第14話 カール・クリス 7歳 ④ マッスル兄さん。
マルス兄さんがマッスル兄さんになった。
優しく、いつも僕を助けてくれたマルス兄さん。
今は、見る影もない。
目覚めてから父親にはかなり絞られた。
「なぜ!あんなところにいたのだ!」
親心から小一時間説教をされた。
僕は、力になりたかったとただ言い訳をする事しかできなかった。
◇
あれから、五日が経ち大分身体も自由に動かせるようになった。
(
スキルを強化して、前よりも便利になった知覚する糸。
今、マナの糸を屋敷中に張り巡らせマルス兄さんの動向を探っている。
強化したおかげで、大気中のマナを吸収する事ができるようになった。
この五日間で大分、マナが貯蓄できた。
あと三日もあれば、計画を実行できそうだ。
僕の立てたプランはこうだ。
①『ジャガーに変化』《チェンジ》する。
②まずは、父に会う。
③その後、兄を説得する。
それには、一つ障害がある。
寝たきりの僕は、母や父、そして妹や使用人に常に心配されている。
いつ、世話をしにきたり、お見舞いに来るか分からない。
ラビには、
伝えているが限界があるだろう。特に妹のマリアは厄介だ。
兄に会えないとなると部屋の扉の前でぎゃん泣きして大騒ぎに
なるに違いない。
僕の身体は、一つしかないのだ……。
こればかりは何とか乗り切るしかない。
なので、入念に兄の動向を探っている。
兄の動きはパターン化していた。
ほぼ毎日同じ時間に起きている。
「
と雄たけびをあげ目覚めるため起床時間は把握しやすかった。
早朝、朝早くから兄のルーティンは始まる。
外で走り込み、訓練グラウンドで腹筋や腕立てスクワットを何セットも行う。
本人曰く、これで準備運動だそうだ。
その後、使用人が使う食堂へ向かい。
使用人たちと食事をとる。
理由は、『冒険者たるものは質素であれ!』という兄なりの考えの
ようだ。
貴族の食事は確かに豪華だ。
しかも、兄は狩った鳥系の魔物を持参して調理している。。
質の良い筋肉を作るためと言い。
自ら捌き、使用人たちに振舞っている。
不思議と使用人たちからの受けは良く。
言葉遣いや身なりは変わり果てたが、使用人たちからは好評のようだ。
庭師のトニーおじさんも怪我をして引退するまでは、
名の通った武闘派冒険者だったらしく。
剣術ではなく拳術をトニーおじさんから学んでいる。
午後からは、手の空いたトニーおじさんと組手をしている。
庭の訓練グランドからは、兄の雄たけびが聞こえる。
「ジャガァァァアー!トルネードキィィィック!!!」
部屋の窓から様子を覗いてみると、そこには太い丸太を相手に
何度も蹴りや、殴打を続ける兄の姿があった。
上半身は裸である。今はまだ暦で言う所の二月。
真冬だ。
トニーおじさんも、兄に感化されたのか上半身裸でその様子を
腕組しながら見ている。
トニーおじさんも中々に仕上がっている。
「いいぞ!そこだ!背中に鬼が宿ってる!」
筋肉を褒める掛け声を兄に掛けるトニーおじさん。
そこには、二人のマッスルがいた。
お互いに筋肉を褒めあっているようだ。
兄は、しとしきり丸太相手に稽古をした後。
右の拳を天に掲げ中指を一本立てる。
あっ―――あれ『ジャガー』の時にしたやつだ。
実際に、人がしているのを見るとなんと中二病くさいポーズなのだろう。
はっ恥ずかしい。穴があったら入りたい。
この後も、兄は一人になる事はなく
次に、魔法学校から帰省しているデント兄さんを呼び出す。
訓練グラウンドで、デント兄さんは兄に付き合わされていた。
「まっ……マルス兄さん。寒いのだが……何をするんだ……。」
デント兄さんはぶるぶると震えながら顔色も悪い。
ローブを深々と被り、寒さに耐えている。
「デントよ、俺は冒険者になる!」
「あぁ、聞いてるよ……兄さん頼むから考え直してくれ……。」
デント兄さんにしてはまともな事を言う。
「すまない……それは師が許さないのだ。」
(いやいや、そんな事言ってないよッ)
僕は激しく動揺していた。
「あぁ、そうかい……師がなんとかは分からないけど部屋に戻っていい?」
デント兄さんは寒さに耐えられないのだろう。
「いや……待て―――。」
マルス兄さんが部屋に戻ろうとするデント兄さんの肩をガシッと掴む。
「デントお前は、身体が貧弱すぎる―――それでは伯爵家は継げないぞ?」
ぴくぴくと大胸筋を動かしながら、マッスル兄さんが言う。
「はっ?この寒さだぞ?マルス兄さんいい加減にしてくれ、部屋に戻らしてくれ!!毎日毎日、ジャガージャガーって頭がおかしくなったんじゃねぇのか!?」
肩を掴まれて身動きがとれないのか、デント兄さんは足をじたばたさせている。
「聞き捨てならん―――。」
あの優しかったマルス兄さんの顔は、怒りで鬼の形相になっていた。
「ちょっ、ちょっと―――マルス兄さん??」
僕も見たことない、兄の表情だ。デント兄さんは、たじたじだ。
「デントよ……俺を馬鹿にするのは良い―――。」
マルス兄さんは、片腕でデント兄さんを持ち上げる。
「ちょっ……マルス兄さん―――!」
空に浮いたデント兄さん。
あしをばたつかせながら必死に逃げようとしている。
「だがっ!師を侮辱することだけは断じて許さんッ!!!」
そのまま、持ち上げた腕を振り下ろし地面へと叩きつける。
「がはっ!?」
デント兄さんは、地面に叩きつけられ痛みに悶えている。
「トニーおじさん!ポーションを持ってきてくれ!」
「はい!ただいまッ!」
トニーおじさんは、腰に携えている鞄からポーションを取り出し
マルス兄さんへと渡す。
「飲めッ!」
それを強引に、デント兄さんの口に入れる。
「ごほっ、ごほっ……。」
逆らう気力もなくなったのか……。
咳き込みながらデント兄さんはポーションを飲んでいる。
「俺が、今からお前を鍛えなおしてやる。その腐った性根もなッ!」
マルス兄さんは、デント兄さんのローブをはぎ取り。服を破り捨てた。
「ふんっ、軟弱な身体だ……魔法なんて軟弱なものに頼りすぎなのだ―――。」
色白の、細身の上半身が露わになる。
「……まっマルス兄さん。おっ俺が悪かったから……。」
デント兄さんは、泣きじゃくりながら謝る。
「デントよ。これからみっちりジャガー様の素晴らしさをお前に教えてやる。」
倒れたデント兄さんの肩に手を置き。
白い歯をむき出しにして万年の笑みを浮かべるマッスル兄さん。
―――えらい事になってしまった。
助けてやりたいのは山々だった―――。
だが、因果応報という言葉がある。
日頃の行いも悪かったデント兄さんだ。
これで少しは良くなるかもしれない。
僕は、しばらく様子を見ることにした。
――――――――――――――――――
・ポーション
肉体の組織を回復させる薬。
スライムの粘着液と薬草を混ぜて生成する魔法具。
非常に安価で取引されている。
飲むと体が元気になる。
・仕上がってるね
筋肉が美しく出来上がってる様子を表す言葉。
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