第26話 カール・クリス 8歳④ 入学試験。

よっぽど疲れが溜まっていたのだろう。

僕は、宿に戻るや否や着替えもせずベットに横になり

眠ってしまったみたいだ。


「おはよう、ラビ。」

ラビは、既に起きており部屋の荷物の片づけをしていた。

「おはようございます。クリス様。」


「ふぁ~今日は試験か~。」


「クリス様なら、大丈夫です。お湯を沸かしております。」

ラビは、そう言うとお湯の入った桶を持ってくる。

「お身体をお拭きいたします。」

僕の衣服を脱がせ、布で身体を拭く。

やはり全裸を見られるのは未だに慣れない。

でもきれいさっぱり、気分爽快。

「ありがとう。」

綺麗に折りたたまれた新し衣服に着替える。

流石に、着替えぐらいは一人で出来る。

「ふふっ、大きくなられましたね。」

意味だろうか……

まだ、8歳の身体。

一人で着替えが出来る事を言っていると信じたい。


「じゃあ、僕は行くよ。後はよろしくね。」

「畏まりました。いってらっしゃいませ。」


ラビが外まで見送る。

僕はまるまる借りている宿屋をでようとする。

「ぼっちゃん!これ持ってきな~」

受付から宿屋のおばさんが、包みを投げる。

僕はそれをキャッチする。

「ありがとう!これ何?」

咄嗟にありがとうと口にしたが、何の包みだろうか?

「朝ごはんだよ~、パンに肉と野菜を挟んであるよ!」

どうやらサンドウィッチの様だ。

そうかこの世界にはそういう呼び方がないのか……。

「美味しくいただくよ!」

僕は包みを、鞄にしまい。学校へと歩き出す。


朝の眩しい日差しと温かな風が吹く。

季節は、春。日本なら入学シーズン。

ひとつ、寂しいのは桜の木がないことぐらい。

「良い天気だ。空気が気持ちい。」

僕は、背伸びをしながら歩く。

まだ人の流れが穏やかな時間帯だ。

まばらに歩く人たちに挨拶をする。

「おはようございます!」

「あぁ、おはようさん。」

階段に腰を降ろしているおじいさん。

「おはようございます!」

筋肉隆々な腰に剣を携えた男に挨拶をする。

「おおっ、坊主元気がいいな!おはよう!」

そして通り過ぎる。

挨拶は気持ちい。

今までこんなに目を見て会話ができただろうか?

転生前ならありえなかっただろう。

そう思いながらスキップしながら道を行く。

「あっ、クリス!」

手を振る少女。しっぽと耳を揺らしながらこっちにやってくる。

「おはよう!ナナ。」

昨日出会った。獣人族の少女ナナ。

警戒心が強かったが肉パワーで懐柔した。

「この近くの宿屋に泊ってたんだね。」

「そうだよ!でも、今日試験に通ったら明日からは寮生活だ~」

まるで、受かるのが当然という感じだ。

ナナは自信満々に言う。

「すごい自信だね?」

「へへっ、力だけは他のやつらには負けないぞ!」

嬉しそうに耳を動かしながら言う。

つい、その柔らかそうな耳に触れたくなって手を伸ばす。

「ひゃぃ!なっなにするだ~」

「あっごめん。つい」

顔を真っ赤にするナナ。

「ついってなんだ~~~!」

顔を殴られる。思ったより力が強い。

僕は殴られる方向に力を受け流した。

とりあえず痛がる振りをする。

「いてててっ、ごめんて……ほらこれあげるから許して」

さっきもらった包みを鞄から取り出しナナに渡す。

「くんくん、いい匂い。お肉だ~」

お肉に釣られ機嫌を直す。

「食べていいよ~」

僕は、笑顔で答える。

「いいのか~!わーい、さすがクリス!」

包みを広げ、肉と野菜をサンドしたパンに頬張りつく。

「うまいッ、うまうまだ~」

ガツガツと美味しそうに食べる。

「さぁ、あんまり行儀よくないから食べたら行こう。」

僕は歩みをとめ、食べ終わるのを待つ。

「こんなのペロッと平らげるぞ!」

まだ半分もあるのを、大きな口を開き一口で食べる。

「おぉ、すごい。さすがナナ。」

さすが獣人族だ。大きな口は人と違い可動域が大きい。

そしてなによりも、歯が違う。人で言う所の犬歯は鋭く

尖っている。ほかの歯も人と違い鋭さがある。

例えるなら、犬の歯に近い。

「へへっごちそうさまなのだ。」

満足そうに、ナナは言う。

「じゃあ行こうか。」

僕たちは再び歩き出す。


騎士見習い幼等学校。新設されたばかりの学び舎だ。

建物は、まだ新しくとても立派だ。

入口の門の前は、少年少女達で溢れかえっている。

門の前には、見た事のある青年がいる。

「あっ、クリス様じゃないですか?」

昨日、街の入り口を警備していた若き門兵テルだ。

兄の部下でもある。ここで何をしているのだろう?


「テルさん。おはようございます。何故ここに?」

「何って、警備と受付ですよ。」

なるほど、中央騎士団はこういう仕事もしているのか

「そうなんだ。ということは―――。」

「あっマルス様でしたら今日試験官の一人でご参加されますよ。」

兄が試験官で参加する事に僕は驚いた。

「じゃあ後で嫌でも会えるね。ありがとう。」

テルさんから受付用紙を手渡される。

僕は受付の用紙に名前を書く、ナナも終わったようだ。

「じゃあ、僕たちは行くね。テルさん頑張って!」

「ありがとうございます!クリス様も試験頑張ってください!」

テルさんは笑顔で手を振る。


門をくぐり、中央に広がる広場には沢山の受験生達がいた。

緊張している者。

堂々としている者。

眠そうに瞼を擦っている者。

様々な種族がいる。

中央に集めらた受験生の数はざっと数百人はいるだろう。

広場の真ん中には一人の腰を曲げたひ弱そうな老人。

老人は受験生たちに向けて声を発する。

「皆の者、わしがこの学校の校長をつとめる。ギル・ヴァレンシュタインじゃ。」

皆が騒めき始める。

ヴァレンシュタイン家は公爵家。貴族の中でも上位貴族。

代々国の政に深く携わる家柄だ。

「ほっほっほっ、家督はとっくの昔に息子に譲っておる引退した身じゃ。」

さらに騒めく受験生達。

「あの弱そうなじいさんが?」

「しっ静かにしろ首が飛ぶぞ!」

色々な声が飛び交う。

「ほっほっ、まぁ。実力は見せて分からせればよいか……。」

数人がかりで、何かを運ばせ自身の目の前に置かせる。

「まぁ、見ての通りこれはミスリル鉱石の原石じゃ。」

ミスリル鉱石は、とても頑丈な鉱石だ。

何日も掛けて鍛冶師が剣や防具に加工する。

剣でも砕けない頑丈さを誇る鉱石だ。

老人は、腰に携えた剣を抜く―――。

そして目にもとまらぬ速さで一直線に剣撃を放つ

放たれた剣撃。

それは凄まじいものだった。

腰に携えた鞘に剣を収める老人。

ミスリル鉱石は、縦に真っ二つに割れた。

「まぁ、こんなもんだろう。」

老人がそう呟く。

広場にどよめきが起こる。

「すげぇ、なんだあのじいさん。」

「うっうそだろ、剣でミスリルを斬った?」

「ありえない……。」

驚きに満ちた声で広場は、騒めく

「受験生の皆達よ。己の才を見せよ。出自は問わん。実力が全てじゃ」

最後に話は以上と短く言い。老人はその場を後にする。


その後、試験監督が現れそれぞれ名前を呼ばれ受験会場へと向かう。

僕は、15番の札を渡される。

ナナは26番。

一次受験は10人づつで行われるらしい。

1~10で1グループという感じでグループ分けをされた。

「ナナ、会場は違うみたいだけど二次試験で会おう。」

「余裕だ、クリス。」


僕たちはそれぞれ案内された会場へと向かう。








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