第2話 聖女伝説

 遠い遠い昔の話。

 この国に、ふたりの聖女がいた。

 ふたりは互いを尊重し、慈愛の心で民を愛し、王と国に尽くした。聖女の祈りのおかげで大きな天災もなく、穏やかな平和な時代が長く続いていた。


 北の竜が目覚めるまでは。


 ある寒い夜のこと。

 黄金の竜は、時の王の前に現れた。


「何のために私の前に現れたのか」と王は問う。

「この国を滅ぼすために」と竜は言う。

「わたしは民の命を預かる身」と王は語る。

「それはわたしも同じこと」と竜は言う。


「わたしは人間が嫌いだ」と竜は語った。


 人は森を荒らす。

 好き勝手に森を切り開き、動物や魔物、精霊たちを追いつめていく。


 竜はそれが我慢ならないのだ、と。

 人間がとうとう竜にまで手をかけた時、竜の怒りは頂点に達した。


 強大な竜の力の前に、王にはなす術がなかった。


「何でも差し出すから許して欲しい」と王は願う。


 竜が望んだのは、聖女のどちらかを花嫁に捧げることだった。

 王が承諾すると、たちまち竜は聖女をひとり連れ去った。竜は聖女と力を合わせ、森に強い結界をはった。


 これからは人間も魔物も、結界を超えてはならない。

 そう、互いに不可侵の約束をかわして。


 残された聖女は深く深く悲しみ、半身を欠いたせいか、聖なる力は半減した。

 それでも懸命に務めは果たし続けたものの、ついには神殿に一人こもるようになり、嘆きのうちに亡くなった。


 召される瞬間、聖女の体は光り輝いて、その光は大地に恵みをもたらし、王国は緑があふれ豊かさを得た。

 そうして強大な聖女の力は飛散して大地に浸透し、この地には魔法がうまれた。


 くだんの聖女たちは、姉妹だったという。

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