第34話カール・クリス10歳④ 剣武祭 予選 第一回戦。

「へぇ、また懲りずに突っ込んでくるかぁ~」

走りながら構えた剣を鞘に納める。

僕は、腰に巻き付けた鞄から右手で短刀を取り出す。

(筋力超上昇―――。)

知覚の糸パーセプションストリング―――。)

筋力超上昇で自身の身体に強化バフを掛ける。

短刀にマナの糸を絡ませて固定する。

僕は、その短刀を彼に目がけて投擲する。


短刀は、彼の首筋を狙う。

だがそれは、少し首を傾けて避けられる。

「おっと、飛び道具か……。残念だな。」

余裕の笑みを浮かべて避ける。目は閉じたままだ。

「いや、狙い通りだよ―――。」

僕は言う。

絡ませたマナの糸を操作する。

短刀は、方向を変える。

勢いそのままに再び彼の首筋を狙う。

「なにッ!?」

驚いた表情で彼は、目を開く―――。

「ちっ、何しやがった!?」


彼は、腰に携えている剣を鞘から引き抜く―――。

刹那――、短刀は右手から放たれた剣撃で弾かれ落とされる。

「坊主……訂正だ。剣は使わせてもらう。やるじゃねぇか……」

彼は、右手に持った剣をこちらに向ける。

「坊主じゃないです。クリスです。」

「そうか、じゃあクリス……今度はこっちから行かせてもらうぜ!」

腰に巻き付けた鞄から二枚のスキルカードを出し使用する。

「筋力上昇……素早さ上昇……」

使用されたスキルカードは青白い光を放ち霧散する。


「見せてやるぜ……剣技―――ダンスソードッ!」

彼は軽やかにステップを踏む。

剣を突き立て右に左に振りながらゆっくりと近づいてくる。

まるで踊りダンスを踊っているようだ。

その動きは洗礼されていて無駄がない。

僕まであと数歩という所で、動きが一瞬止まる。


止まった動きが動き出した瞬間、僕の頬を刃が掠める。

「おい、いいのか……、油断してると怪我じゃすまねぇぞ?」

ツーッと頬から血が滲む。

まったく動きが見えない。

彼は、再び数歩後ろに下がり距離をとる。

軽やかなステップを踏みながらまたゆっくりと距離を詰めてくる。


僕は、学校で何を学んだ……。

校長先生の技。レントの技。ナナの技。ネルガ先生の魔法。

ラビの技……。

今まで、見てきた技の数々が頭に浮かぶ―――。

その中にこの状況を打破できるものはないのか?

僕は、戦いの中で成長するタイプの様だ。

実際に剣技を磨いていても、レントやナナに比べ劣っている。

窮地に立たされた時に、技が閃く―――。

もしかして、これが僕の隠された力の一つなのかもしれない。


「おい、坊主ぼけっとしてると……マジで死ぬぞ?」

気が付けば、彼の剣が僕の目の前で振り下ろされている。

「くっ―――!!!」

僕は振り下ろされた剣を構えた剣で何とか防ぐ

交わる剣が、ギチギチと音を立ててぶつかり合う。

力では押し負けている。

僕は地を蹴りあげる―――。

グラウンドが土で良かった。

土埃が舞い、目くらましになった。

「げっほっ、げっほ!また古典的なやり方だな!」

彼は、口に入った砂を吐き捨て目を擦りながら言う。


相手と十分な距離をとる。

僕は、レントの加速を真似する―――。

(筋力超上昇……加速……。)

足の筋肉が膨張するのが分かる。僕は掛け合わせる。

(超加速―――。)

そして、地を蹴るように駆け抜ける―――。

これでは、まだ弱い。

次は、ナナの技だ。

僕は、加速する勢いそのままに跳躍する―――。

空高く宙に舞う―――。

「ちっ、何をするきだ!?」

彼は、宙を見上げるが日の光が眩しく目を細める。

「剣技―――疾風牙撃しっぷうがげき

眼帯の大男ダルシムが使っていた技だ。

構えている剣から風が吹き始める―――。

それは、勢いを増し暴風となる。

両手に構えた風を纏わせた剣を大きく振るう。

風は衝撃波になり、下で目を細めている彼を襲う。


「なっなんだとッ!!!」

彼は風の刃に襲われ、咄嗟に右手に持った剣でそれを防ぐ―――。

「くっ……とんだ隠し玉もっていやがるな……。」

彼は初めて苦しそうな表情を見せる。

左手でもう一つの剣に手を伸ばす。

「やるなぁぁぁああぁあ!!!」

そう言って、左の鞘からもう一つの剣を引き抜き風の刃を切り伏せる。

風の刃は、かき消される。

彼は、はぁはぁと荒い息を上げて二つの剣を地面に突き立てる。


僕も何とか、地面に着地できた。

だが、渾身の一撃は二本目の剣によってかき消されてしまった。

「これで、仕切り直しですね……」

僕は、彼を睨みつけながら言う。

「あぁ、正直舐めていた……クリスお前は強者だ……」

彼は、突き立てた剣を引き抜き剣を両手に構えこちらを睨む。


会場は、騒めき立っていた。

「おっおい、あの坊主すごくないか?」

「アリエナイな……あのアリエナイ相手にここまでやるとはなぁ」

だんだんと、観客席の人が増えているのが分かる。

すごい試合が行われていると聞きつけた人たちがぞくぞくとやってきているのだ。

さっきまで、アリエナイ選手に向けた声援しかなかったが今では僕を応援する声も

沢山聞こえてくる。


「クリス、俺はどうやら次の一撃が限界だ……本気でいくぜ」

「僕も、そのようです……。」


静かな時が流れる―――。

お互い、集中している。

僕は、最後の力を振り絞る。

(余計な力を抜くことじゃ……。)

大きな岩をいとも簡単に切断した校長の授業を思い出す。

僕は、深く息を吸い込み肩の力を抜く


「うぉぉぉおおおおお!!!!」

静寂を破り先に動いたのは彼だった。

僕は、その動きをゆっくりと見る。


剣が幾重にも重なる。

動きがゆっくりと見える。

右から左から同時に僕を挟み込むように剣撃が襲い掛かる。

風の圧を感じる。

僕は最小限の動きだけでそれを躱ししゃがみ込む。

「はっ、見事だ……。」

彼はそう短く言葉を溢す。

挟み込まれた剣は獲物もなく虚しく重なる。

一本に重なった剣に狙いを定めるように下から剣を振り上げる。

綺麗に重なった剣は、真っ二つに斬れる。

はじき出されるように二つの剣の先が地面へと刺さる。

そのまま、僕は剣を彼の首筋に当てる。

彼は、降参したように真っ二つになった剣を地面に落とし両手をあげる。


「俺の負けだ……楽しかったよクリス」


会場が沸き立つ。

客席に座っていた観客は全員立ち上がり拍手する。

「すげぇ、試合だったな!」

「いや、二人ともすごかった!」

「こりゃ予選のレベル高すぎるだろ!」

口々に僕たち二人を称えるように観客は言う。


「ははっ、見ろクリス。もう誰もお前がただの坊主じゃねぇって感じだぞ」

「はい、ありがとうございます。アリエナイさん」

「いや、クリス。アリでいい。親しいやつらからはそう呼ばれている。」

「アリさん。僕も楽しかったです」

「あぁ、俺もだ……本当にアリエナイやつだよお前は……次も頑張れよ!」


僕たちは、お互いに握手して会場を後にした。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

勇者と魔王!何かより転生者『人生二度目』の俺の方が強い説! あきとん @akiton_4444

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ