第18話 お家騒動③ マルス筋肉に目覚める。

 町に現れたドラゴン、逃げ惑う人々。


 焼け崩れる建物。


 建物の下敷きなり、息絶える人。


 人々の助けを求める声が頭にこびりついて離れない。


「はぁ、はぁ……何故だ……。」


 目が覚める、辺りはまだ暗い。


 悪夢に苛まれる。


 救えなかった命、役に立たない剣。


「僕は、何のために騎士になった……。」


 ドラゴンと対峙して慢心していた僕は、父の制止も聞かず


 一人突っ込みそして、無様に負けた。


 振るう剣は硬い鱗に弾かれる。


 何度も何度も、振るい続ける―――


 それでも、傷一つつかない。


 死を覚悟し諦めていたその時だった。


 僕は、ジャガーという男に命を救われた。


 部屋に引きこもり二日が経った。


 毎日、同じ夢の繰り返し……。

 僕は自問自答を続けていた。


「どうすれば良かったというのだ……。」

 頭を抱え悩む。悩み続ける。


 ふと、頭に声が聞こえる。


(筋肉だ―――。)


 あの男の言葉だ。


「筋肉……。」


 僕は自室の姿見の前で服を脱ぐ。

 露わになった自身の身体を見て、あの男と重ねる。


 筋肉隆々のジャガーと名乗る男。


(筋肉だ―――。)


 また、あの男の声が聞こえる。

 自分の身体は、細身だが筋肉はついている。

 だが、あの男と比べたら身体が二回りも小さい。


(筋肉だ―――。)


 再びあの男が語り掛けてくる。

 力強い蹴りは剣では歯が立たなかったドラゴンの頭に食い込んだ。

 僕はそれを見ていた。


(そして、拳だ―――。)


 彼が語り掛けてくる。

 僕の隣で優しく、悟らせるように……。


 僕は、父に抱えられながら去り際に彼を見ていた。

 力強い拳、ドラゴンの腹を拳で何度も何度も殴る

 それは、剣では決して出来なかった。


 あの神々しささえ、感じさせる筋肉。

 そして、力強い拳。


 嗚呼、やっと理解した―――。


 筋肉の神髄を教えてもらおう―――彼に


 まずは、そのためには自身を鍛えなければ―――。


 僕……違う、俺はそう心に決めた―――。


 俺は、彼になりたい。


 弱い自分を捨て、彼のようになるのだ。


 誰かを守れる強い力―――そう、筋肉だ。


 俺は、部屋の服の中から黒の衣服を数着取り出す。


 それを切り離し、また縫い合わせ


 黒いマントと、黒の衣装を作った。


 そう、形から入るためだ。


 気が付けば、辺りが明るくなっている。


「これで彼に一歩近づける。」


 俺は、作成した衣服を身に纏い。


 マントを羽織った。


 彼を師と崇め、彼のような尊大さを持つのだ。


「では、行こう……覚悟は完了した。」


 自室の鍵を開け、父の元へ向かう。




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