十一話(間話)、いつもの日常と、ダンジョン③
体を綺麗にして、パジャマに着替え、
明日の用意を済ませる。
全ての動作を、流れ作業で行う。
全てを終わらせると、鴉羽はとてとてと三階にやってきて、部屋に入っていく。
パジャマ姿のミズーリとやえが寛いでいる。
「おかえりー」
「お姉ちゃん。……ただいま」
床は暖かカーペット仕様。あちこちに可愛らしいクッションが置かれていて、いかにも「女子会」の聖地である。
オレンジ色に近いライトも雰囲気を温めていて、鴉羽も部屋に入ると疲労感も相まって、ごろんと地面に転がった。
鴉羽のそばに転がりやってくるやえ。
「ねえ鴉羽。ミズーリのこと、お姉ちゃんって呼んでいるのね」
「うっさい。人の勝手でしょ」
恥ずかしさ紛れに、クッキーを口に放り込む。美味しい。焼きたてだ。
「ごめんなさい、そんな怒んないで。ほら、クッキーあげるからね」
「怒ってないけど……そのクッキーは別にやえのじゃないでしょ……むぐっ」
と言いつつも口を寄せて食べる鴉羽。
「あはは、なんか、餌やりしているみたい」
「あ、うちもやるー。はぁい鴉羽ちゃんよーちよちー」
ミズーリがやえの言葉にのって、完全にペットになってしまった鴉羽。しばらくは二人に付き合ってあげていたが、やがて不貞腐れたように、クッションに潜って、もーやらないとストライキ宣言をした。
よく考えたら最初から仕組まれていたのかもしれない。鴉羽のパジャマはくま耳の可愛いものだ。ほかの二人はそんな格好をしていない。普通のもこもこパジャマだ。
……着なきゃよかった。十数分前の興奮している自分を殴りたい。
(でもあの感覚……)
正直、二人にあーんしてもらうのは、少し楽しかった。と、鴉羽は心のどこかでそう思うのだった。
「可愛かったのにー」
と、もう少しやりたそうな顔をしているミズーリ。
「
「あちゃあ。ごめんねー」
ミズーリは鴉羽の機嫌を取ろうと頭を撫でてあげる。
「そういえばさ」と鴉羽が思い出したように言う。
「結局二人ってどこで出会ったの。……帰ってきてビックリしたんだけど」
「「んー?」」
どうだったっけな、と考え始める二人。やっぱり、少し似ているところがある。なんというか、雰囲気が掴めない。
「確かー、うちが勉強から帰ってきて」
「そこで僕と出会って」
「鴉羽ちゃんの話になってー」
「そうそう、鴉羽の話しね。昔のドジっ娘のお話、楽しかったわ」
「ねー。それで、家に寄ってもらうことになって」
「「今に至る」」
全ての事の発端は、鴉羽にある、と。
もう、考えるのをやめよう。鴉羽はそう決心して、目を瞑った。
深夜。
ぐっすり眠る鴉羽。
「……」
「……可愛い」
「そうよね。鴉羽ちゃん、寝顔可愛いよね」
未だに寝ていないやえとミズーリ。小声で笑っている。
「もうちょっと素直になってくれればいいのにー」
「ん、十分素直だと思うけど。こないだ僕を友達に認定してくれた時も嬉しかった。スパって言ってくれるのは、頼もしい」
「そうだけどー。ほら、やえちゃんが来たんだから、ちょっとは喜んでもいいのにーって。心の中で思ってても、他の人は読み取ってくれないわー」
「ほら、ミズーリっていう立派な翻訳器が」
「いつまでも一緒にいられる訳では無いわー、あの子もいつかはお嫁さんになるのよー?……一緒にいられるなら嬉しいけど」
「まるで親みたいな言い方」
「実際ー、親みたいなものだけどね」
「お姉ちゃん兼、親。大変だね」
「うちがいいならいーの。鴉羽ちゃんにも色々助けて貰ってたし……それでどう、調子。キツかったら言ってね」
「ああ、もう大丈夫。ミズーリありがとうね。僕も辛くなってきた頃だったから……それにしてもよく考えたね。エルフの森の加護を使うとか」
顔は暗くてよく見えないが、やえの声は嬉しそうだった。
「成り行きよー、成り行き」
達成感を覚えた声。
ミズーリは、やえの言う「精霊が散ってしまう」ということの意味を知らない。が、もしもエネルギーみたいなものならば、問題は無い。
エルフの森の加護。実際はそんなものは存在せず、ミズーリの造語だ。
エルフのいる森は、現状維持を好む。火事で木々が燃えると、燃えるのと同じスピードで元に戻る(もちろん限度はあるが)。エネルギーの量が変わると、周辺から引っ張ってきて量を維持したり、反発したりする。
まるで、加護がかかっているような感覚だ。
それを、ミズーリは逆利用してみた。
つまり、予めやえを塔に招き入れる。エルフと同じ食事をして、やえの精霊としてのエネルギーと混ぜこぜにする(案外上手くいった)。
次に女神像(ミニサイズ)を、塔の収納に入れる。入れる時はエルフであるミズーリが入れる。
そして最後に、やえが服を少しずつ脱ぐ。
「面白いよね。エルフの森の加護の反発が強すぎて、僕の精霊としてのエネルギーが体内に引きこもっちゃったんだもん」
そう、周りは木々だ。
やえの体内にとっては、四面楚歌の状態だった。それなら体外に出ないんじゃないかと思っていたら、もっと酷かった。
お外が怖くて、やえの身体からは、絶対に遠く離れられなくなったそうだ。
……そんなこともあるんだ、と驚く二人だった。
「これなら、ドレスを着なくて済む。嬉しいね」
「相当嫌だったのね」
「そうだね。マスターが着ておけって言わなかったら、多分一生着なかった」
「マスターなんているの?」
少し驚くミズーリ。それは聞いてなかった。
「『元』だけどね。……もう寝よ。僕も明日、学校あるし」
話題を終わらせ、やえは姿勢を変えて目を瞑った。
「うちもー。……おやすみ。」
「おやすみ」
今日は、なんだかドキドキして、上手く眠れないかもしれないけど。
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