「あ!」


1週間に5日家庭教師は来た。そして、1日の3〜4時間ぐらい勉強を教えて帰る。その

繰り替えしだった


教える事の中には体力造りみたいなのもあって、1時間ずっと岩を持たされたり30分庭を

ぐるぐる走らせたり中々にハードであった


が、それ意外の勉強の時間はやたらと退屈である


「さ、今日も言葉の練習から始めましょうか

これは?」

家庭教師が1枚の墨で書かれている様な絵の

紙を俺に見せる

「ガィ」

「じゃこれは?」

「チョハ」

「これは?」

「しか……じゃ無くてィジョン」

「はい、よく出来ました」


この国では前世の牛や豚や鹿に似てる動物が

生息しているらしいが、どれも前世とは違う呼び方をするらしい。最初こそ苦労したもののすぐに覚えた


「それにしても優秀なのは良いけど、時たま変な事を言うねぇ。ウシだとかカラスだとか

チョウチョだとか」

「あはは……」


女はテーブルの角砂糖を10個ほどコップの水に溶かし、飲んだ


「じゃ次は書く練習をしましょうか。いつもと同じくこれね」

「はいはい」


また渡された紙には手書きで幾つかの文が書かれている。その下に空欄があって、それに

文を真似て書けばいいって感じだ


えっと……"ィジョンはテールになることを

ゆめみてるあわれなハードリス"と


変な言い方してるけど意味はこうだ

"鹿は龍になる事を夢みてる哀れな落伍者"

ってな。思うんだが、この女俺が意味が分からんからてきとうな文用意してるだろう。

その証拠に次の文はこうある


"ガィのお肉はが一番

美味いミィニと言っていた友人は去年

亡くなったパナトリス" と


巫山戯た野郎だよコイツは全く


「それにしてもアミローシスくんはさ」

「いや、先生僕の名前は"あ!"だって…」

「ん?もう一度言ってご覧、あなたの名前はアミローシスくんでしょ?」

「はい……」


自分の名前をはっきりと伝える度に女は静かに笑ってこっちに圧をかけてくる。どうしても信じられ無いらしい俺の名前が


「で、話を戻すけどさアミローシスくんはさ」

「アミローシスくんは?」

「らしくないんだよ」

「え?」

「全然6歳の子らしくないよ。泣かないし、

態度は悪いけど何だかんだ課題は最後までやるし」

「そ、そうかなぁ……ぼくむずかしいことわかんない」

「一番らしく無いのは"目"ね、その目は輝きを半分失ってるの。まるでこの世界が争いと

堕落と勤勉で出来てると言わんばかりにね」

「だらく……きんべん……あらそい?」

「……流石に難しかったか」


俺は今朝も鏡で自分の顔を見た。前世とはかなり違う真ん丸な瞳にやたら綺麗な肌のムカつくガキの顔だった。輝きを半分失ってるとは思えなかったが……


「ま、たまーにそんな子はいる。私もとやかくは言わないさ。でもねぇ」


女はまた、水に幾つかの角砂糖をぶちこみ

口に含んだ


「大人ってそんな子供が一番嫌いだからなぁ

だって大人は子供を可愛くなければダメだって思ってるんだもの」

「可愛く……なければダメ?」


ふと、俺は前世の自分を思い出した。メディアでは頻繁に天才的な才能を持った子供が囃し立てられていた。俺はそれを見る度に子供らしくないとバカにしていた。考えてみたら子供らしくって何だ?大人らしいって何だ?

それすら説明出来ないくせに前世の俺は他人を貶していたのか


「ちょっと哀しいお話になっちゃったかな

ごめんなさい、今日はもうおしまいにしましょうか」

「はい…」


何となく嫌な気分になり、俺はテーブルの

水を飲み干し………て



甘っっ?!?


「ちょっとそれ私の砂糖水!!」


それは水と言うよりもはや砂糖に近い、とにかく甘い、ショートケーキにチョコレートをかけた物より甘い!!!


「おまっ……なんてもん飲んで……うっ」

「吐くほど甘かった!?そこまで?!」


俺は吐き気と同時に強烈な尿意に襲われた

この感覚は……ヤバい


先生テミファ!と、トイレ」

先生テミファはトイレじゃありません!」

「いや、それどころじゃ無くてマジでヤバいんだっ……あぁああ」


足の震えが治まると同時に股間の辺りから薄黄色の液体がぽたぽたと垂れていった


「あらま…」

「あらまじゃ……ねぇよ馬鹿野郎」


それは実に27年振りの"お漏らし"であった


足元に出来た染みを見ながら俺は6歳の身体を過信してはいけないと強く思うのだった






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「あ!」 湧音砂音 @mtmmumet555

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