第2話 不思議な町の話 一
優一は
学食で五人で食事をする。三人は先に来て食事を食べていた。優一と奈佐も一緒に食事をした。状況を説明し皆理解してくれた。
「まあ、その辺はそんなにわからなくなるような場所でもないよね」
さやかは、その辺りについては地理感があった。行っている場所の風景は目に浮かぶ。場所は思い出せるが、言うように迷うような場所ではないと思った。その点については優一も同じ意見だった。他の二人は場所がわからないので話の内容だけで状況を察するしかなかった。
とりあえず、その場はさやかがその話を知り合いに伝え何かわかることがあれば、知らせてもらうということになった。知り合いというのは
優一は、もしかしたら近々、また
さやかがもう一度、奈佐に聞く。
「ねえ、その後、何か不思議な事とか起こってない?」
「うん、まあ特には……」
「そう、また、何か言い忘れてる事とかあったら何でも教えてね。」
と奈佐と電話番号とLINEを交換した。これに優一や他のメンバーも便乗する。
奈佐とは今まであまり接点がなかったが、こんな話題で急に友達になった感じだ。
その夜、さやかはこんな話があったと
葉山はちょうど出張で東京に来ているということだった。また近いうちに会おうということになった。
数日後、さやか、優一、葉山の三人は都内の喫茶店で会うことになっていた。さやかと優一が店に着くのと同時に、黒い帽子、黒い服、黒のスカートという出で立ちの葉山がやって来た。
夏休み以来なので、約一か月振りだった、葉山は都内のホテルに泊まっているという。さやかは優一を横目で見て、
「随分、嬉しそうね」
と言う。
「え?」
「わかりやすい」
という。
「元気だった?」
帽子を取りながら座る葉山。奈佐の話のことを今度帰ったときに調べてみるという。優一は、
「道に迷っただけではない……と思うんですか?」
と率直に聞いてみる。
葉山は少し考えるような素振りを見せて、微笑みながら、
「……迷っただけなんじゃない?」
と言う。
「え? やっぱりそれだけのことですか」
優一は何か拍子抜けしたような感じだった。
「だって、普通そうでしょ。世の中そんなに何でも『冥界への入り口』、『異世界への入り口』みたいになってたら身が持たないでしょ」
微笑みながらそう言う葉山。その日はその後、何でもないような会話をして帰ることになった。
帰り際、さやかが、
「葉山ちゃん、優一が送らせてほしいって」
といたずらっぽく言う。
「あら本当。ありがとう」
「え?」
葉山の意外な反応に優一の方が慌ててしまう。
さやかは葉山に近づき、わざと優一にも聞こえるように、
「優一、葉山ちゃんのこと好きだって」
と言って、微笑みながら、二人に手を振って先に帰ってしまった。
「ごめんね。変な子で。あ、別に用事があったらいいのよ」
「いえ、用事なんて」
優一は大きく首を振る。
葉山は少し笑いながら、
「そう、実はねちょっとお願いがあって……その子、奈佐ちゃんだっけ。何か変わった様子がないか。気に掛けてあげてくれないかな?」
「え? やっぱり、なんかまずいことに巻き込まれているんですか?」
「いや……さっきも言ったけど、別に悪い世界ではなくて……これは不思議な体験だけど、『悪いもの』に巻き込まれてるんじゃなくて、どっちかというと、『いいこと』に巻き込まれているっていうか……そんな感じ」
「なので、その彼女に災いが降りかかるというより、何か些細なことでも、いいことが彼女の周りで起こるかも……いろいろとね。彼女自身が気付くかどうかは別として……だから、ちょっと気に掛けて、見てあげてほしいの」
葉山は言葉を続ける。
「この前夏休みに君たちに起きたことみたいなものじゃなくて。今回、私が気にしているのは、その店の方ね。できれば、その店を見つけたいの。消えては現れるその店をね。彼女には悪いことじゃなくて、何かいいことがいろいろと起こり始めるかも、それを彼女自身が少し変だと気味悪く思うかもしれないから」
何だかわからないが、葉山の手伝いをしたいと思った。
何かあったら教えてほしいと言って、葉山は優一と電話番号とLINEを交換してくれた。優一は葉山と電話で話せると思い、内心すごく嬉しかった。
葉山が泊っているホテルの前まで一緒に来た。新宿駅西口から少し歩いたところに、そのホテルはあった。
葉山と一緒にいると何か心地よい気品のある香りがする。
「送ってくれてありがとう。連絡ちょうだいね」
そう言って、葉山は少し優一の方を見つめたかと思うと、優一の口に軽くキスをして微笑み、ホテルのエントランスに入って行った。
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