第25話 カール・クリス8歳③ 新しい出会い。

門を抜けた先には、沢山の人々がおり賑わっている。

屋台が複数出店されていて、肉の焼ける香ばしい香り。

そして、甘味処もあるのか甘い香りもする。

「お腹すいたなぁ~。」


「何か、買ってきます。」

ラビはそう言い、馬車から降り屋台へと走る。

人族だけではなく、様々な種族がいる。

エルフ、ドワーフ、獣人族。

特に、目を引いたのは一人の獣人族の少女だ。

ウサギの様な耳をピーンと立てて、屋台で肉に噛り付いている。

褐色の肌に、綺麗な宝石のような緑色の目。

独特な、衣装を身に纏っている。

お尻には短いふわふわとした尻尾。


「あれは、逸材だな……。」

強い、マナを感じる少女に向けて鑑定眼を発動する。

(鑑定―――。)


――――――――――――――――――――

名前:ナナ 獣人族。 年齢9歳。レベル:5


貧しい村の父と母、兄弟達を助けるために

騎士になるために王都へ来た。


タレント:跳躍、回避

スキル:筋力上昇『中』、素早さ上昇『上』


――――――――――――――――――――


歳の割には、発育が良いのは獣人族だからか?

見た目は、とても9歳児には見えない。

中高生ぐらいの体格だ。


ラビが、串に刺さった肉を持って帰って来る。

「クリス様、お待たせしました。」


「あぁ、ありがとう。」

僕はそれを受け取り頬張る。

肉の油の甘みと、醤油にも似たタレが絶妙にマッチしている。

肉の味は、豚肉に似ている。

「これは?オーク肉かな?」

「えぇ、そうです。王都名物だそうです。」

この世界では、魔物の肉は一般的に食されている。

オークは豚に似た二足歩行の魔物だ。

何度も食したが、味は豚そのものだ。

僕は、小腹も満たされたのであの少女に声を掛ける事にする。

「ラビ、僕は歩いていくから先に宿へ荷物を運び込んでおいてくれ」

「畏まりました―――。」

ラビは、馬車を走らせ宿へと向かう。


幼等学校は、基本寮生活だ。

だが、女性の従者を連れて入寮となると問題がある。

なので、学校から近い所にある宿をまるまる借りた。

貯蓄が役に立ったな……。

父には、ラビが魔物討伐で稼いだお金と嘘を言った。

実際は、『ジャガー事件』の報酬で得た有り余る金だ。


僕は、屋台で美味しそうに肉を頬張る少女に声を掛ける。


「ねぇ、君?」

少女は肉を食べながら、こちらに気づいたが

なおも、肉に無我夢中で噛り付く

「お肉美味しいよね?」

再び声を掛けるが、無視である。

僕は、彼女の居る席の真正面に椅子を持ってきて

腰を降ろす。

「そっかぁ……おじさん!こっちにそれくれない?」

僕は屋台のおじさんに声を掛ける。

特大の肉を指さして―――。

「おっ坊主?これ高いぞ?」

「いいよ、お金ならあるから―――。」

僕は、腰に下げた巾着袋から金貨を一枚取り出し

屋台のおじさんに手渡す。

「はっはえぇ!ぼっぼちゃま、こんなには頂けやせん。」

急に言葉遣いが変わる。

それもそうだ。金貨一枚はそれほどのがある。

「いやこれからも贔屓にするから、お釣りはいらないよ。」

「ははっ、そうですかい。では一番高いやつを用意いたしやす!」


そう言うと、屋台のおじさんは奥へと引っ込む。

暫くして、出てきたのは綺麗に油の乗った特大のステーキ。

それを僕が座る場所へと持ってくる。

「ドラゴンステーキです、へへっ、この王都で一番高いですぜ!」

焼けたソースの香ばしい香り、焼き立ての肉からは油が溢れ出し

絶妙な焼き加減のドラゴンステーキが目の前に現れた。


「素晴らしい!とても美味しそうだ。」

用意されたナイフとフォークを使い肉を切る。

分厚い肉は、いとも簡単に切れる。

肉は厚いが肉質は柔らかい。

それを涎を垂らしながら獣耳の少女が羨ましそうに見つめる。


「どうしたの?欲しいの?」

僕は、もの欲しそうにこちらを見つめる彼女に言う。

「旨そうな肉……、肉……。」

彼女は口からだらだらと涎を垂らしながら言う。

仕方がないので、小皿を用意させてそれに一切れ乗せて

少女に差し出してみる。

「えっ?いいのか?」

耳をピーンと立てて、喜ぶ少女。

「どうぞ、どうぞ、こんなには一人では食べきれない。」

目の前に差し出された、ドラゴンステーキを手づかみで口にする少女。


「うっうっ……」

悶え始める―――。

「うめぇえぇえぇ―――――!」

そして、歓喜の声をあげる。

僕は小皿にもう一切れ取り分ける。

「いっいいのか!」

「どうぞ、どうぞ」

また、ひょいと手で掴み口にいれる少女。

「所で、君?名前は?」

鑑定で分かってはいるが、名を尋ねる。

「おいらか?おいらはナナ!!」

肉を食べれて幸せ一杯なのか、満面の笑みだ。

「そうか、ナナ。僕の奢りで肉を食べたね?」

「うっ……しまった……。」

急に気まずそうな顔になる。

「ははっ、冗談だよ。ねぇ、ナナ君も騎士になりたいんだろう?」

「そっそうだ!おらは、騎士にならないといけないんだ!」

冗談だと分かり、ほっとした表情で言う。

「じゃあ、僕と友達になってくれないかな?僕も騎士になるんだ。」


「友達?いいぞ、友達!お前名前は何て言うんだ?」

「僕は、クリス。カール・クリスだ。よろしく。」

そう言って僕は彼女に握手を求める。

肉の油でべとついた手で握り返してくれた。

「ナナ!クリスと友達!」

ナナは、嬉しそうな表情だ。

その後、僕はナナと談笑をしてその場を立ち去った。


宿泊する宿へと向かう。

明日は、試験だ―――。

僕の実力なら余裕で受かるだろう。

だが、僕はナナも受からせたい、そう思っていた。


あの子は、確実に強くなる―――。

そして、僕の力になってくれることだろう。

ラビは、あくまで従者だ。

学校生活では、僕に味方してくれる人が必要だ。

僕は、そんなことを考えながら宿を目指した。









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