第12話 カール・クリス 7歳 ② 男の名は……?

 数分も掛からず、町へと着いた。

 普通なら馬車で30分の距離だ。

 筋力超上昇のスキルは素晴らしい。

 町には火の手が上がっている。

 住人たちの悲鳴が、町の入り口からも分かるほど聞こえてくる。


「ふむ、一体何が起こっているのだ……。」

 辺りを見渡しても逃げ惑う人々ばかり。状況を知りたい。

 ちょうどいい所にこちらに走って逃げてきた男がいたので俺は

 そいつに聞いてみることにした。


「おい、男……。」

 逃げる男が声を掛けられ一瞬立ち止まるが、また走り出した。

 俺は男の襟首を掴む。


「ぐへっ……いっいきなり何をするんですか!!」

 苦しそうに答える男。

「急いでいる所すまないが、何があったか教えてくれないか?」

「どっドラゴンですよ!!町にドラゴンが現れたんです!」

 ドラゴン……幻竜種と言われ人里には滅多に姿を現さないと

 本では読んだのだが……。


?」


「ええ、そりゃあドラゴンですからでかいですよ……。」


「そうか……。」

 俺は、男を解放してやった。

「すまない。情報ありがとう。引き留めてすまなかった。」

「はっはぁ、それでは失礼します……。」

 男はそう言って走り去った。


「でかいドラゴンか……。楽しみだ……。」

 俺は、変化して思った。筋力超上昇の効果のせいもあるのだろうが

 頭が脳筋化しているようだ。まともな思考ができない。


「なるほど、この身体も万能ではないようだ。」

 俺は、ドラゴンに会いたくなって走り出した。

 逃げ惑う人の波を掻き分け、火の手が一番盛っている所を目指す。


(町の中央広場にいそうだ……。)

 野生の勘がそう言っている。


 人ごみを走り抜けるのがめんどくさい。

 めんどくさいので跳躍して建物の屋根に乗る。

 飛び乗った屋根の上で少し考える。

(ここから跳躍した方が早い……。)

(筋力超上昇!)

 さらにバフを掛ける。メキメキと足に力が漲る。


「よし、飛べる――。」


 力いっぱい、屋根を蹴り跳躍する。


「おっいるじゃねぇか―――」

 かなり跳躍できた、屋根が小さく見える。

 何十メートルかは飛べた。

 町の中央広場に緑色のでかいトカゲがいる。

 あれが、ドラゴンのようだ。

 父と兄も、いるな……。苦戦しているな。


「今、助けに行く!!!トゥ―――!」

 マナを軽く操作する。

 空気の波を作り出し、自分の身体に当てる。

 風が身体を押し出して、ドラゴンのいる方へと加速する。


「ちょうどいい、一発かましてやるか―――!」

 えーと、かっこよく……かっこよく登場。


「ジャガァァァアー!トルネードキィィィック!!!」

 ドラゴンの頭、目がけて右足で蹴りをお見舞いする。

 メリメリと音をあげ、右足がドラゴンの頭に食い込む。


「ガァアアアァ――!!!」

 ドラゴンの悲痛な雄たけびが響き渡る。


 そのまま、くるくると回転しながら華麗に地面へと着地する。

 月面宙返りムーンサルト


「なっ!何者だ!!!」

 父が驚きの声をあげ問う。


 兄は、何が起こったのか分からないのか剣を握ったまま固まっていた。


 俺は二人を背に、右の拳を天に掲げ中指を一本立てる。

「俺かい?俺様の名前は『ジャガー』―――あんたらを助けに来た。」

 男は背中で語る生き物だ。


「ジャ……ジャガーさん、どっどうやってあのドラゴンの厚い鱗に剣ではなく蹴りでダメージを与えたのですか?」

 マルス兄さんが、驚きながらも声を出す。


「ん?あぁ、筋肉だ!」


「きっ筋肉!?!?あの剣ですら受け付けない鱗を破るには―――そうか筋肉……筋肉かぁ」

 マルス兄さんが遠い目をしながら、言う。

 あまりの衝撃だったのだろう。

 後半の言葉はしりすぼみ、独り言のようにぼそぼそと筋肉と呟いていた。


「あぁ、そうだ少年。筋肉が全てだ―――!そして、この拳だ!」

 硬く握りしめた拳をマルス兄さんにへと向ける。

 

 怯んでいたドラゴンが、グルルッと唸り声を上げ始める。

「おっと、おしゃべりは終わりだ。こいつの相手は任せてくれ!」


「どうやら……ジャガーさん貴方を頼るしかないようだ。」

 父は、兄を抱えている。どうやらドラゴンとの戦いで負傷したようだ。

 右足から血がだらだらと流れているのが見える。


「あぁ、町の人たちの救助活動を頼む、俺はこのでかいトカゲと軽く遊ぶからよ!」


「では、頼みます―――。」

 父はゆっくりと兄を抱えながら、去っていく


「ジャ……ジャガー様!ぜひ、ドラゴンを倒したら私に筋肉を教えて下さい!!!」

 兄がそう後ろで叫ぶ。


「いいだろう、時が来たらおしえてやろう筋肉の神髄を―――。」

(筋力超上昇!!!)

 さらに、バフを掛ける。大量のマナが失われているのが分かる。

「ふむ、この身体でいられる時間がさらに短くなった―――さぁ、始めるか!」


 ドラゴンが俺を鋭い眼光で睨みつけてくる。

「さぁ、来いよトカゲ野郎!」

 ドラゴンは右腕を振り上げた。

 

 鋭い爪が俺を襲う―――。

(見切り―――。)

 俺を襲う、爪がゆっくりと首筋目がけて

 それをギリギリの所で回避する。

 避けてできた隙を狙いスライディングして、ドラゴンの腹に滑り込む

「ボディががら空きだぜッ!!」

 右腕に力を込め、ドラゴンの腹部に拳を叩き込む。

 すぐさま右腕を引っ込ませ、次に左腕に力を入れる。

 追い込むように次は左腕で打撃を与える。

 同じ個所を的確に、右、左、右と何度も打撃を与える。

 ドラゴンは苦しそうな声を上げる。

 口からはだらだらと血が溢れている。

 ドラゴンは、翼を広げ羽ばたき後ろへと後退する。


「タフなトカゲだな。これでも倒れねぇか?」

 父たちもだいぶ遠くに見える。これなら本気を出しても問題なさそうだ。


「ギャォオオ―――!!!」

 凄まじい咆哮を上げる。

 大地がビリビリ揺れる―――


「まだ、元気そうだな―――だがこちらはもう時間が少ない。」

 この身体でいられる活動限界はそろそろのようだ。

 とどめをささせてもらおう。


 俺は右の拳にマナを集中させる―――

 深く息を吸い込む―――

 腹の底から熱を帯びたマナが拳に集まるのが分かる。

 ドラゴンが咆哮をあげながら、こちらに向かってくる。


 ―――。


 俺は目を閉じて感覚を研ぎ澄ます。

 確実に倒さなければいけない―――

 しんの鼓動が聞こえる。

 小さな鼓動と大きな鼓動。

 二つの鼓動がゆっくりと重なっていく―――


 ―――ここだ!


 目を見開く―――


 目の前には俺を喰らおうとしているドラゴンの口がある。

 俺はその口に右の拳を突っ込む―――


「マナバーストッ!!!」

 右の拳に溜めたマナを口の中で放出する。


 青白い光がだんだん強く発光していく―――


 ドラゴンの頭は光と共に弾け飛んだ―――。


 空から血の雨が降り注ぐ―――


 目の前にはドラゴンのでかい胴体だけが転がっている。

「ちっ、もう限界だ……。」


 活動の限界が来た―――。

 身体のだるさと睡魔が一気に押し寄せる。

 俺はドラゴンの血だまりの中に眠るように倒れこんだ―――。


―――――――――――――――――

・ジャガー

転生前の身体に変化した姿。

筋力超上昇の影響で筋肉隆々の男に仕上がる。

拳一つで、ドラゴンを倒せる力を持っている。

必殺技は二つ。

ジャガートルネードキック。

ただの勢いの蹴り。

マナバースト。

手からありったけのマナ放ち爆発を起こす。


・ドラゴン

幻竜種と言われる魔物モンスター

アルカディア大陸が生まれる前から存在していたとも言われる。

剣も通さぬ鋼の鱗と強大な爪を持ち。

種類によっては火を吐いたり毒を吐くドラゴンも確認されている。

今回、町に現れたのはグリーンドラゴンという種類。

ドラゴンの中でも脅威度は低いものの、それでもドラゴン。









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