第28話 カール・クリス8歳⑥ 二次試験 

鬱蒼と生い茂る木々を掻き分け僕たちは進む。


まさか、こんなフィールドを学校の敷地に作るとは

貴族たちが力を入れているのが分かる。

「だけどこんな短期間でこんな森を作れるんだね」

僕は驚きながら言う。

「クリス、この木に触れたら分かるよ」

クリスはそう言って一本の緑樹を指さす。

僕は言われるがまま触れてみる。

手に伝わるのは、強いマナ。

「なるほど、マナを操作して作ったのか……。」

僕は感心した。

「成長を早める魔法だ〜」

ナナは、根っこに生えている茸を手に取り食べていた。

「ちょっとそれ大丈夫なの?」

僕は、慌てて茸を取り上げる。

「大丈夫なのだ、おいらの村では普通に生でも食べれる茸だ」

鼻をフンと鳴らして言う。

「あぁ、それなら良し」

僕は、ちょっと腹が立ったので齧りかけの茸を食べてやった。

「あ~~~何するだ!」

ナナは、悔しそうな声をあげる。

「二人とも遊びはそこまでにしよう」

クリスは、木の根元に膝をつき口元に指を当てている。

静かにしろという合図の様だ。

「何かいるのか?」

僕は、小声で聞く。

「うん、まだ遠くだけどこの奥から魔物の気配を感じる」

「なるほど、数は?」

「すまない、そこまでは分からない。」

ここでナナが、口を挟む。

「数は3匹なのだ、間違いないのだ!」

僕もクリスも驚いた。

だが、とても嘘を言っているようには聞こえない。

「ははっ、そうかナナが言うからには間違いないな」

ナナは、獣人族だ。耳も鼻もいい。

彼女の索敵能力は予想以上に役に立ちそうだ。

僕たちは、お互いの役割を決める事にする。

「クリスは後衛。私は前衛。―――先に、ナナに斥候を頼みたい」

棒で地面に、図を描きながら説明するレント。

「上手なのだ~」

ナナは感心しながら覗き込む。

「ここからでは、敵の位置は曖昧だ」

続けて説明を始めるレント。

「だから、待ち伏せして一網打尽にしようと思う」

つまりはこうだ。

先に斥候としてナナが先行する。

そして、魔物をこちらまで引き寄せてもらい。

囲い込むように一網打尽にするという計画らしい。

何とも、分かりやすい説明だ。

「危険だけど、頼めるかい?ナナさん」

「もちろんなのだ!任せろ~」

レントは立ち上がる。

「私たちは、運がいい。この試験。一番乗りで通過しよう!」

強いリーダーシップを備えているレント。

流石、騎士団長の息子である。

「ナナさん、最後に一つ。無理だけはしないで下さい」

レディに対して何とも紳士的な振る舞いに僕の好感度は鰻上りだ。

「わかったのだ~」

僕は、一つ思いつく。

「ナナ、これを首に下げて……。」

兄から貰ったドラゴンの鱗で出来た首飾り。

これに僕は、マナを送り込んで魔法具にしたのだ。

効果は防御の盾プロテクションシールド

対象がダメージを負うのを軽減する魔法を掛けてある。

これがあれば、少なくとも深手を負う事はないだろう。

「きっ綺麗なのだ~」

ナナは、頬を赤らめながら首飾りを受け取り身に着ける。

「なんで、そんな顔が赤いんだ?」

僕は尋ねる。

「おっ乙女の秘密なのだ~!」

教えてもらえなかった。

「うん?それ―――マルス様と同じ……。」

レントは気が付いたようだ。

「そうだよ、兄さんがくれたんだ」

僕は首飾りを指さしながら言う。

「そっそれドラゴンの鱗だろ‼」

レントは語気を荒げながら興奮気味だ。

「どっどうした、レント!?」

「いや、すっすまない。つい、羨ましくて……」

話を聞いてみた。

どうやらマルス兄さんから、首飾りの話を聞かされていたらしい。

『英雄ジャガー』にレントも憧れている。

拳一つでドラゴンを薙ぎ倒す。

そんな英雄譚のとして兄から語られている。

何とも、恥ずかしい。

まさかこんな所まで広がりつつあるとは……。


歓談はこれぐらいにしておこう。

時間は有限だ。

僕も、立ち上がる。

「さぁ、始めよう!」



先陣を切って、ナナは森を駆け抜ける―――。

木々の間をすり抜け気配を感じる場所へ

あっと言う間に辿り着く。

「いる―――。」

ナナは短く声を発する。

そこには、三匹の緑色の身体をした魔物モンスター

耳は尖っており、口元は大きく、ギョロッした眼球で辺りを見渡している。

ゴブリンだ。

この世界では、一般的な魔物モンスター

単体では臆病で、すぐ逃げる。

だが、複数体いる場合は話が違う。

非常に狡猾で獰猛になる。

熟練の冒険者達でさえ、複数体確認したら一人では対処しない。

「ギャッギャ……」

一匹のゴブリンが、ナナに気づく

ナナは太ももに巻き付けていた鞘から短刀を取り出した。

そして、それを素早く投擲する―――。

ナナの存在に気付いたゴブリンの右腕に深々と短刀が突き刺さる。

ゴブリンは短く痛みに声を発し、仲間が気づき寄って来る。

十分に、引き付けることが可能になったと判断したナナ。

踵を返し、僕たちの元へと戻る。

怒り狂ったゴブリン達は、ナナを追う―――。


「上手くいったみたいだ……」

僕は、それを知覚の糸パーセプションストリングで確認していた。

ナナが、真剣な表情で戻ってきた。

「上手くいった~!」

「でかしたナナ!」

僕は、ナナを褒める。

後からは、三匹のゴブリン。

顔を歪め、涎をだらしなく垂らし興奮している。


静かに息を潜め、太い枝の上で待機していたレント。

ゴブリン達がナナに気が向いているその隙を狙う。

すぐさま、枝から飛び降り。

ゴブリンの背後をとる。

右手で腰に携えた剣を鞘から引き抜き

そして、真正面のゴブリンの心を捉える―――。

「一匹目……」

そう、短く声を発し剣を引き抜く

ゴブリンは、声をあげる間もなく絶命に至る。

引き抜かれた剣を振り血を払う。


残された二匹のゴブリン。

右腕を負傷したゴブリンは、脱兎の如く逃げ出した。

残された最後の一匹は怯え、震えている。


「二匹目……」

レントは鋭い眼光で怯えるゴブリンを捉える。

その表情は険しく、先ほどの優しい表情とはまるで別人。


加速する―――。


目にもとまらぬ速さで、ゴブリンの心を捉える。

構えた剣は垂直にゴブリンのコアを捉え

一突きで心を穿つ―――。

その疾風の如き動きにゴブリンはなすすべもなく

ただただ、唖然とした表情を浮かべていた。


「すっすごいね、レント」

僕は、まったく活躍できなかった。

「これぐらいどうとでもないよ」

剣についた血を払い、鞘へと納める。

何事もなかったように優しい表情へと戻る。


「ほぇ~レントすごいのだ~」

ナナも感心している。

「だけど一匹逃した」

もう、二匹も倒したのだ。

後はコアを回収するだけだ。

レントは悔しそうな顔で言う。

「あと一匹もコアを回収してから片付けよう」

どうやら、レントの闘争本能に火がついたようだ。

これは付き合うしかない。

「見てくれ、血の跡がある。」

レントは逃げ出したゴブリンの血の跡を指さす。

「これを追って最後の一匹も倒そう」

「仕方ない……レントが納得するまで付き合うよ」

僕は言う。

ナナも、頷く。


僕たちは、ゴブリンの血の跡を追う事にした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る