第13話 カール・クリス 7歳 ③ 新たな試練!

 ドラゴンを退治して、ひと月が経った。

 僕は、ベッドで寝込んでいた。


 そう、あの変化チェンジの後遺症的だ。

 ドラゴンの血だまりの中、救助活動をしていた父に助けられ。

 僕は、意識がないままひと月の間、眠り続けていたようだ。


 医者の話では、生死をさまよっている状態。


 意識が回復して、初めて目にしたのはラビだった。

 長い間、看病し続けていたんだろう。

 目を真っ赤に腫らし、目の下に隈がで  

 きたラビがずっと手を握っていた。

 僕の意識が戻ったのが分かると、彼女 

 は大泣きしながら抱きついてきた。


 ある意味、試練だな。一歩間違えたら

 再び死んでいたという事だ。

 身体に貯蓄されていたマナはほとんどなくなってしまった。

 無理もない。

 だ。

 相当負担が掛ったのだろう。

 また、1歳児の時のようなベットから動けない生活。


 身体は回復してきている。

 だが、まだ寝返りをうつことすらできない。


「ラビ、すまないけどリンゴが食べたい。」


「はい、クリス様!」

 ラビは嬉しそうに、立ち上がりリンゴを取りに行く。

 机の上のリンゴ手に取り小刀で皮むきを始める。

 あらよあらよという間に、綺麗にリンゴの皮がむけた。

 それを、切り分けフォークに刺し、僕  の口元へと持ってくる。


「はい、クリス様。あ~んです。」


「うん、ありがとう……。」

 口を開きリンゴを頬張る。

 ほんのり甘くてシャキシャキしてて


「おいしぃ~!」

 頭に糖が回る力が湧いた。


 ラビから、一通りの眠り続けていた間の話を聞けた。

 父は町を救った英雄ジャガーを探している。

 マルス兄さんはというと、人が変わったように剣術の稽古をやめ。

 

 ひたすら毎日、ハードな筋トレをしているらしい。

 一人称も僕から俺に変わっていて周囲を戸惑わせている。

 近況報告は以上だ。


「そっか、ちょっと兄さんに会いたいな。」

 人が変わったとはどれほどのものなのか気になったため

 ラビに頼んで、マルス兄さんを呼んできてもらう事にした。

 

 しばらくすると、扉を勢いよく開けて  

 

 マルス兄さんが現れた。


「弟よ!意識が戻ったかッ!!!」


 声がでかい。そしてなにより兄の姿はを彷彿させる。

 以前の兄は、騎士団の白い制服を身に纏っていた。

 今の兄は全身黒の服に黒いマントを羽織っている。


 まんまジャガーだ―――


「マっ……マルスにぃさん???」


「うむっ、なんだ弟よ。」

 あの優しそうな兄が、人が変わったように尊大な喋り方になっている。


「なっなにがあったの?」


「はははっ、何があったと聞くか!俺は師を得たのだ!」


「師を得たって……どっどういう事かな?」


 嫌な予感がする―――


「ジャガー様だ!ジャガー様は偉大なお方だ。」


「俺に筋肉の素晴らしさを教えてくれた。」

 目をキラキラと輝かせ、ジャガーの偉大さ、そして筋肉の素晴らしさを語る。

 兄は、マントを取りいきなり上着を脱ぎ始めた。


「マルスにぃさん?なッ何を!」


「みよ!弟よ!この美しい上腕二頭筋を!」

 上半身を裸の兄が目の前で白い歯をむき出しにして筋肉を見せつける。


 服を着ていたから分からなかった。

 元々細身だが筋肉質な身体だったはずの兄。

 それがボディビルダーのような筋肉質な身体に変容していた。

 このひと月で何が彼をそうさせたのだろ。


「すっすごい仕上がってるね、筋肉……。」

 ぴくぴくと躍動する筋肉を披露し、何度もポージングをかえる。


「そうだ!弟よ!筋肉だ!すべては筋肉が解決してくれる!ハハハハッ!」

 兄は脳筋になってしまった。


「そっそうだ、マルス兄さん。身体が自由になったら剣の稽古をつけてよ。」

 話題を変えないと永遠とジャガーの素晴らしさと筋肉の話になりそうだ。


「うん?剣?―――。」

 あの周りから剣の神童と言われていた兄の言葉とは思えない。


 しばらく、また筋肉の話を聞かされ続け兄は筋トレがあるからと言い。

 自分の都合で颯爽と去っていた。


 これではだ。


「ラビ……。」

「はい。」

「これは―――。」

 頭が混乱して言葉が続かない。

「はい、カール家の一大事でございます。」

 更に、詳しくラビから話を聞く。

 マルス兄さんは、ドラゴンとの戦いで自分の剣が通じないことを知った。

 己の未熟さゆえ、町に甚大な被害を与えたと苦悩した結果。

 ドラゴンを素手で討伐した、ジャガーの話に救われたそうだ。


 その後、三日三晩部屋に引きこもり続けた兄。


 出てきたと思ったら今度は剣の稽古をやめると言い。


 一人称は俺になり、筋トレを始め。


 騎士の制服は、父の目の前で破り捨て俺はジャガー様のようになる!

 

 この拳を鍛えると言い出して、父を困らせているらしい。

 

 家督も未熟ゆえ、デントかクリスに継がせるがよいとまで言っている始末。


 なるほど、合点がいった。父がジャガーを探している理由が……。


 ジャガー本人に兄の暴走をとめて欲しいのだろう。


 今の兄が話を大人しく聞くのは間違いなく、尊敬しているジャガーだろうから


 まさか、僕の家でこんなお家騒動が起きるとは―――。


 試練はまだ続いているんじゃないか!?


―――――――――――――――

・マルス兄さん

クリスの兄。カール家の長男。

若干15歳という歳で騎士になった、若き天才剣士。

ジャガーの影響を強く受けてしまい。

今は、剣を捨てマッスル兄さんになってしまった。















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