Episode 03 現実世界

 私は微睡みの中で誰かの足音を聞きました。


 じきにガシャっと小気味良い音を立ててカーテンが開き、暖かな陽光が私に朝の訪れを知らせてくれます。


 瞼を上げると、豪奢な天蓋。私は優雅さを忘れないように体を起こします。意識が指の先まで行き渡り、やがて無意識となるそんな感覚を覚えながら、新しい朝が始まりました。


「おはようございます。ナギサお嬢様。本日、2512年3月27日日曜日の天気は一日中晴れとのことです。気持ちの良い朝ですね」


 そう笑うメイド服を着たシフォンさんは我が家の使用人の一人で、嬉しいことに私のお世話を好んでしてくれています。


「そうですね。おはようございます。シフォンさん。空気の澄んだ良い朝ですね」


「本日の朝食は如何なさいますか?」

「ごはんものでお願いします」

「かしこまりました」


 シフォンさんが私の手をとってベッドから降りるのを手伝ってくれます。

 過剰な補助ではありますが、彼女の仕事を奪うこともありません。次いで着替えの供をしてもらった私は彼女を従えて、まず両親の部屋に向かいます。


 我が家は豪邸です。一代にして巨万の富を築いたいわゆる成金ではありますが、それが故に貴族然とした生活に憧れがあったのでしょう。一昨年より住まうこの館は細部にまで趣向を凝らした造りとなっています。


 中でも一際立派な扉の先で、私の両親は眠っています。正確には私の両親だけでなく、共に会社を立ち上げた七尾夫妻が一緒なのですが、その説明は追々致しましょう。


 シフォンさんに扉を開いてもらった私はその部屋に一歩踏み入れて、カプセル状のベッドの中に眠る父母にお辞儀を一つ。


「おはようございます。お父様、お母様。今日は春の訪れを感じさせる温かな日になりそうです。一刻も早いお目覚めをお待ちしております」


 私の両親はここ2年ほど眠り続けています。


 あらゆる変化を受け付けない空間の中で夢を見ているのです。


 幸いというべきか、その原因は分かっています。仮想世界ネオアスターで生命迷宮に挑んでいるとのこと。


『ネオアスター』とは人類が創造したとされるもう一つの世界であり、生命迷宮とは寿命延長を賭けて挑むダンジョンです。


 今から200年ほど前、人類は『ネオアスター』という仮想世界を創り出すことによって、擬似的に寿命を倍増させることに成功しました。


 更に『ネオアスター』は現実世界にも影響を与え、その最たる例の一つが生命迷宮による現実世界での寿命の変化です。


 十七歳である私の親でありながら、二十代の肉体を維持するお父様お母様は何度も生命迷宮を踏破してきた猛者です。生命迷宮に挑んでいる間は周囲の空間ごと現実世界の肉体は停止します。ですから、眠りについていること自体は珍しくはありません。


 とはいえ、父母がこれほどまでに長い眠りについたことはありません。2年という期間は世界を見渡しても珍しいと言えるでしょう。


 事情知りたいところですが、迷宮攻略中はこちらの世界からは干渉することが難しいため、待つ他ないといった状況がずっと続いています。


 可能性があるとすれば、仮想世界の中で救援に向かうことでしょうが、情報収集の先に実力者が苦戦する生命迷宮となると現実的ではありません。


 隣に同様にして眠る七尾夫妻への挨拶も済ませた私は一度外へと向かいます。玄関先すぐの花壇で私が選んだ花を育てているのです。


 今日は天気も良いですし、自らの手でお水をあげることにしました。透きとおる青空の下、春の風を感じながら、アンティークなジョウロを傾けます。


 古式な花壇は景観を損ねない程度には整えられています。他の調整緑地よりは雑多な印象ではありますが、そこも人間味があってをかしといったところでしょう。


 春の花々が開花を始め、鮮やかな色が朗らかに揺れています。春の花壇を彩る紫羅欄花ストックに雨を降らせて眺めていれば、ちょうど良い時間になったようです。


 直に食事の用意ができるとの報告をシフォンから受けた私は彼女を伴い、リビングへと向かいます。


 リビングには幾つかのテーブルがあります。その内、12人掛けの檜の一枚板に5人分の食事が並べられているのはいつも通りの光景です。


「おはようございます、綾風さん、アキトさん。ソラハとミナミもおはようございます」


 ソラハはアキトさんの妹さんで、ミナミは私の妹です。アキトさんたちは七尾夫妻の子供であって、今は私たちと一緒にこの屋敷で暮らしています。


「おはよう。お嬢様」

 綾風さんは私の義姉です。私が十二歳になるまで身の回りの世話をすることを前提に養子となったそうで、その約束を満了した今でも彼女にとって私は妹であると同時に世話すべきお嬢様なのだとか。

 両親不在となった今でも私の立ち居振る舞いが変わってないことと同じようなものだと理解しています。何にせよ、非常に頼りになる義姉であることに違いはありません。


「おはよう、ナギサ」


 アキトさんは私と同じく17歳ですが、大人顔負けの屈強な体躯の持ち主です。それでも彼の凄いところは身体能力の高さではなく、人造人間開発の分野で研究者として第一線で活躍していることを挙げるべきでしょう。


 基本的に何でもできる彼は、少しだけ感情表現が苦手です。そして、何かを自分で選ぶことが嫌いです。


 幼馴染の私が、彼の人生を幾度となく選択してきました。


 その結果、主従に近い関係が生まれたことは私が貴族然とした教育を受けていたからでしょうか。


「おはようございます、お姉さま」

「おはよう、ナギ姉」


 お姉さまと慕ってくれているのがソラハで、ナギ姉と呼ぶのが私の妹たるミナミです。ソラハは兄とは対照的に、嫋やかな雰囲気の少女です。ミナミは快活で勝気な子で、子供っぽいといった印象が抜け切っていません。


「では、いただきましょうか」


 5人での食事も日常になって随分と経ちます。

 両親が長い眠りについたのは、この家に私たちが一緒に住むようになってすぐのことでした。元々大人数での食事を見越したリビングは何処か寂しげですが、私達は至って元気に暮らしています。


 いつも通りに美味しい料理を食べつつ、合間に会話を愉しみます。話題は私たちの仮想世界での生活がスタートしたことです。


 ステータスや称号、ダンジョン攻略の話。最初の一週間とは思えない冒険のお話ができるのはとても嬉しいことです。


 昨日までの世界はまるで夢のようで、二つの世界があるという実感はまだ余りありません。ただ、この世界に持ち込まれたスキルが私たちがあちらの世界の住人にもなったのだということを示します。


 ステータスも徐々に身体に馴染んでいくはずです。


 こちらの世界に持ち込めるスキルは魔力量などに左右されると言われていますが、大抵は一つと考えて良いでしょう。


 私の場合、魔力に限っては比類なき高さを誇っていますが、それであっても持ち込めるスキルは二つか三つです。スキルによって使用するリソースが異なるようですね。


 スキルのセットは現実世界の拡張現実ウィンドウで行うことができ、現在は『風の精霊術』と『看破』をセットしてあります。


 あるいは称号にもリソースが割かれているのかもしれません。称号に付随したスキルは現実世界でも否応なくセットされます。


 称号スキルは不明な点も多いですが、私の場合少なくとも『障壁』系統の効果はあるようです。


 生命迷宮で確認したその効果はおそらく現実世界でも有効でしょう。現実世界で攻撃を受けることはそうありませんが、自衛の力なくしては簡単に消されてしまう可能性があるのもまた事実です。


 これは個人が余りに大きな力を持ち得るようになった弊害ですね。ある程度の犯罪はシステム的に弾かれるようになった一方で、単純な攻撃を防ぐシステムは脆弱です。


 あるいは、スキルを以て争うことを前提としているかのような気配すら感じます。




 さて、朝食を終えた私は自室にて髪のセットを行っていただきます。今日はコノミさんと遊ぶ約束をしていますから、その準備です。


 セッティングはシフォンさんに任せ、私は拡張現実ウィンドウを操作して、綾風さんからいただいた事業の資料に目を通します。


 両親が居た頃は失敗を覚悟で新しい事業に取り組むこともできましたが、今は余りチャレンジングなことはできません。


 今の方が幼い時よりは上手くできると思うのですけれど、儘なりませんね。


 とかく現状は事業拡大よりも現状維持が重要です。とはいえ、現状維持とは停滞ではなく、一定速度の進歩を意味します。


 AIのアシストを受けながら、仕事を割り振っていきます。実務的なところは綾風さんに任せることが多いので、私はあくまで承認役に過ぎません。


 さて、準備ができたところでアキトさんと共にコノミさんの家へと向かいます。すぐ近くですので、歩いて行きましょう。


 フリルの多い厚着のドレスを着ての運動に関しては私の右に出る者はいないでしょう。日傘をさして道を行きます。


 私に合わせてスーツに似た私服の多いアキトさんはあくまで雰囲気がスーツというだけで、素材や構造は動きやすいものになっています。そんな彼には私の荷物も持っていただいています。


 コノミさんのご家族が経営する九重グループは次世代コンツェルンと呼ばれる巨大企業集団兼自治組織です。関東や九州を中心とした治安維持に一役買っていらっしゃいます。


 スキルやステータスがこの世界に影響を与えたことで、犯罪行為への対応には相応の力が必要です。その結果、公的機関だけでは治安維持が難しい場合もあり、産官学が共同で治安を維持しています。


 九重グループを始めとした大企業はそういった地域貢献が求められ、権力の均衡を保ちながら平和が維持されています。


 幅広の歩道を歩くこと5分程。コノミさんの家へと到着した私たちは、まもなく屋敷の中へと通されます。我が家と比しても余りに豪奢な九重邸は古き良き日本家屋の風貌でありながら、最新鋭の技術の詰め込まれた大邸宅です。


 コノミさんの持つ客間の内装は西洋風で、クラシカルなラウンドテーブルを囲むようにしてお茶会をします。大きくとられた窓からは、日本庭園を眺めることができ、ミスマッチながらも心穏やかな風情があります。


 今日は情報交換を行うためのお茶会です。普段は勉強やゲームなどの遊びを共にすることが多いので、部屋には参考書やゲーム機が置かれています。どれもデータが主流で現物品となると高価なのですが、九重グループの御令嬢からすれば日用品の範疇でしょうね。


「おはようございます。ナギサ。アキト君。本日はようこそいらっしゃいました」

「お招きいただきありがとうございます。コノミさん」


「おはよーございマス。ナギサ嬢。アキト君」

「おはようございます。シャルさん」


 九重邸にホームステイ中のシャルさんは人懐っこさと大人っぽさが同居した英国少女です。


 シャルさんは英語が混じったり、翻訳アシストを使ったりと現実世界の日本語には少し不自由なところがありますが、ここでの記録では仮想世界に合わせておくことにします。


 アキトさんも軽く挨拶をして、持参した茶菓子をお手伝いさんに渡します。


「こちらはシャルさんへのお土産です」

「何ですカ?」

 そして、シャルさんにはダンジョンドロップの鎧武者春型の兜を渡します。ちょっとしたサプライズプレゼントです。


「しょうぐんデース。ありがとうございマス。ナギサ」

 タイプスプリングと喜ぶシャルさんの実家には鎧武者秋型の兜が飾ってあるそうです。中等教育の入学祝いに買って貰ったということでしたので、ダンジョンで春型の兜を複数集められた時からシャルさんに贈ろうと思っていました。


「これは、あちらの世界の……良いんですの?」

「ええ。偶々手に入りましたので。お邪魔でなければ鎧や刀もお送りしますよ」

「こちらの世界に持ってくるのも相当のコストになりますわよ」

「多少なら問題ありません」


 世界間のアイテムの移送には『移送』系のスキルが必要で、アイテムに応じた魔力が必要になります。事実上送れないアイテムも多々ありますし、アイテムの効果がこちらで使用可能かどうかや現実世界のスキル枠を消費してしまうといった問題もあります。


 そして何より『移送』系スキルは覚えにくいことで有名です。スキルを教えるためのスキル『教授』系スキルを以てしても最低で半世紀はかかるといわれています。スクロールならばまだ覚えやすく十年程で取得した例もあるそうです。


 そのため、この世界にアイテムを送るためには相応のお金が必要になるわけです。とはいえ、追加効果のないインテリア程度でしたら、求められるスキルのハードルも低く、消費魔力も少ないので比較的安価ではあります。


 鎧兜を売却すれば十分に賄えますし、こちらの負担は見た目の上ではありません。も

 っとも綾風さんに『移送』系スキルを使用していただいたので、輸送費も実費としてはかからないのですけれど、綾風さんの身の安全を考えると明言は避けるべきでしょう。


 仮想世界のアイテムはあらゆる意味で無視しがたく、ある程度の企業にもなれば、『移送』系スキルによる採用枠を用意しているのが常というものです。

 スキル所持者もスキルを仕事にしようとするならば、身の安全も考えて大企業へと所属することが多いのだと思います。


 会社の輸送担当部門であれば、私的利用に際しては会社に輸送代金を払うことにはなりますが、格安でアイテムを送ることができます。

 コノミさんは私がそれを利用したと思うでしょう。実際、似たようなものですし。


「鎧! 刀! 欲しいデース」

「では、こちらに送るようにしておきますね」

「ナギサ、ありがとうデース」


 シャルさんはモノをよく見る方ですから、つい贈り物をしてしまいたくなります。コノミさんもその部分に関しては共感してくださるようですが、どうにも輸送費はひっかかっているようです。

 自分が使う分には疎い彼女は、他人に使わせる分には酷く気を遣いますからね。これまでコノミさんから頂いたモノの方が多いですし、そうでなくとも彼女が気にする必要はありません。ただコノミさんの希望をきいておきたいとも思います。


「今度、あちらでお会いするときに受け取りますわ。あちら側に飾っておいても良いでしょうし」

「お二人が良ければ、それでも構いませんよ。特に負担という程でもないのですが」

「どっちでも大丈夫デース。嬉しいデース」

「仮想世界でお願い致しますわ」


 わかりました、と話がまとまったところで、お手伝いさんが紅茶を入れてくださいます。そしてお茶の説明を少し。

 下がるお手伝いさんにお礼を言って、紅茶を手に取ると自然に香りを楽しめたところで味を確かめます。


 作法も何もなくて良い場とはいえ、きちんと感想を言うまでは最低限の礼儀というものでしょう。

 4人には些か大きなラウンドテーブルにはケーキやクッキーなどのお菓子も運ばれ、幾許か普段通りに会を進めた上で本題へと入ります。


「結局、アキト君は勇者ではなかったのですわよね?」

「そうですね」

「ナギサでもなかったのでしょう?」

「ええ。大役が誰の手に渡ったのかはわかりません」


「お二人が勇者であれば、私も安心できたのですけれど、儘なりませんわね」

「そういうものでしょうか」

「魔王の時代は都市という安全地帯が危険に晒されますわ。魔王に対抗できる勇者が誰になるかはとても重要でしてよ」


 魔王は人の魂を喰らうと言われています。

 現実世界の人類が魔王と勇者の時代を経験したのは百年と少し前に一度だけ。甚大な被害はその記録さえ曖昧にしてしまいました。


 とかく魔王が恐れられる理由の一つにコノミさんが言及した安全地帯セーフエリアの無効化が挙げられます。大抵の町は始まりの広場を中心にした魔物の寄ってこないエリアに作られています。そういった町にも魔王は現れる、むしろ町や都市にこそ魔王は現れるようです。


「対抗策を模索するのは良いことですし、私も情報収集くらいはしてみるつもりですよ」

「お願いしますわ。できる限り被害を抑えられると良いのですけれど」


 地域の安全を守る九重家らしい考え方です。

 コノミさんがそこまで背負うものでもないと思うところではありますが、彼女の美点を否定するものでもないでしょう。


「そういえば、そろそろ魔王と勇者の世代であることは魔物も知っているようでした」


 私は魔物の声を聴いたことを話します。


「魔物の声が聴こえるスキルなんて珍しいですわね」

「誰の声でも聴こえるという訳でもないので意図して使えるものでもありません。ユニークとしては如何とも言い難いところですね」


「テイマーは欲しがるかもしれませんわ」

「意思疎通のスキルの方が余程便利ですよ」


 意思疎通のスキルがあればテイムモンスターと心を通わせることができます。もっとも、会話ができるような魔物は中々存在しないとも聞きます。


『解読』ならば会話できない魔物の心も声として聴こえるのでしょうか。知能的な問題ならば意味がないような気もします。


 ただ言いはしませんが、『解読』には始まりの祭壇で見た三次元文字を読むような文字通りの機能もあると思いますので、冒険の供には良いのではないでしょうか。


「ナギサのユニークにしては少し地味な気もしますわね。他にユニークはありませんの?」

「ありますよ。ただそちらも戦闘には使えませんね。コノミさんはどうでしたか?」


「幸い、私はレーザー魔法でしたわ。そう何度も使えはしないのですけれど、何とか九重家の威厳は保てますわね」

「レーザーならば、十二分でしょう。素晴らしいですね」


 遺伝や環境が影響しているのか、九重家は魔力線系の魔法を覚えやすいようです。

 速度や威力を純粋に求めたレーザー系スキルは使い勝手の良い強力な攻撃スキルとして知られています。


「未来予測のスキルもありましたし、幸運でしたわ。努力はしてきたつもりですけれど、どうしても運の要素が強いところですから」

「そうですね。これから成長できるといっても、ジョブやスキルがあった方が圧倒的に有利ですし。一安心といったところでしょうか」


「油断はせずに当分はトレーニングですわ。早く第一線で戦える力を身に付けませんと」


 初期ステータスの制限によって、開始直後のステータスは伸びやすいと言われています。適正ステータスまであげやすいということなのでしょうか。

 一方で、スキルはとりわけ覚えやすいということはなく、基本的に初歩から一歩ずつステップアップしていく必要があります。


 最初はジョブやスキルに空きがあるため、それらを埋めることでも総合能力は強化されます。

 成長を実感できる楽しい時期であり、実戦に向けた能力を整える時間です。旅に出る私たちにとってもそれは変わらないでしょう。


 アキトさんほど初期ステータスが高いと既に適正値を超えている気さえしますが、彼ならば更に成長を見せてくれるのではないかと楽しみです。

 彼は研究で最前線を切り拓いている実績がありますから、自然と期待してしまいます。


 勿論、私自身も頑張らなくてはいけません。

 様々な町を廻ったり、人類未踏の秘境を巡ったり、そんな大冒険の夢には研鑽が不可欠です。


「来週が待ち遠しいところですね」

「そうですわね。不思議な感覚ですわ。やはり『ネオアスター』は第二の現実、ゲームとは違いますのね」

「感覚としてはそうでしたね。ゲームのような冒険は期待できそうでしたが」

「自分の命をかけるとなるとナギサほど無邪気に期待はできないですわ。ただ、より生きている実感があるというのは少し理解できる気もしましたわ」


 これから先、人生の半分は仮想世界で過ごすことになります。それは同時にやはり現実世界でも過ごしていくわけでして、そのあたりのバランスも考えていかなくてはなりません。


「今この瞬間しかない現実世界も大切ですから。どちらの世界でも充実した日々を送りたいものです」

「それはそうですわね」


 世間一般には中々馴染めないことは自覚していますが、これまで特に問題なく学校生活を楽しんでいます。

 良き仲間と環境に恵まれた生活もまた冒険のような心のときめきを産むものです。


 仮想世界のことをお話することが多くなるでしょうが、現実世界のお話も記録に残せるといいなと思います。


 その前提として、どちらの世界でも誰かの心を満たせるような生活を送れることを期待です。勿論、私の心も。


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