黒田郡探偵事務所 第二章 新しい仲間 恵庭

KKモントレイユ

第1話 大学生という日常に戻る

 夏休みが終わり、退屈な授業に出る毎日が始まった。優一は大学で物理学を専攻していた。高校時代は数学や物理、化学といった科目が得意だった。


 小さい頃から社会科の科目は内容には興味があったが勉強の科目としては今一つ面白みが感じられず、高校になってからは壊滅的な成績になり文系の道は閉ざされた。

 よく「数学はわからない」という人がいるが、とりあえず式とその分野の内容を理解して解けば何とか点数につながる数学や物理の方がいいと思った。

 古文や漢文は授業を聞いて物語の内容や、その背景に思いを馳せるのは楽しいが、定期テストならまだしも、実力テストや模試で初めて見る古文や漢文の文章は外国語以外の何ものでもなかった。

 中学時代から自転車に乗るように手取り足取りアルファベットのABCから肯定文、否定文、疑問文、現在進行形……などと丁寧に教えてくれて、単語を覚えるのも大切なことと単語も試験勉強で覚えた……そんな英語と比べ古文や漢文は習熟度の違いが大きい。

 高校から本格的に始まって、いきなり「これくらい簡単だろう」という感じで、見たこともない文章を試験に出される……古文や漢文は優一にとっては手に負えない科目だった。

 古文が十分理解できていないのに、漢文の方は『レ点』や『一二点』をつけて、できた文章は古文のようになる……それを「試験時間内で解答しろ」と言われても無理ではないか……

 大学は理系に進んだ、医歯薬学系はレベルもることながら、自分自身あまり興味がなかったというのと、化学より物理が好きというのもあった。工学より理学で基礎科学のような分野を学びたいと思い物理学科に進んだ。

 理学部というのは数学科、物理学科、化学科、生物学科など大学によって『科』の名前は様々だろうが、往々にして高校の数学、理科の科目の延長線、発展形である。大学まで来て今この教室に座っている人たちは、男子も女子も、それなりにこの科目が得意な人たちだと思う。いやなら他の選択肢があったはずだ。高校の時と違って、今ここにいる人達から『数学が苦手』、『物理が苦手』という言葉を聞くことはほとんどない。『他に行くところがなかった』で数学や物理を選ぶほど、大学の学科は少なくない。

 つまり、それなりに全国から似たような学生が集まって来たところというのを感じる学科だとつくづく思う。


 そうは言っても、大学の講義というものは高校の授業と違って、いきなりレベルの高いところから入ってくる。

 教壇では黒板に難しい式と何やらわからない説明が書かれ、何やらわからない専門用語が日常会話の様に出てくる。

 そこそこ生徒数はいるが、いつも同じ専門科目を選択しているので、同じ学科の学生は皆顔は知っていた……仲がいいかどうかは別として。

 皆それなりにわかったような顔をしてノートをとっているが、聞けば理解できてないという学生がほとんどだった……というか、優一の友人に理解できている学生がいなかっただけかもしれないが……


 同じ学科の中で比較的仲のよかった数人の中に、奈佐なさという女子がいた。奈佐なさは偶然であるが同じ大学学部学科で優一と同じ高知出身だった。高校は違うが、地方出身で、東京の大学で学科まで同じことは比較的少ない。奈佐なさは「名は体を表すというのだろうか」小さい頃から理科が得意で将来は宇宙関係の仕事にきたいという。


 あるとき仲の良かった数人と話をしていたとき、奈佐なさが夏休み実家に帰ったとき、少し不思議な体験をしたと話し始めた。

 それは奈佐なさと友人三人での体験だったが、久し振りに帰って行きなれた商店街を歩いていると初めて見るが、『一体いつからあったのだろう』と思う古いたたずまいの雑貨屋があった。中に入って少し買い物をして、町を回り、もう一度その辺りを通ったとき、その店がなかったという友達とも確認し合ったが、やはりあったはずの場所にその店はない。

 少し気味悪かったが、別に幽霊を見たわけでもないし、勘違いか、道を間違えているのか、その日は帰ったという。これがそこで買ったものと言って、フクロウのキーホルダーを見せてくれた。他の三人も同じものを買ったという。

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