第二章 変化する。

カール・クリス 7歳 アルカディア大陸歴1996年

第11話 カール・クリス 7歳 ① 変化する!

 父とマルス兄さんは、町へと向かっていた。

 残された僕たちは、大食堂にいた。

 母は、幼いマリアを抱きかかえている。

 デント兄さんは退屈そうにしている。

 僕は、とうとう来た試練の日をどう対処するか悩んでいた。

 堂々とチートを使ってしまったら、僕が魔法を使えるのがバレて

 しまう。


 僕は無能だが、オーク討伐の成果を父に認められ来年から

 騎士訓練学校に通う事を許された。


 騎士訓練学校は騎士学校の初等部のような所だ。

 本来はそこに六年間通った後、騎士学校へという流れだが

 マルス兄さんは訓練学校を飛び級で卒業して騎士学校へと編入した秀才だ。

 父が、兄さんを連れていったのにも納得がいく


(さて、どうしたものか……)


(クリス様、隠蔽のスキルを使って別な人物と認識させればよいのでは?)


(そのような使い方は試したことがない。とりあえず自室で試すか……。)


「母上、お手洗いに行ってまいります。」


 僕は、母にそう告げて大食堂を飛び出す。

「へへっ、食いすぎじゃねぇのか~」

 デント兄さんが茶化してくる声を無視して僕は自室へと戻る。


 自室に戻り、考える。

 隠蔽のスキルはいままでステータスを隠すために使ったり

 自分の能力を相手に誤認させるために使ったりしていた。

 要するに相手に見せる姿を誤認させることも可能なのではないか?


 僕は目を閉じ集中する―――

 身体に溜め込んだマナを細かく形どる。

 そうだ、相手だけではない、自分も誤魔化せ―――

 新たなだ。

 今の僕の身体は、7歳になったばかりの少年。

 これでは、目立った動きがとれない。

 マナの糸を細かくさらに細かく編んでいく


 僕は―――戸田真とだまこと


 転生前の姿を思い出す―――


 転生前、最後の残念な姿。

 目の下は深い隈、高身長で猫背。

 頬はやつれて不健康そうな最後の姿の


 僕は、自分を創造する―――

 自分を誤魔化せ―――


 転生前の自分の姿を思い浮かべ、今の自分と重ね合わせる。


 そう―――今の自分には都合が良い過去の姿。


 さらに深く集中する。ゆっくりと今の自分と過去の自分を重ね合わせる。


変化チェンジする)


 マナの青白い光が、僕の身体を包み込む。

 姿見の前に立ち確認してみる。

「おおっ、久しぶり!」

 そこには、転生前の自分の生まれたままの姿があった。


「なっ……クリス様なのですか!?」

 ラビは、顔を隠して布を差し出してくる。耳まで紅潮している。

「ああ、そうだ。これが僕の過去の姿。いや…俺の過去の姿よ!」

 漲る力。過去の自分からは想像つかないほど身体に力が漲る。


 僕は、マナを操作して身体を強制的に変化させるスキル。

 チェンジと言う魔法を編み出した。

 ついでに、一人称も俺に変えてみた。

 今の漲るパワーと、身体からは不思議と自信が湧いてくる。

「はははっ、すごいッ、すごいなこれ……チートだ。」

 ただし、この力は大量のマナを消費する。

 いくらマナ貯蓄が無限に出来るとはいえ、長くは持たないだろう。

 本来の身体は、7歳になったばかりだ。

「うむ、時間がない。ラビ、父上の服を拝借してきてくれ。これでは寒い。あと目立たなくしたい、黒いマントも頼む。」

(さて、この身体になれる時間は限られている。俺様のタイムも今だともって1時間ちょっとか……。)

 俺は、この時間を楽しむことにする。

 もう一度、姿見を見てみる。猫背は直しておきたい。

(筋力超上昇!)

 メキメキと音を立てて身体が軋む、若干の痛みがあるが細い腕はみるみる肉付きがよくなり、背筋はすーっと真っすぐのび、筋肉質な身体付きになった。

 血流が良くなったからか顔色も非常に良い。過去の自分とは似ても似つかない。

「そうだな、この時の俺を『ジャガー』と名乗ろう。」

「クリス様、お待たせいたしました。」

 相変わらず照れているのか、顔を俯かせながらラビは服を手渡す。

「ほぉ、いつもみたいに着替えは手伝ってはくれないのか?」

 冗談交じりに言ってみる。

「ご命令とあらば……あっ、でもやっぱり恥ずかしいです……。」

 普段のキリッとした表情からは想像がつかないぐらい年相応の反応が初々しい。

「いや、冗談だ……着替えぐらい俺一人で出来る。」

 俺は、渡された服を手に取り着替え始める。

 最後に、黒いマントを羽織。


 準備は整った―――


「ラビ、家の留守は頼む、俺は一人で町へと行く」


「畏まりました……クリス様。」


「この姿の時は、ジャガー様と呼べ!それではなッ!とぅ!」


 俺は、二階の自室から華麗に飛び降りる……久々にやってみるか


月面宙返りムーンサルト!」

 華麗に宙でくるりと回転して、地面へと着地する。


「やればできるじゃねぇか……。」

 漲る力に、自由に動く身体。

 そしてこの姿なら、父や兄にばれる事はない。

 言葉遣いも変えて良かった。


 俺は、町へ全力で向かった―――。


――――――――――――――――

月面宙返りムーンサルト

『後方かかえ込み二回宙返り一回ひねり下り』

有名な体操選手の技。


変化チェンジ

クリスの作り出した新たな魔法。

マナを操作して、もう一つの肉体を作り出し

自身に投影させる魔法。

肉体年齢も変える事ができるが、消費するマナの量は尋常ではない。


創造魔法クリエイトマジック

新たな魔法を作り出す技術、強いイメージがないと失敗する。

集中力と細かなマナ操作を求められる。






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