第27話カール・クリス8歳⑤ 一次試験
ナナと別々な会場になってしまった。
だが、彼女なら大丈夫だろう。
案内された会場となるグラウンドにはもう既に人が集まっていた。
「では、これより10番から20番までの試験を開始する。」
試験管の男が言う。
「一次試験の内容を発表する。」
男は試験の内容を受験者に告げる。
一人づつ、番号を呼ばれた順に100メートル先にある丸太に刺さった旗を
とってきて戻る。
戻ってきた時間を計りそのタイムが早い上位3名が通過する。
しかし、どうやって時間を計るのだろうか?
僕は、試験官が手に持っている物を見る。
(鑑定―――。)
――――――――――――――
魔法具:時の砂時計
マナを操作して、時を止める、動かす。
という事ができる。
細かく、砂粒の量も使用者には分かるように
設計されている。時間を計測する際に使われる。
――――――――――――――
なるほど、これでタイムを計れるのか……。
すごいな。ファンタジー。
僕は、感心した。
「それでは10番から始める。始めッ!」
一人目の受験者の少年が走り始める。
中々、速い。
僕は呼ばれるまで準備をする事にする。
手を抜かずにやるべきか……。
思考する―――。
2人目が走り始める。
3人目が走り始める。
どんどん試験は進む。
うーむ、どうするか……。
これぐらいなら、筋力超上昇を使わなくてもよさそうだが……。
4人目が走り始める。
僕は、考えるのを止めた。
4人目に走り出した少年。
彼は、他とは違った。
アッシュグレイの髪の少年。
端正な顔立ち。
育ちの良さを感じさせる。
「おぉ、またもや逸材だ……。」
鍛えられた脚力もさることながらマナの操作が上手い。
(鑑定――――。)
――――――――――――――――
名前:グレイズ・レント 8歳 レベル:15
クレイズ伯爵家の長男。
中央騎士団長グレイズ・ノアの息子。
タレント:心眼、加速。
スキル:筋力上昇『上』
――――――――――――――――
まさかの、中央騎士団長の息子か……。
なるほど、すごい能力だ。
タレントの心眼は弱点を捉えて攻撃できる。
加速は、マナを操作して素早く移動できる。
それにあの歳で筋力上昇を『上』を習得している。
これは、逸材だ。
なんとしても仲良くなりたい。
試験官は驚きの声を発する。
「すっすごい……。」
感嘆の声を上げる試験官。
「14番を一次通過とする。」
他の受験者たちが終わる前にそう言う。
「ありがとうございます。それでは、私は次の会場へ向かいます。」
試験官は、彼に次の試験会場の場所を伝える。
会場は騒めく、それもそのはずだ。
彼の速さは、尋常じゃなかった。
僕の目は捉える事ができた。
だが、ここにいる受験者達には見えなかったはずだ。
恐らく、試験官もギリギリ目で追えるレベル。
(筋力超上昇―――。)
ここまで目立つ事をされたのだ。
僕も目立ちたくなってしまった。
「それでは、次―――15番。」
僕はスタートラインに立つ。
100メートル先の丸太に刺さった旗。
「それでは、始めッ―――。」
試験官が言う。
僕は地を蹴り走り出す―――。
僕が通った後は砂煙が舞う。
「なっなんてことだ……こんな事があるのか?」
僕は調整した。
彼と同じタイムが出たはずだ。
「どうですか?試験官?」
「15番……一次通過……。」
肩を竦め、試験官は言う。
ちょっとやりすぎてしまったかもしれない。
僕は彼の後を追うように次の試験会場へと向かう。
◇
新たな試験会場は、先ほどと違うテイストのようだ。
広大な学校の敷地には、鬱蒼と生い茂る森がある。
どうやら、この森を使って一次試験を通過した3名で何かをするようだ。
まだ、他の会場も終わってなく集まっている受験生もまばらだ。
ナナもまだか……。
僕は先ほどのアッシュグレイの髪の彼に声を掛ける。
「こんにちは、僕カール・クリス。さっきはすごかったね。」
僕は、握手を求めるように彼に手を差し出す。
「ああ、こんにちは。私は、グレイズ・レントよろしく。」
彼は、それに答えるように握り返してくれた。
やはりかなり育ちが良い。
表情は、優しくマルス兄さんを彷彿とさせる。
「カール伯爵家のご子息かい?」
「そうだよ、そちらはグレイズ伯爵家だよね。」
鑑定で情報は分かっているとは言え、お互い初対面。
慎重に距離を詰めなければ……。まるで腹の探り合いだ。
「その通り、と言う事はマルス様の弟君だね。」
中央騎士団に所属している兄を知っていて当然か……。
果たしてどっちだ。彼の評価は吉か凶か……。
その表情だけではまったく読めなかった。
「兄をご存じで……。」
僕は、恐る恐る尋ねる。
「ははっ、そんなに警戒しなくてもいいよ。」
彼は、笑いながら言う。
「知ってるも何も尊敬している人だからね。」
良かった、僕は安堵した。
「そっそうなの……。マルス兄さんどんな感じ?」
「良い人だよ!毎日朝稽古に付き合ってくれるんだ!」
兄を語る彼の言葉に熱がこもる。
続けざまに彼は語る。
「何よりも、マルス様は筋肉が美しい。」
恍惚とした表情を浮かべ彼は言う。
「うん、分かるよ。マルス兄さんの筋肉。」
僕は、彼に同調するように言う。
「分かるかい!流石、弟君だ!」
嬉々とした表情で彼は言う。
「クリスでいいよ。」
「じゃあ、私はレントと呼んでくれ」
そう言ってレントと再び熱く握手を交わす。
暫く経ったのだろう。遠くから声がする。
「クリス~!一次余裕だった~」
ナナも、一次試験を通過してやってきた。
こちらに駆け寄って来る。
「ナナ!良かったね!」
「うん!やったのだ~!」
嬉しさのあまり僕に飛びつくナナ。
柔らかい感触が伝わる。
「おっと、そちらの方は?」
レントが、尋ねてくる。
「ナナはナナなのだ!」
ナナは、唐突に自己紹介を始める。
「ナナさん、駄目ですよ。まだ試験は続いてます。」
「ごっごめんなさい……。」
ピンと張った耳は萎れ、俯きながら言う。
「それに、未婚の女性が男性にそんなに引っ付くのは……。」
レントは、顔を赤くして言う。
「わわわっ、ごめんなのだ。」
ナナは、僕から慌てて離れる。
まぁ、まだ8歳だしな。と僕は思った。
全員揃ったのか試験官が番号を呼ぶ。
今回の二次試験は、各組から上がってきた上位3名だ。
試験内容は、その中で3人グループを組み合う。
グループを組んだら、敷地の森の中に放たれた
そのコアを持ち帰る。と言った内容だ。
なんともちょうど良い。
もう既に、3人が揃っていた。
なお、この試験で一早くコアを持ってきた組は特別な待遇が
待っているらしい。
既に、試験は始まっている。
他の受験者達は慌てながら声を掛け始める。
「運が良いね。僕たちこのまま組もうよ。」
僕は言う。
「そうだね、同感だ。」
クリスは同意する。
「やった~ナナ!クリスと一緒!」
萎れた耳は復活を遂げた。
ナナは元気よく跳ねながら喜ぶ。
僕たちは、森の中へと向かう。
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