第20話 お家騒動⑤ 計画実行

 三日が経ち、計画を実行する時が来た。


 マッスル兄さん改心計画の全貌をここで明かそう。


 この数日で兄の動向を掴んだ。


 残りの三日で、屋敷にいる使用人たちの行動の把握。


 問題であった母と妹は、ラビ発案のお買い物大作戦を

 採用した。

 そのまま、夜は町で食事をとってもらうように手配をする。

 護衛を誰かつけなければならない。

 そこで庭師のトニーおじさんだ。

 元冒険者のトニーおじさんほどうってつけの人材はいない。

 これで、マルス兄さんからトニーおじさんを引きはがせる。


 僕の快気祝いの品を、選びに妹と母は午後から出かける運びとなった。

 母と妹は午前中、何を食べたいのかやら欲しいものはないか

 今、僕の部屋に尋ねてきている。


 次に使用人達だ。


 昨日から歩けるまでに回復した事になっている僕は、ラビに付き添って

 もらいながら使用人たちに挨拶しにいく。


 町で行われる復興コンサートチケットこれを使う事にする。

 コンサートは、町の中央広場で夕方行われる。


 食事の準備をしてもらった後は、ラビだけを屋敷に残し

 後の使用人達には、観賞しに行ってもらう。


 これで、夕暮れ時の屋敷にはラビと僕、父とマルス兄さん。

 そして最後にデント兄さんを残すのみとなる。


 (デント兄さんは、頼んだよ……ラビ)


(お任せください。なるべく長引かせます)


「にぃに痛い?」


 足をつついてくる妹マリア。


「いたくな~いよ」


「えい、えい!にぃにこれも痛くな~い」

 さっきより強い力でつついてくる。


「いたくな~いよ」

 地味に痛かった。


「こらこら、マリア。クリスを困らせないの!」

 母がマリアを僕から引きはがし抱きかかえる。


「あ~やだぁ~まだ、にぃにと遊ぶ!」

 足をジタバタさせながら抵抗する妹。


「ほら~、こっちでクッキー食べましょ。」

 お菓子で興味をそそる母。


「クッキ~!クッキ~!たべる~!」

 妹はまんまと釣られ、テーブルに並べてあるクッキーを美味しそうに頬張る。


「それで、クリス?あなた何か欲しいものはあるの?」

 母が聞いてくる。


「うーん、そうだなぁ。母上、僕は新しい剣が欲しいです。」

 僕は無能者ノーレストだ。

 マナを操る事ができない事になっている。

 なので、必死に剣の腕を磨き、騎士を目指している。

 そういう風に母には思われいる。

「あぁ、そうね。あなたも来年からは騎士見習い幼等学校にいくものね。」


 騎士見習い幼等学校とは新設されたばかりの新しい教育機関だ。

 平民も貴族も関係なく、実力を示せば入学する事ができる。

 マルス兄さんの様な逸材が現れるかもしれないという事もあり

 クリオネア王国内に新設された。


「だから木剣ではなくて真剣が欲しいのです。」


「そうよね~私は剣の事が分からないからトニーに聞くわ。」



 母と妹は僕としばし歓談をしたあと部屋を去った。



 ◇


 午後になり、母と妹。護衛のトニーおじさんは家を出た。

 使用人たちも久しぶりの外への外出ということで

 はりきって仕事に精をだした結果。

 思った以上に早く仕事が片付き。

 ラビに後を託して、家を出て町へと向かった。



 これで、準備は整った―――。



(それでは、私はデント様のお相手をしてまいります。)


(食事時には、戻るように頼むよ)


(はい、わかっております)


 ラビを、デント兄さんの元へと送った。


「さて、久しぶりの変化チェンジだ……。」


 僕は目を閉じる―――。


 身体に蓄積されたマナ。


 マナは十分だ―――。


 過去の自分をイメージする―――。


 小さな身体と大きな身体。


 一つになるようにさらに集中してイメージを膨らませる。


 重なり合う、―――。


変化チェンジする―――)


 青白いマナの光が身体から溢れ出し、人の形を形成する。


 光はさらに強さを増し、二つの自分が一つになる。


 僕は目を開く―――。


 視界は良好。


 見える景色は一段と高くなった。


「ふむ、どれどれ―――。」


 自室の姿見で状態チェック。


 鏡には生まれたままの姿のやせ細った懐かしき姿。

 目の下には隈、頬はこけて今にも死にそうな猫背の男。


 そう、僕である―――。


 この姿のままでは、まだジャガー化ではない。


(筋力超上昇……筋力さらに超上昇!)


 メキメキと音を立て、肉付きの良い身体になっていく―――


 曲がった背筋は、みるみると正される。


 顔色は、血行が良くなりどんどん生き生きとしていく―――


 目の下の隈は消え、健康そうな男の顔へと変貌する。


(筋力超上昇……唸れ筋肉)


 さらに、バフをかけ筋肉を膨張させる。


 痛みはなく、肉付きの良い身体は更に一回り大きくなる。


『ジャガー』の出来上がりだ。


「うむ、仕上がっている……。」

 俺は、鏡を覗き込みながら裸の身体をくまなくチェックする。


「良い、筋肉だ……。美しささえ感じる。」

 裸のままポージングをし筋肉の仕上がり具合を確かめる。


「さて、まずは父上に会いに行かなければならないな……。」


 俺は部屋を出る――――。


(クリス様!服を着てください!)


 念話で、ラビが慌てながら言う。


(うむ、また駄々洩れておったか……)


 スキルの複数使用は負荷が高すぎるため、遮断を行っていなかった。

 なので、心の声が全てラビに筒抜けでだった。


(ふふっ、助かったぞラビ……)

 俺は、部屋に舞い戻り衣服に袖を通す。

 最後にマントを羽織。再び自室を出た。


「では、父に会いに行くとしよう!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る