第16話 お家騒動① 父の苦悩。
今、カール伯爵家は家督を受け継ぐ兄。
長兄カール・マルスの乱心により
危機的状況になっている。
現当主、ダルスは頭を抱えていた。
「はぁあ、このままでは社交会で笑いものだ……。」
大きなため息をつく。
長兄マルスは、治める町で起きたドラゴン事件で
ジャガーと言う男に心酔してからというもの
勤勉で真面目な優しい青年から
粗暴な熱血漢へと変貌を遂げてしまった。
「このままでは、カール家は終わりだ……。」
私は、マルスにかなりの期待をしていた。
国の剣術大会で優勝、剣の神童と言われ勇者の再来とも言われる逸材。
既に、騎士爵から男爵位という出世まで果たし
家督を継ぐ前から、上級貴族達からも期待されており
私も鼻が高かった。
家督は、マルスにと心に決めていた。
そんな矢先にこれだ……。
「なぜこんなことに……。」
それもこれも、あの『ジャガー』と言う男だ。
魔法も剣すらも通さぬ、ドラゴンの硬い鱗を拳一つで突き破り
挙句の果てには頭を拳で吹き飛ばすなど規格外な男だ。
町に何故、突如ドラゴンが現れたのか調査はしているが
今はそれどころではなくなってしまった。
町の復興作業、建物や人の被害も甚大ではなく
私は、雑務に追われながらマルスの事で頭を痛めていた。
「はぁ、このままではカール家は私の代で終わりだ……。」
次男のデントは、素行に問題がありすぎる。
三男のクリスは可愛いが、残念な事に無能だ。
数日前、マルスと初めて大喧嘩をした。
私の言うことに、今まで一度も反論しなかったあのマルスとだ。
マルスが、閉じこもっていた部屋から出てきた日。
私の部屋を訪ねてきた。
「父よ―――!話がある!」
耳が痛くなるほど大きな声ででいきなり部屋に押しかけてきた。
黒い服に、黒いマントという何とも似合わぬ格好であった。
「なっ、なんだ。こんな真夜中に!」
「俺は、家督を継ぐことをやめるッ!」
「なっ!なっんだと!?いきなり何を言い出すのだ!」
「俺は、気が付いたのだ……己の未熟さを……。」
遠い目をしながら語り始める我が息子。
おもむろに、懐から騎士の白い制服を取り出し
私の目の前に晒す。
「これは、強い意思表示だ。父よ!!!」
騎士の制服を私の目の前でビリビリと破り捨てる。
コロコロと授与された勲章が床へ転がる。
「血迷ったか!マルス!」
「父よ、俺は至って冷静だ……。」
そして、騎士の服を踏みつけ続けてマルスは言う。
「俺は、この拳を極めるのだ!!!」
天に右の拳を突き上げ、中指を立てるマルス。
その出で立ち、振る舞い方。
見覚えがあった……。
「まっまさか……。ジャガーか?」
そう、あの男だ。あの規格外の男だ。
「そうだ!父よ、ジャガー様だ!!!」
マルスは、取りつかれたようにあの男の素晴らしさを語り始める。
「剣や魔法などというモノなどに頼っていたから駄目なのだ!」
「この世を生き残るために必要なのは拳!」
「俺は弱い……未熟……そして、怠慢だ。」
「己を、鍛え。鋼の精神を手に入れる―――。」
「そう……筋肉だ……。筋肉が全てなのだ!」
あのおっとりとした口調でいつも喋っていたマルス。
その面影はなく、言葉遣いは乱暴。
早口で捲し立てるように喋り続ける。
「というわけだ―――父よ。俺は冒険者になる。」
「はっ?はえ?」
私は訳が分からず混乱して言葉に詰まる。
「うむ、なので家督はデントかクリスに継がせるがよい。」
そう言い残して、私の部屋を嵐のように去っていた。
無残に足元に残る破り捨てられた騎士の制服―――。
私は、腰が抜けその場にへたり込む。
「ジャ……ジャガーァあぁぁぁぁああああ――!」
あの男の名を叫ぶ―――。
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