第3話 不思議な町の話 二

次の日、学食でボーっとしている優一。

「おはよ。昨日はどうだった?」

さやかが声をかけてくる。

「ああ、おはよう」

「ふーん。なんかいいことあったんだ」

「いや別に」

優一の前に座るさやか。

「……いいことあったんだ。わかりやすいなあ……まあいいや」

「ねえ、葉山さんって、いつまで東京にいるんだろう?」

「自分で聞いてみればいいじゃない。電話番号もLINEつながってるんでしょ……あとは気持ちだけか……」

「え……」

カップのコーヒーを飲みながら、優一を上目遣うわめづかいに見るさやか。


「案外つながってるかもよ」

「え、なにが?」

「……知らない」


さやかは葉山のことをどれだけ知っているんだろう?

 もちろん、二人は従姉いとこなので、そういう一般的なことではなく、葉山が優一をどう思って接してくれているかをだ。それが気になる。

しかし、ストレートに聞けない優一。


「そういえば、まだあんまり知らないけど、葉山さんっていくつなの? 話していると自分たちとそれほど変わらないような気もするけど。」

さやかが目を丸くして優一を見る。

「本当に好きなのね。三つ上よ。わたしたちより……大丈夫、大丈夫。あ、それと今、付き合ってる人とか、いないから……」

「そうなんだ」

それを聞いて少し嬉しくなる優一。

「夏休みのこと。あの印象があると、なんかすごく強い人みたいに思うかもしれないけど、結構、人見知りなところあるから、そこはさっして接してあげてね」


 少し昨日のイメージとは違う気がする……とも思った。

優一は他にも気になっていたことがあった。


「あのさあ、夏休み、さやかの家にみんなで行ったときさあ、さやかんちは、なんかすごくアットホームでにぎやかだったけど。葉山さんってお父さんとか、お母さんは? なんか、おじいさんとか、おばあさんって話は聞いた気がするけど……」

「ええ、何? 葉山ちゃんの両親に、ご挨拶に行きたいの?」

「なに言ってんだよ」

さやかがからかい、慌てる優一。最近、こういう構図ができてきている。さやかはからになったコーヒーカップをテーブルに置いて、カップのふちを指でなぞる。


「いないんだよね。葉山ちゃんちは」

「え?」

「いや、いや、いないったって、別に、葉山ちゃんの両親が、すごい強敵と戦って命を落としたとか、そういうのじゃないからね」

「……」

「葉山ちゃんのひたいにキズがあるとか……そういうのでもないから」

「わかったよ」

「葉山ちゃん魔法学校にも行ってないから……」

「わかったよ」

 さやかはそこまで言って笑う。


「いや、海外で仕事してるんだよ。夫婦で行ってるから……だから、今はいないの。たしか今は中東か、どっか、そっちの方」

「へえ、そうなんだ」

「なんか葉山ちゃんって、お兄ちゃんがいるんだけど、二人とも、小さい頃は両親について行ったりしてたけど、あんまり、あっちに行ったり、こっちに行ったりって感じで転勤ばかり、葉山ちゃんたちも転校ばかりになるから、おじいちゃんとおばあちゃんが高知で育てるって言って、預かって……それからは落ち着いた生活してたって感じ」

「へえ、なんか大変だったんだね」

「まあ、そんな影響もあってか、ちょっと人付き合いが苦手みたい」

優一は葉山のことを、なんだか、大変な幼少期を送った人だと少し不憫ふびんに思った。


そんなところへ、奈佐なさがやって来た。隆一、厚子も一緒にやって来た。

「さっき偶然そこで会ったんだ」


さやかが、奈佐なさに言う。

「知り合いの人に少し相談してみたんだけど。ちょっと調べてみてくれるって」

「そうなの。ありがとう」

優一もいきなり『最近、何か変わったことない?』と聞くのもいぶかしがられると思い。それとなく、世間話をする機会を増やしていくことにした。


 葉山は図書館で調べ物をしていた。ネットなどで検索しても引っかかってこないようなディープな民族伝承につながっている気がする。『迷い家(マヨイガ・マヨヒガ)』の一種であろう……と当たりをつけているが……それも少し違う気がしていた。店が現れる場所が東北に限定されない。出現する範囲が広すぎる。奈佐は高知で見たという。

 実は、ここのところ葉山のところに、この手の情報がいくつか舞い込んできている。奈佐の一件だけではなかったのだ。少し気になっていることがあって、東北のことも調べていた。

 岩手県遠野市……この件は『迷い家』ではないと思うが、どうしても、そこにつながってしまう。一度、そこにも行ってみたいと考えていた。

 しかし、足がない。公共の交通機関で行った場合、現地に行ってからが不便になる。

 その夜、優一に葉山から電話が掛かってきた。その内容は「次の三連休、岩手に行きたいので、もし用事がなかったら、一緒に車で行ってくれないか」というものだった。優一は飛び跳ねたいほど嬉しかった。葉山と遠出の旅行に行ける。もちろん、「行きます」と即答した。用事などなかったが、あってもすぐにキャンセルだ。葉山の誘いより優先する用事などあるはずがなかった。


 これについては、優一はさやかに報告することなく行こうと思った。もとより、さやかは友達だし、そこは別に逐一ちくいち、報告する必要もないだろうと思った。

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