第5話 新しい仲間 恵庭

鈴鹿恵庭すずかえにわ、葉山の大学時代の親友だそうだ。


「ところで、そこにいる彼はあなたの恋人なの?」

「そうよ。紹介するわ。優一君」

「へえ、葉山にもそういう人ができたんだ。紹介はいいけど……」


優一は驚いた。『知り合いなのか……』

そして、葉山があっさり自分を恋人と認めてくれたことにも驚いた。

その女性はゆっくり優一に近づいてくる。優一の周りを回りながら、まじまじと見つめたかと思うと、

「ふーん、素敵な人ね。私より大きい」

『え、大きさ?』と思ったが、改めて本当に小柄な人だなと思った。優一の身長は一六五センチ大きくはない。そして、人の周りを一周回って見る姿は、なんだかネコみたいな人だなとも思った。


「あなた、さっき葉山を守ろうとしたわね」

優一は咄嗟とっさに葉山を守ろうと、彼女と葉山の間に入ろうとしたことを思い出した。

「優一君だっけ。あなたは勇敢ゆうかんね。勇者様だ。でも、まだ、こういう世界には慣れていないようね……葉山を守ろうとしたのは素敵だけど、相手を知らないで向かっていくのは危険よ」


 顔を近づけて話しかけてくる彼女は不思議な香りがする。そして、何よりも恵庭えにわというこの女性も美しく、この至近距離で見ても、まるで幻を見ているような不思議な感覚がある。

 髪は葉山と同じような黒のロングで前髪をそろえている。透き通るような肌の白さは何か日本人離れしているようにも感じる。


「ねえ、恵庭えにわ。あなたなの? 最近いろいろなところに現れる不思議なお店があるらしいけど……」

葉山を見て微笑み。

「お店やってるの。私」

「やっぱり」

「でも、あなたちが思ってるのとは、ちょっと違うのよ」

「……」

「違う世界に迷い込む人がいるのよ。そのまま行っちゃうと危ない……そういう人に、私が気が付けば、その手前で引き止めてあげるの。お店に引き止めて……何か買うと、それがお守りになって、元の世界に戻っていくの」

「そういうことだったの。お店はあなたの見せる幻影……」

「そうよ……こんな風に」


恵庭えにわが指で九字を切り何か呪文のようなことをつぶやく。

『同じだ』と優一は思い葉山の方を見る。


 と同時に、次に起こったことに驚いた。周りの大きな林が消えた。そして、田んぼの真ん中に『石段のある小さなお堂』だけが残った。

 昔話に出てくる登場人物ではないが、優一は腰を抜かしそうになった。

すべてが消えた。『林』も、あの時いた『二人の男』も……


 恵庭えにわは葉山の方に微笑みながら言う。

「素敵な彼氏ね」

「ありがとう」

「ところで、仲間になる人を探しているの?」

「……そうなの」

「私は仲間でしょう。最初から……」

「そうね、まあそれとは別に最近、『道に迷って不思議な店に辿り着いた……何だったんだろう?』みたいな依頼が多かったから、辿れば、あなたに会えるかなと思って……ところで、『仲間になる人を私が探してる』って、どうして思ったの?」


恵庭は、お堂の方を見ながら……

「数日前にも来たのよ……安住登也あずみとうやが……」

安住あずみ?」

「ああ、あなたは知らないか……法学部だったかな? 彼、ほら、明美あけみちゃん知ってるでしょ。太田明美おおたあけみ

「ええ。名前ぐらいしか知らないけど……」

「明美ちゃんと付き合ってた人だったけど……なんか、やばいことにハマってるみたいで……」

「どっちが?」

「二人とも……なんか人集めしてるみたい」

「え? 私は彼女たちと違うわよ」

「わかってる」

「で、なんでその話と私がつながったの? 彼女たちは何で?」


 よくわからないが、恵庭の話では、その安住登也と太田明美は宗教ではないが、何か、そのようなものにハマっていて人集めをしている。

 恵庭は『集団の頂点にいるもの』の存在が気になるという。誰かはわからないが、宗教勧誘の様に不特定多数に声をかけ、その中から本当に『霊的な力』を持った人間を探し、集めているようだと言う。

 その『集団の頂点にいるもの』が敵対しているのが『神族』であるという。一方で『神族』のかなり高いレベルのものが、最近、葉山にコンタクトを取った形跡があるというのだ。恵庭には、そういうことを察知する能力があるようだ。

 その『集団の頂点にいるもの』と対立する『神族のひとり』が人間界に現れた。その『神族のもの』が人間とコンタクトを取った……『神族のもの』は京都に現れ誰かと戦った形跡がある……そして、それを辿ったら葉山に辿り着いた……その『集団の頂点にいるもの』は『霊的な力のある人』を集めている……『神族』のものとコンタクトを取った葉山も、また、その『集団』ものと戦うための『人探し』をしているのではないか……と思った。

と、まあ、そんな話だった。


 話の中で、確かに葉山も、そういうことがあって人は探していたが、その対立する『集団』の存在は知らなかったという。

「その『集団の頂点にいるもの』って……人間?」

「どう思う?」

「人間じゃないの?」

「いい感……私も、そうだと思う」

「本物?」

「たぶん」

「何人くらいいるんだろう?その……そっちの方の人たちは」

「なにか宗教か政治団体みたいな人たちだから母集団はすごいし、どこまでが関係者かもよくわからない」

「そうなの……」

「ただ、わからないけど、それほど強大な何かが組織を作っていたら、私には察知できると思うの。『集団の頂点にいるもの』が、そこもヴェールに隠せるくらい『力』があれば察知できないけど……個人が発する『邪気』が、どこか一点に集中してきたらわかるのよ……『何か悪いもの』が集まってるって」

「今はまだ大丈夫ってこと?」

「ええ、いても二、三人ってとこじゃない」

「五人はいないと思う」

「強力なのが二、三人もいたら大変よ」

「そうね。もちろん、私は葉山に協力するし、私も探してみるよ」

「助かるわ。あなたの『力』こういう時、とてつもなく頼りになるから……」

「ありがとう」


葉山は自分が『何か大きなもの』に巻き込まれようとしているのを、今さらのように知った。

 恵庭は「いつでも連絡してね」と葉山に言って、その日は別れることになった。帰り際、優一に「葉山を守ってあげてね」と笑顔で言う。何かあったときは、お互いに連絡が取れるようにと優一も含め三人で連絡先を交換した。

 優一の方もここにきて、改めて、何かとてつもなく大きく、とてつもなく非現実的なものに巻き込まれたような気がした。

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