騎士見習い幼等学校  アルカディア大陸歴1999年

第31話 カール・クリス 10歳① 剣武祭編

特別学級クラスは二次試験を通過した上位5組が入る事のできるクラスだ。

だが、僕たちはアクシデントを乗り越え特別枠として入学する事ができた。


気が付けば、2年の月日が経った。

最初は18人いたクラスの仲間たちも、2年後には12人となっていた。

厳しいカリキュラムを組まれ、毎日厳しい体力づくり

休む間もなく、剣の稽古に明け暮れる日々。

そんな日々に耐え切れなくなり、一人また一人と脱落していった。


僕たち3人は健在だ。


成長した僕たちは、今年開催される剣武祭けんぶさいに推薦枠で出場する事が決まる。

個人戦になるため、僕たちは仲間だが敵同士という事になる。

剣武祭は本来、12歳から参加する事が認められている大会だ。

もちろん大人も参加する。

だが、マルス兄さんの様な例外が生まれてしまったため

年齢制限の上限を下げ10歳から参加できるようになったのだ。

今回の大会にはラビも参加する彼女は大会三連覇中だ。

二つ名までついた、剣舞いソードダンサーのラビ。

大会は大いに盛り上がるだろう。


「ふぁ~眠いね……。」

僕は、走りながら欠伸をする。

「クリス、怠けてる場合じゃないぞ」

レントは、息を切らさず僕の前を走る。

「ひゃっほーいなのだぁ~」

ナナはさらにその前を全力で走り抜ける。

僕たちは朝の日課のランニング中だ。

校内にあるグラウンドを走っている。


学校では化け物三人衆と言われ距離を置かれている僕たち。

今では、ホブゴブリン討伐は朝飯前になるほどの実力を身に着けた。


「二人ともおそいのだ~」

ナナが僕たちを見かねて後ろに下がりながら走る。

やはり獣人族の成長は早い。

褐色の健康的な肌に、整った顔立ち。

もふもふのウサギ耳と尻尾。

とても11歳には見えない。発育の良さだ。

身長も僕とレントより高い。


僕は、走るたびにたわわと揺れるモノから目が離せなくなった。

男のさがである。

「なっ、クリス!どこ見てるのだッ!」

両手で胸元を隠すナナ。

あっ、目線がばれた。

「いや……何も」

僕は、目線を逸らして素知らぬ顔をして走る。

やはり彼女はだ。


「ははっ、走るのに集中しなよクリス」

僕の肩を叩き、レントはさらに加速して走る。

「お先に失礼~!」

僕たちはお遊びでお昼ご飯チャレンジというのをやっている。

グラウンドを20周する。先に終えたものは一番最後の人から

昼飯を奢ってもらうというルールだ。

「あっ抜け駆けはゆるさないのだ!」

ナナは、レントを追う。

あと1周だ―――。今日は僕がビリ決かな。


不甲斐ないが、これ以上走れない理由が男にはあるのだ。

僕は足をもじもじさせながら走る。


「これもサガか……。」

空は澄み渡るような快晴。

差し込む日差しに僕は目を細める―――。



「へへっ、昼飯はもらったのだ!」

ナナは、飛び跳ね喜ぶ。

「くっくそ~ずるいぞ、ナナ!」

レントは息をぜぇぜぇと吐き言う。

「へへっ、足元がお留守なレントが悪いのだ!」

前を走っていたレントに対してナナは足掛けをした。

あと少しの所で、レントは躓きそれをすいっとナナが追い越した。

「これも、訓練なのだ!」

自信満々に言い放つナナ。

「明日、覚えとけよナナ!」

「いやなのだ~!」

ベロを出し、レントを挑発するナナ。

「くっそ~悔しい~!」

「まぁまぁ、奢るの僕なんだけどね」

どっちにしろ、奢るのはビリ決の僕。


僕たちは、服を着替え特別クラスへと向かう。

午前の授業だ。

今日の授業は校長先生だったかな?

たぶんまた移動して剣の稽古だろう。


教室には、校長ともう一人見慣れない男がいた。


「剣武祭も近い、なので今回は特別講師をお招きした。」

校長は、教壇から降り特別講師が教壇に立つ。

くすんだ青色の髪。吊り上がった目。

目元には深い隈がある。

あきらかにひ弱で不健康そうな男。

長い紫色のローブは所々穴が空いている。

コホンと咳ばらいをして男は喋り出す。

「私の名は、シュピーネ・ネルガだ。」

教室が騒めき立つ。


「暴風のシュピーネ?あれが?」

「蒼の騎士団長だろシュピーネって」

「えーっ、初めてみたけど想像と違う」

クラスメイト達は、言いたい放題言う。


シュピーネ・ネルガ。

蒼の騎士団を率いる凄腕魔法使いだ。

暴風のシュピーネの二つ名で知られる。元白銀級冒険者。


「ふぁ~、言いたいだけ言うがよい」

彼は欠伸をしながら、眠たそうに言う。


「まぁ、実力は実際にみればわかるじゃろう」

校長は髭を触りながら言う。


「私は、お前たちに魔法と剣の格の差を教えにきただけだ……ついて来い」

彼は、長いローブを引きずりながら教室を後にする。




校庭のグラウンドに皆集められた。

「私の事はネルガ先生と呼びなさい……それでは一つお見せしよう」

そう言うと、ネルガ先生は手を天にかざす。

「本来は、無詠唱だが今回は特別だ……。」

詠唱を始める。


『我、来るところに風があり―――』


グラウンドに風が吹き始める。


『我、通る道に風がある―――』


風は勢いをましていく、グラウンドの土は巻き上げられ砂が舞う。


『風よ―――暴風になりて吹き荒れよ!』


立っていられないほどの風がグラウンドに吹き荒れる。

僕たち3人以外は、全員がへたり込む。


「ほぉ、中々見どころがあるやつらがいる」

ネルガ先生は、僕たちをみる。

見た目からは想像がつかないほどの魔法。

圧倒的な力の差をみせつけられた。

これが騎士団長……暴風のシュピーネ。


「よいか、お前たち……剣武祭に出場するもの達が剣だけだと思うなよ」


その通りだ、剣武祭は何でもありの大会。

実際に、剣だけではなく魔法も織り交ぜた試合など数多くある。

他にも、剣でなく拳で戦う者もいた。


最後まで立っていた者が勝者。


今まで、授業では剣技を磨くことばかりしてきた僕たちにはあまりにも高い壁だ。


「今回、私が受け持つのは魔法の対処方法だ」


「ちょうど良い。お前……名をなんという?」

僕を指さし指名するネルガ先生。

「クリス……カール・クリスです」


「ほぉ、あのカール伯爵家の息子か……なるほどなるほど」

ネルガ先生は、考え込んでいる。

ちょっと今のうちに鑑定をしてみよう。


(鑑定――――)


―――――――――――――

 名前:シュピーネ・ネルガ

―――――――――――――


(なっ、なんて事だ名前しか分からない!)


「ほぅ、鑑定持ちか……面白い小僧だ」

ネルガ先生は、こちらを見てにやりと笑い。


姿が見えなくなる――――。


「無駄な事はやめといた方が良い……」

一瞬で距離を詰められ耳元で言われる。

「なっ……」

まったく動きが見えなかった。

「クリスとやらお前はどうやら隠し事が多いみたいだな……」

まるで全てを見通してるかのようにネルガ先生は言う。

僕は、恐れをなして距離をとる。


「ははっ、面白い。ではこうしよう」

不敵な笑みを浮かべ語り続ける。

「私は、ここから一歩も動かないクリスよ……私を動かしてみろ」


「クリス~がんばれなのだ~根暗に負けるな~」

ナナが僕に声援をおくる。

「根暗ではないネルガだ……」

ネルガ先生は、鋭く睨みつけながら言う。

「ひっ、すっすまんのだ~ネルガ先生」


「ネルガ先生!お願いがあります!」

レントが手をあげる。

「うむ、何かね?えーとお前は……」

「グレイズ・レントです」

その名を聞いて、右手で顔を覆いながら高笑いするネルガ先生。

「はははははっ、まさかグレイズ・ノアの息子までいるとはな!」

先ほどとは打って変わって印象ががらりと変わる。

「ネルガ先生。私も一緒にお願いします」

「いいぞ……いいぞ……、ノアの息子なら大歓迎だ……。」

興奮気味にネルガ先生は言う。

「ありがとうございます!」

レントは僕の隣まで走り寄って来る。

そして、右手で鞘から剣を引き抜き構える。


「二人同時にきたまえ―――」

すっと、先ほどまでの表情から落ち着いた表情に変わる。


僕も剣を抜き、両手で構える。



――――――――――――――――

・男のサガ

抗えない衝動。

ロマンシングサガ。


・剣武祭

剣と魔法何でもありの、闘技大会の一つ。

マルス兄さんもここで三度優勝している。

年齢制限以外は特にない無差別のトーナメント形式の大会。

予選と本戦がある。





















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