゃんの親って鴉羽ちゃんの年齢の時には仕事していたらしいしー……むぐ」
それは掘り返さないで、炭鉱のことはもう聞きたくない、と鴉羽がミズーリの口を抑える。
と言いつつも、校長先生との一件があってからは、あのふるさとにも希望が持てるようになっていて、もしかしたらいつか変わるかもしれない、と思い始めている。
「じゃあ、この枝は?」
「これは姫小松の枝だわ。細かいことは知らないけどー」
「なるほど。……なるほど?」
結局、送られてきた枝は分からずじまいになった。いつかえるにーにゃ……いや、ぅとに聞いてみよう、と思う鴉羽だった。
「……で、返歌はするの?」
「してもいいと思うわ。やり方わからないけど」
「いいとおもう」
学校で学んでいるので、和歌や、その返歌という存在自体は知っている。が、知っているだけだ。
「……紙は同じ材質がいいかな」
と、周りを見渡してみる。まあ、表面には無さそうだ。
「うちー、これないわ。結構いいものよ」
……なかった。
「……さすがに、普通の印刷紙はまずいよね?」恐る恐る聞いてみる。
正直に言って、返歌なんかしたことはおろか、考えたことすらなかった。そもそも今の時代になってこれがやってくるとは思っていなかった。
もしも返歌のことを古文の授業で学んでいなかったら、そのまま黙っていたのかもしれない。そしたら無礼だと思われるのかな?
そもそも今の時代になって、これがすらすら返せる人って……いるのかな?
「……印刷紙でもいいとおもうけど。普通の色紙でもいいんじゃないのー?せめて頑張って紙は選びました感がでるし」
ミズーリの提案に賛成することにした。……というより、それ以外に方法がなかった。
「ええと、じゃあ、中身は?」
もはや自分で考えられなくなって、最初からミズーリとやえ任せになっている。鴉羽がペンを鼻にのせた。
それをミズーリがデコピンで落とし、「一緒に考えましょうねー」と怖い笑顔を浮かべる。
「よろしくお願いします、って返すのは?コピペでそのままそっくり」やえがぶっきらぼうに言う。
「「それはない」」と口を揃えて返事をするミズーリと鴉羽。それでも八重桜の運命を担うものか。
とはいえそれ以上にいい案はない。
「古文の教科書を見ながらやれば、いいんじゃないかしらー」というミズーリ意見に賛成する二人。ミズーリはその丸投げの様子に「まるで他人事ねー」と突っ込んだ。
それから二、三時間は、その返歌の内容であーだこーだ話し合っていた。
本歌取りを考えてみたり。
ちょっと掛けてみたり。
貰った歌からちょっと引っ張ってみたり。
そして悪戦苦闘の末。
最終的にはミズーリの「……じゃあこういうのでどうかしらー」という声が上がって、裏紙に書かれたミズーリの和歌で内容は決定した。
なんかそれっぽく折って、同じく添えるものを決める段階に入る。
色んな意見があったり、「松の枝、返せば?」というやえの謎案が上がって、残りのふたりに「それでも風流(粉雪や八重桜)の精霊か」と突っ込まれたりした。
結果、ミズーリの意見を取って、エルフの森に生えている、傷を直せる力を持つ枝を添えることになった。
ちなみにここだけの話、後日この三人の知恵(主にミズーリ)の結果である和歌を受け取った扇とその妻が、一週間くらい「娘たちにいい友人が……!!」と感動で枕を濡らしたという。
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